はだかんぼの赤とんぼ
夕焼け好きです。
夕焼けを飛ぶ赤とんぼを あたしは見てた
だけど あたしはあんたのこと
この夕焼けのしたでしか見てなくて
赤く染まったそのからだは
もとから赤いのに 夕焼けの赤を重ね着したのか
もとはちがう色に 夕焼けの赤を上塗りしたのか
そこんとこ ちょっとわからないんだ
まっぴるまのひまわりのよこを
あんたが何色で飛んでたのか
見てなかったもんだからさ
そいつをたしかめてやろうって
夕焼けが ほてりをおさめるまで
あたしまで ほほを赤くして待ってたんだけど
沈みきるころには 宵闇に染まってて
あんたのもとの色をたしかめるまえに
そのすがたは黒く溶けていった
あぁ ちくしょう
これじゃあ もしあした
まっぴるまのひまわりのよこを
あんたが飛んでるのを見たって
もとが何色かわかんないあたしには
あのとんぼがあんたかなんて わからないじゃないか
あんただって
グレイのスーツに 黒ストッキングで仕事モードの
まっぴるまのあたしを見たってわかんないだろうから
そこは それで おあいこかもしれないけど
だったらいいや
まっぴるまはおたがい 知らない顔どうしでも
あんたが夕焼けを飛ぶときだけは
こうして みじかい逢瀬を楽しめる
あたしだって 私服で街を歩いてて
仕事関係の人間にきづかれないこと わりとある
だから いいんだってば
まっぴるまはおたがい 知らない顔どうしの
夕焼けのしたで みじかい逢瀬
あんたがほんとは何色なのかなんて
あたしはちっともかまいやしないし
その色があってこそ この夕焼けの赤を
重ね着だか 上塗りだかしたあんたの赤は
こんなに素敵な赤なんだから
夕焼けの赤をひっぺがした はだかんぼの赤とんぼ
興味がないわけじゃないけど
知らなくちゃいけないってわけでもないし
興味があるからこそ
知らなくていいままのものもある
はだかんぼの赤とんぼ
あんたは あたしのスーツ姿に興味はないのかしら?
私服だと気づかない。