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真似小僧

作者: 水無 水輝

善次郎(ぜんじろう)は雑木林の中を歩いていた。既に太陽が傾き、僅かな光のみが善次郎の視界を照らしていた。


善次郎は転寝(うたたね)をしていた自らを恨んだ。早くに山を降りていれば、もうとっくに家に着いていただろうに、と。


ざわざわと木々が揺れる音が聞こえる。鳥たちの声があちらこちらから聞こえる。川の流れる音が聞こえる。


善次郎は明かりを持っていなかった。それ故か、少しづつ早歩きになった。


地面を蹴る自らの足音が聞こえる。どこか遠くで野良犬の吠える音が聞こえる。何かも分からない虫の声が聞こえる。


そして誰かの、足音が聞こえた。


善次郎は恐怖した。そして足を止めた。森のざわめきは一層も二層も増し、その足音は次々に増えているような気がした。


日はすっかり落ちてしまった。あたりは殆ど見渡せない。獣の鳴き声が近くで聞こえた。


善次郎は(おもむろ)に歩き出した。ここにいて縮こまっていてはいけない。一刻も早く家へ帰らなくてはいけない。


そんな時だった。麓の方から「おーい」と呼ぶ声が1つはっきりと聞こえた。善次郎は人の声が聞こえたことで安心し、すぐに返事をしようとした。


しかし全く運の無いことに、何かに躓いて転んでしまった。


「ぐぇ」


そういう呻き声だけが出た。しかしそれは善次郎のものでは無かった。


あたりは途端に静かになった。善次郎は不思議に思って足元を見ると、そこには小さな小さな小僧が目を回していた。


あ、こいつは真似小僧(まねっこぞう)だ。


善次郎は郷党から聞いた話を思い出した。山の音を真似して人を怖がらせる奴だと。しかしなんてことは無い。それ自体は非力な小僧なのだから、と。


善次郎はなんだか怖がっていたことが馬鹿らしくなって、思わず笑い出してしまった。山に善次郎の笑い声が木霊(こだま)した。


善次郎はその後、無事に家に帰ることが出来たそうな。しかしその後日、村にて「山から不気味な笑い声が聞こえる」という噂が立つことになったとさ。

沢山の声や大きな声は、案外小さな存在が威勢を張っているだけかもしれません。

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