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全てを奪われた日、異能喰いに目覚めた僕はすべてに復讐する  作者: 雷覇


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第14話:忍び寄る絶望

静まり返った廊下の先、

道場の一角。本来は客間だったその部屋に、カイザはいた。


襖の前で、アイリは一度立ち止まる。

心臓の鼓動が、いつもよりわずかに速い。


(……帰るなら今)


そう思った瞬間。


「どうぞ、お入りください」


中から聞こえた声は、驚くほど穏やかだった。


(気配を殺してたのに……気づいてた?)


少しだけ戸を開けると、

そこには座布団に正座し、静かに茶を啜っているカイザの姿があった。


「ご用件は……修行の相談でよろしいでしょうか?」


その言葉に、アイリの肩が跳ねる。


(やっぱり……全部、見透かされてる)


カイザはまるで古くからの知己と対話するような口調で続ける。


「あなたが迷ってここまで来たのなら、

それも無駄を見極めようとする力だと、私は思います」


アイリは息を飲んだ。

説得でも励ましでもない。

ただ、自分の中にある揺らぎを肯定された感覚が、胸の奥に残る。


「……みんな、あなたのことを信じてる。

だから私、変わってしまったのかなって思って……」


「いいえ」


カイザは首を横に振る。


「信じることと、委ねることは違います。

信じたいなら、自分で確かめればいい」


ゆっくりと立ち上がった彼は、木剣をひとつ手に取って差し出す。


「少し、型の癖を見て差し上げましょう。

あなた自身がどう在りたいかを決めるのは、稽古の後でも遅くありません」


言葉は丁寧だった。

だがその背後には、圧倒的な余裕と掌握の気配が、微かににじんでいた。


アイリはその場から動けなかった。


木剣を受け取る手が、震えていたのは――

恐怖ではなく、期待と不安が混ざった何かのせいだった。


稽古場に続く渡り廊下を歩いていたときだった。

ふと耳に届いた、木剣が交わる音。


(……誰か残ってる?)


夕方の稽古はとっくに終わっているはずだった。

そっと足音を殺して進み、開け放たれた障子の隙間から中を覗いた。


そこにいたのは――アイリと、カイザ。


「肘が入りすぎています。

剣を振るとき、あなたは守ろうとしすぎている。

だから、手が自分の方へ戻ろうとする」


そう言って、カイザがアイリの手にそっと触れた。

瞬間、アイリの身体がわずかに強張ったのが見えた。


だが彼女は逃げなかった。

むしろ、静かに息を吸い、頷いた。


(……なんで)


思わず、廊下の柱を握りしめる。

アイリは真剣な顔をしていた。

だがその瞳は、ユウの知っているものと、どこか違って見えた。


もっと冷たく、もっと遠くて――

けれど、どこか安らいでいた。


「その力みは、あなたが守ろうとしているに重点を置いているからです。もっと攻めの姿勢をみせなくては」


カイザの声は、驚くほど柔らかだった。

責めていない。

ただ、見抜いている。


アイリは一度だけ、目を伏せた。

そして、小さく呟いた。


「……そんなふうに、言われたのは初めて」


その言葉に、ユウの中で何かが砕けた。


(やめろ……やめてくれよ……)


アイリの口から、彼の名が漏れる。


「カイザさん……、私……」


その続きを、ユウはもう聞けなかった。

音もなく踵を返し、廊下を歩き出した。


でも、足取りは重かった。

肩も、背中も、妙に冷えていた。


(なにやってんだよ……アイリ……)


胸の奥がざわついていた。

怒りでも、嫉妬でも、はっきりした感情ではない。


ただ――

彼女の中で何かが変わってしまったという確信だけが、静かに突き刺さっていた。


(……やはり、来たか)


そのとき、稽古場の端、わずかな開口部に潜む気配に、

カイザは気づいていた。


ユウ。

焦りと疑念を胸に、またしても彼はこの変化を見ていた。

滑稽で、健気で、邪魔だった。

今はまだこの光景を見せるには早い。


稽古を止めることなく、カイザはそのまま後ろ手に手を回し、

ごくわずかな指の動きで合図を送った。

その合図を見逃さなかったのが、ユイだった。

物陰の奥、木の影から現れた彼女は、音もなくユウの背後へと回り込む。


「ユウくん……こんなところで何してるの?」


驚いて振り返ったユウに、ユイは首をかしげて笑った。


「ユウくん、ちょっと、歩かない? あの……外の空気、吸いたくなっちゃって」


ユウは少し驚いた顔をしたが、断らなかった。


ユイのの声には、優しさしかなかった。

だが同時に、何かを決めさせるような重さがあった。


「……そうだな。ちょっと散歩でも行くか」


それが、自分の意志だと信じたまま。


その様子を、カイザは一度も振り返らず、

ただ静かに言葉を続けた。


「それでは次の型へ移ろう。アイリ」


彼の声は変わらず柔らかかった。

だがその瞬間、道場から異物は完全に排除された。


あとは――

仕上げの時間だ。

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