1話:転生
処女作です温かい目で見守ってください。
投稿ペースは気まぐれです。
キュオーーーン
高い笛の音ような何かをこすり合わせたような音が頭の中に響いてくる。
「うるさい…」思わずつぶやき目を開ける。
人が気持ちよく寝ているときに何の音だ…そう思い目を開けると澄んだ青空が目の前に広がる。
視界の端に飛行機雲が見えた。きっと音の正体はあの飛行機だろうと気づき、体を起こした。
「どこだここ?」あたりを見回すと小高い丘に広がる草原で寝転んでいたようだ。
確か昨日は学校の試験が終わって家で友人とゲームで遊んでいたはずで外出をした覚えはない。こんなところで寝ているはずがないし、家の近くにこんな見渡す限りの草原が広がっている場所などなかった。
「シエル様~、どこへ行かれたのですか~」我が家に勤めるメイドのサラが俺の名前を呼ぶ。
いや、何かがおかしい。俺の名前はシエルではない…もっと日本人らしい名前だったはず…なのになぜかシエルが自分の名前だと自覚してしまう。
「俺のもとの名前はたしか…」
思い出せない。確かに日本で16年間生きてきた記憶はあるし友人達の顔や名前は思い出せるのに自分の顔や名前に関係する記憶がどうしても思い出せない。
もっと思い出そうとすると激しい頭痛がする。同時に経験していないはずのシエルの記憶や知識があふれ出してきた。段々と意識が朦朧としてきた。
「シエル様~お勉強のお時間ですよ~」
サラの声がどんどん遠ざかり、視界が暗転して意識を失った。
◇
「んんぅ……」
目が覚めた…相変わらず頭が少し痛かったが何とか体を起こしてあたりを見回すとそこは、赤を基調に質素でありながら美しい装飾が施された部屋のベッドの上だった。そして俺は地球とは違うこの世界で生きてきたシエルとしての記憶を取り戻していた。
俺の名前はシエル・アドラク。飛空艇の開発、販売を行っているアドラクグループの会長ジルベール・アドラクの三男でありまだ6歳である。
「これはもしかして異世界転生ってやつ…なのか?」
今の状況は日本でたまに読んでいたラノベ小説でよくある設定である異世界転生というものによく似ている。俺も異世界転生して好き勝手やってみたいと考えたことはあったが…
「まさか本当になるとはな…」
実際に転生してみると日本に残してきた人たちや、安全な日本とは違う戦争が絶えないこの世界で生きていけるのかという不安が大きい。
しかし不思議なことに元の世界に戻りたいという気持ちは湧いてこなかった。なぜならこの世界ではなれるのだ。
「飛空艇乗りに…!」
小さなころは空を見上げることが多かった。鳥のように羽ばたいてみたいとか、自由に空を駆けてみたいとか、男子ならかなりの人数が一度はあこがれるであろうパイロットに俺もなりたいと小さなころは思っていた。
小学校を卒業すればそんな夢かなうわけはないと理解したし、中学校を卒業すればそんな夢を見ていた事すら忘れてしまっていた。だがふと空を気持ちよく飛ぶ鳥を目にしたとき思い出すこともあった。
空を飛びたいと。
そんな淡い夢をこの世界ではかなえることができる。俺の心は今までにないぐらいワクワクしていた。