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ー山奥で、俺はまだ幼い少女を拾った。
『お前…名前は?』
『………い』
『ん?なんて?』
『な……い』
『………そうか』
俺は…そう言ってから、俺が淹れた珈琲のカップを彼女に手渡した。
『これは…?』
『珈琲だ。………よくよく考えてみたら…ガキにはまだ早いだろうし、嫌なら他の飲み物を……』
しかし、その後…彼女はそのホットな珈琲を一気に喉に入れた。
俺は…あまりにも急だったので、彼女がやけどしないか…心配した。
しかし、その時。
彼女は…俺の前で、初めて。
……
笑ってくれた。
嬉しそうに。…微笑んでくれたんだ。
『うん…美味しい。お父さん』
『お父さん…?俺は…』
『ううん。あなたは、お父さんだよ』
『………』
俺は…思わず、沈黙した。
『また会えて嬉しいよ!お父さん!!』
…そして、俺は…この子を早く、元の親の元へ返してやらないといけないと、思った。
彼女から聞いた話によると、その元の親は優しい親だったらしいから、きっと……捨てられたなんてことはないだろう。
なら……きっと親とはぐれてしまったんだろう。あの山で。
ーそんなことを考えていると、その少女は俺にこう質問してきた。
『ねえ…お父さん』
『どうした?そんな神妙な顔をして』
『……やめなよ』
『…え?何を?』
『ねえ、お父さん。竜滅士やめなよ』
ー俺は…その瞬間、背筋に寒気を感じた。
だってよ。
…なんで、何も知らないはずのこの子が……俺が竜滅士であることを知っている…?
しかも、恐らく…いや、確実に。
これは…ただの勘ではない。
勘で当たるものではない。
何故なら…竜滅士はその世界に一人しかいない…龍王を倒す役割を与えられた勇者のような存在なのだから。
……いや、考えすぎか。
だって、俺は勇者みたいなもんだし、俺の名前と顔は…そこらじゅうに知れ渡ってるもんな。
ーまあ、"歴代最弱の竜滅士"として…だがな。