表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを奪われた日、異能喰いに目覚めた僕はすべてに復讐する  作者: 雷覇


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

第13話:周りの違和感

「なあ、アイリ……最近、なんか変じゃないか?」


稽古の後、ユウはふとつぶやいた。

アイリは水を飲みながら、目だけで返事をする。


「……感じてる。私も」


特別な事件があったわけじゃない。

誰かが倒れたわけでも、喧嘩が起きたわけでもない。


むしろ、何もないこと自体が――おかしいのだ。


皆が、妙に仲がいい。

ユイ、カナ、シズカ、ユリナ……

あれだけ性格も立場も違ったはずの彼女たちが、最近はまるで同じ意志で動いているようだった。


言葉のトーン、歩き方、視線の交わし方。

どこか整いすぎている。それでいて、笑顔は自然で、口調もやわらかい。

だからこそ、不気味だった。


「誰かが命令してるわけじゃない。でも……同じ空気に染まってる」


アイリがぽつりとつぶやく。


「稽古も、掃除も、食事も。カイザさんが来てから、みんな変わった気がする。

でも変わってないように見えるから、余計に違和感を覚える」


ユウは頷く。

道場の壁は、以前より綺麗に磨かれていた。

備品の並びも無駄がなくなっていた。

誰がやっているかもわからないまま、すべて快適になっていた


まるで――何かに最適化されていくように。


何がどう変わったのか、まだ言葉にできない。

だが――明らかに何かが違う。


「カイザさんが道場に来てからだよな。でも一体何が変わったんだろう?」


その違和感だけを今は2人をだけが感じていた。

昼下がりの道場。

稽古が終わり、道着を整えていたアイリのもとに、

静かな足音が近づいてきた。


「……アイリ」


振り返ると、そこには母親のキサラが立っていた。

その表情が以前より柔らかく見えたのは気のせいだろうか。


「なに?」


「少し話があります。こちらに来て」


アイリは頷き、縁側に腰を下ろした。


「カイザさんのことです」


その名前が出た瞬間、アイリの背筋がわずかに強張る。

だが、キサラの口調に敵意はなかった。


むしろ、それはどこか敬意すら混じったものだった。


「彼は強い……技でも、氣でも。

ああいう男は、そういない。あなたもそう思うでしょう?」


「……うん。まあ、確かに」


本心ではまだ疑っていた。

だが母親に対して否定から入るのは、気が引けた。


「最近、皆が少しずつ……彼に教わる時間を取ってる。

私も最初は警戒してたけど、考えを改めた。無駄がない。見えているものが違う」


「それって……」


キサラがアイリの目をまっすぐに見つめて言った。


「アイリ、お前も、一度……カイザ殿に稽古をつけてもらうといい。

たぶん、何か掴めると思う。あんたには、それが必要かもしれない」


その言葉に、アイリは返事ができなかった。


勧め方は自然だった。

押しつけがましくもなく、命令でもない。


ただ、心から良いと思っている者が、

大切な誰かにそれを共有したくなった。そんな雰囲気だった。


だが、それが逆に――ぞっとした。

まるで、ほんの少しだけ遠くから話しかけられているような距離感。


「……考えとくよ」


そう返すのが精一杯だった。


キサラはそれ以上何も言わず、ただ頷いて立ち去った。

背を向けた彼女の肩越しに、何かを果たした者の安堵がにじんで見えた。


稽古場の隅、夕陽が畳を染め始める時間。

アイリは、まだ一歩も動けずにいた。


行くべきか、行かざるべきか。

いや、そもそもなぜ迷っているのかすら、はっきりとわからなかった。


キサラの言葉が頭から離れなかった。

「きっと、何か掴めると思う」


それは決して強制ではなかった。

押しつけられたわけでも、無理にねじ込まれたわけでもない。


でも、カイザと向き合うというのは、

この道場で、確実に何かが変わりつつあるという事実に、足を踏み入れることを意味していた。


目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、最近の皆の微笑み。


自然に見える。

けれど、どこか均一で、どこか静かすぎる。


(私だけが、外に取り残されてる?)


そんな思いが、一瞬、胸をよぎった。

それが恐ろしかった。


まるで、「みんなが先に楽になっているのに、自分だけが重荷を背負っている」ような感覚。その正体が孤立と名づけられるものだと気づく前に――


アイリは、立ち上がっていた。


足が、自然に廊下へ向かっていた。

頭では止めようとするのに、身体が先に動いている。


(……聞くだけ。ちょっと話をするだけ)


そう言い聞かせながら、

カイザの部屋へと続く廊下に足を向ける。


心の中の声は、確かに警告を発していた。

でもその声よりも――

一人で残される恐怖のほうが、わずかに勝っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ