5話:飛空士になるために2
コンッコンッ
俺は呼び出された執務室のドアをノックする。
「空いているよ」
中から父の声がする。緊張しながら部屋へはいると父だけではなく母のマリアもその場にいた。母は俺たち子どもに優しく、基本的に自由にさせてくれるが厳しいときは厳しく、この家で一番怒らせてはいけない存在である。
「シエル、飛空士になりたいそうだな」父がそう聞いてくる。
「うん、飛空士になって空を自由に飛び回りたい!」
反対されると思い先に本気だということを知ってもらうため、決意を込めて父に言う。
「そうか…貨物や人を運ぶ大型の飛空艇乗りではだめなのか?飛空士は危険だぞ。覚悟はあるのか?」
「覚悟してるしその危険を少しでも減らすために勉強もしっかりする!」
「そうか…」父が腕を組み数秒考えたのち母の方へ眼を向ける。
「はぁ…まったく本っ当にこの血筋は飛空艇のことになると目がないんだから…」
母が片手でこめかみを抑えながらそう言う。
「え?」
この血筋は飛空艇のことになると目がない?どういうことだ?と考えていると父が笑いながら答える。
「私の父と本来アドラク家を継ぐはずだった従兄も飛空士だったんだ。父は目の病気で視力がさがるまでずっと空を飛んでいて当時は空軍のエースだったし、従兄も33年ほど前のミスト連合国との戦争の時に戦死するまで空軍で期待されていたルーキーだったんだよ。そして実は私も昔は飛空士を夢見ていてね。さすがに万が一の時アドラク家の血を繋ぐものがいなくなる可能性があるから許されなかったけどね。」
「そうなの!?」
アドラク家のいろんな人が飛空士になっていて温厚そうな父までも飛空士を目指していたと知って驚愕する。
「それだけじゃなく100年ほど前の東大陸大戦の時に起きた戦争でこの大陸で初めて飛空艇を使った戦いで、飛空艇に乗っていた飛空士のうちの一人もアドラク家の人間だしね」
「この血筋はなぜか飛空士を目指す人が多いから、生まれてくる子たちも飛空士になりたいと言い出す子がいるかもしれないと思っていたのだけど、上の子たちは誰も言い出さないから安心していたのだけど…末っ子のあなたが言い出すとはね…」
母が困ったような顔でそう話す。反対されるのかと身構える。
「でもまあここ最近のシエルの頑張りを見ていると、本気で飛空士を目指しているようね…私は飛空士になるのは危険が伴うから賛成はできないけど反対もしないわ。あなたに任せるわジル」
「よかった。飛空士になる事は自分もかつて夢見ていたから否定はしたくなかったんだ」
「てことは…?」
「ああ。飛空士になることを認めよう。ただこれからもしっかり勉強をがんばって、首都の魔法学校に入ることが条件だ。あそこには飛空士向けのコースもあるしね。わかったかい?」
「…はい!!」
「よかったわね…頑張るのよ」
「うん!ありがとうお母さん!」
一族の話など驚くことがあったが、認めてくれてよかった。今まではこの地方の軍学校に行くつもりだったが、首都の魔法学校を目指すこととなった。万が一にも落ちないようにこれからもしっかり頑張ろう。
それからの日々は8歳になるまで勉強と魔力圧縮とサラに魔法を見せてもらうことに時間を使い、魔力圧縮により俺の魔力は平均の15倍近くにまで成長していた。
8歳になってから魔法学校の入試のある10歳になるまでは勉強と、魔力圧縮の代わりに魔法の訓練と実家の近くにある飛空艇の工房で、メカニックに混ざって飛空艇をいじったりしてあっという間に日が過ぎて行った。