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花屋elfeeLPia シリーズ

花屋elfeeLPia 恋はいりませんか?  第一話 紫蘭の物語

作者: 羽柴花蓮
掲載日:2022/09/20

小さな花屋elfeeLPiaにはからくりがある。花の妖精が花言葉で恋を成就させていく。その相棒に小さな店員向日葵が選ばれている。この花屋の跡継ぎとしても公言され、日々、向日葵は花言葉を成就するべく接客している。花言葉があるだけ恋の形がある。これから向日葵と花言葉の物語が始まる。

花屋elfeeLPiaシリーズ 第一話 紫蘭の物語


 ここに一軒の小さな花屋がある。花屋elfeeLPia。妖精の感じられる場所という造語だ。人は信じない。妖精という存在を。だが、この花屋にはいるのだ。店主には見える。たまに純粋な子供が見るがいたずら好きな妖精にいじめられて泣いて逃げ帰る。

ただ、一人だけ動じない子供がいた。近所に住む向日葵だ。向日葵はいじめられても、やり返した。やり返した後、にっこり笑って言ったのだった。

「まだ、する?」

 妖精も白旗あげて今に至る。


 そんな花屋に一人の女性がやってきた。身なりのきちんとした大人の女性だ。仕草ひとつとっても優雅に見える。向日葵もぽーっ、と見とれている。

「ひまちゃん、接客」

 店主が促す。はっ、と我に返った向日葵は女性に近づく。

「なにかお探しですか?」

 え、と女性は向日葵を見下ろした。

「遊び場にする代わりにバイトしている向日葵です。お姉さんは?」

 客の大方を魅了する天使の笑みを浮かべて向日葵は言う。

「斎木美咲です。病院のお見舞いに持って行く花束が欲しいの」

 儚げな表情を浮かべて女性は言う。そのとき、紫蘭の精がすっと美咲の肩に乗った。決まった。向日葵はにっこり()笑う(らう)。

「花束よりもこちらの紫蘭の鉢がいいですよ。病院は根がつくといって嫌われますが、お家に持ってる分にはいいと思います。紫蘭の花言葉は『あなたを忘れない』、『変わらぬ愛』です。美咲お姉さんにぴったりですよ」

「蘭って高いし、難しいでしょう?」

「値はすごーく安いんです。ネットで見たらびっくりしますよ。この紫蘭は日本や中国が原産で、丈夫なんです。初心者にも扱いやすい花ですよ」


“ちょっと。扱いやすいってなによ”


 紫蘭の精が向日葵にわめく。素知らぬふりして向日葵の営業は続く。

「じゃ、花束と一緒にどうですか? 五月ならピンクのバラの花束など好まれますよ?」

「そうね。それじゃ、お二つともいただこうかしら?」

「ありがとうございます。美咲おねえさん」

「向日葵ちゃんもありがとうね。ひまちゃんって呼ばせて。またちょくちょく寄るから。ここは小さいけどとっても素敵なお花屋さんね。可愛い店員さんもいますし」

「どうも。店主の一樹です。向日葵はそれはとっても優秀な店員さんで、私より人気があるんですよ。お客様の好みの花がよくわかる子でしてね・・・っ」

 向日葵が一樹の足を踏んづけていた。妖精が見えるなどと言いかねないからだ。減らず口は閉じろ、と言う足だ。どっちが偉いのか。

妖精を味方につけている向日葵に、一樹は頭があがらない。もっとも妖精を召喚しているのは店主の方だが。

「ありがとうございましたー」

 鉢植えと花束を持って女性が去って行く。これからは彼女次第だ。花屋にできることはここまで。紫蘭の精をつけただけだ。女性は気づかぬだろうが、それでいいのだ。紫蘭の精もにこにこと肩の上に乗って去って行った。


“もう、あの子は行っちまったかい”


 古参の妖精が言う。


“君にはここでまとめ役をしてもらわないとね。いつもお世話ありがとう”


 一樹が礼を言うと古参の妖精はすっと店内に戻っていった。


 一方、言われるままに鉢植えの苗を買ったはいいがどうすれば、と、美咲はネットで調べる。本当に安い値段で売られていた。育て方もある。それを参考にすれば良いのだろう。とりあえず、今は花が咲く時期らしい。紫の可憐な花が咲いている。その後のことはそのときだ。日当たりを好むらしいが半日陰がいいとある。そっとカーテンの側に美咲は紫蘭を置いたのだった。それから花束を抱え直すと、美咲は家を出た。

「ピンクのバラでもいいのよね?」

 バラは香りが強いがNG花束の中にはなかった。可愛らしくアレンジしてもらったのでちょっと窓辺に置くにはちょうどいいだろう。美咲は、病院へ行くバスに乗り込んだのだった。


 病室の前でノックする。はい、と年を重ねた中年女性の声が中から聞こえた。

「おばさん。いらしてたのですね。この花束、窓辺においていいですか?」

「美咲ちゃん。いつも悪いわね。いつまでもあなたを待たせて。本当に他に好きな人はいないの?」

 美咲の婚約者だった達紀は数年前、交通事故に遭い、現在も眠っている。ただ、植物人間ではないらしい。まだ、救いはある。そう思うと達紀への想いは消えなかった。

「せめて、この目で達紀をみられたらいいです。それからの人生は達紀のものですから」

 目を覚ましていても覚えていないかもしれない。障害が残るかもしれない。声も出せないかもしれない。それでも良かった。達紀が生きていてくれれば。瞼を開け、自分を一度だけでも見てくれたら・・・。

 じっと達紀の顔を見つめる。不意にハンカチが出された。いつの間にか美咲は泣いていた。

「すみません。泣くつもりはなかったのですが・・・」

「いつものことよ。私だってこの子の顔を見ていれば涙がでるわ。母さん、と今にも呼んでくれそうで・・・」

「美鈴おばさんこそ、泣いてるじゃないですか。ハンカチのお返しです」

 借りたハンカチは洗濯して返すため、自分のハンカチを達紀の母へ渡す。

「ありがとう。美咲ちゃん。あなたがいてくるから私達家族も待っていられるのよ。でも、今も達紀の事が好きなの? 他に好きな人ができたらその人と結婚していいのよ」

 その言葉に美咲はにっこり()笑う(わう)。

「私の心をつかんで離さないのは今も昔も達紀だけです。この目で達紀の目覚めを見ないまま他の人なんて考えられませんわ」

 そう、と言って達紀の母、美鈴はまた達紀に視線を戻した。美咲も椅子を引っ張ってきて達紀を見つめる。あの輝く笑顔がもう一度見たい。それまでは・・・。そう思ってから向日葵の言葉を思い出した。「あなたを忘れない」、「変わらぬ愛」という紫蘭の花言葉。あの花に祈ってみよう、となんとなく美咲は思ったのだった。


 帰宅して、簡単な料理を作る。体を壊すわけにはいかない。達紀が原因で体を壊せば、二度と会えない。美鈴はそれを見越して食事だけは取るように口を酸っぱくして言っていた。時折、惣菜をもらうときもある。美鈴には美咲はもう娘のようなものだった。美咲ちゃんはもううちに嫁いできたお嫁さんと同じよ、そう言った美鈴の声が今も聞こえてくるようだ。

「美鈴お母さん。今日も元気にいただきます」

 そう言って美咲は今日ももらった惣菜と自分の作った簡単なおかずを食べ出したのだった。夕食終えて、もう明日は仕事だと思って支度を調えていると紫蘭の鉢が目に入った。

「いつまでもベランダ近くじゃ、嫌よね?」

 紫蘭の鉢に語りかけながら手に取る。ふっと達紀の顔が浮かんできた。

「私、おばあさんになってもあなたを忘れないわ。紫蘭さん、どうか達紀を元気にして。私はどうなっても・・・。いえ、私も元気で一緒に笑い合えるようにして。お願い」

 美咲は紫蘭の鉢に祈る。


“わかったわ”


「紫蘭・・・さん?」

ふっとあたりを見る。なんとなく紫蘭が答えたような気がしたのだ。こう言うと信じられないのだが、美咲の一族は声なき声を拾ってきた一族である。晴美も美希もそういった分野で就職している。晴美はもっとも夫が所長だからなのだが。それはこの際、どうでもいい。美咲には何年かに一度不思議な声を聞く時があった。


“私の命をあなたにあげる。これから満月の日に祈って。命が満ちるように、と”


「紫蘭さん、それじゃぁ・・・」


“大丈夫よ。また別の紫蘭の精に生まれ変わるだけ。私の役目は花言葉を成就させること。あなたが望むなら望むようにするわ”


「ごめんなさい」

 なぜか美咲は泣いていた。命を命であがなうことしかできないなどとは。


“何、泣いているの? これから満月の日には祈ってもらわないと行けないのよ。ほら。今日も早速、満月が昇っているわ”


 言われてベランダに出ると綺麗な満月が夜空に浮かんでいた。紫蘭の鉢を持ってベランダにでる。少し寒い風が吹いていた。もうすぐ夏だというのに夜気は冷たかった。紫蘭の鉢を持って満月へ祈る。

「どうか。達紀を目覚めさせてください。そして、無事に退院出来るように・・・」

 美咲は一生懸命祈っていた。ふっと瞼を開けると紫蘭の鉢が少し光っているように見えた。慌てて目をこすって凝視する。そのときには光は消えて亡くなっていた。

「紫蘭さん?」

 もう声は聞こえなかった。


 それから、三度、満月の夜に紫蘭の鉢を持って美咲はベランダで祈った。いつの月も輝きを増しているように思えた。満月の命が達紀の命につながるよう、美咲は一生懸命祈った。

 そんな日を送っていると仕事中に、美咲のスマートフォンに電話が来た。たまたま暇な仕事をしていた美咲はすぐに出られた。

「達紀が目を覚ましたの! あなたを呼んでいるわ。会社から来られる?」

「行きます! 早退してきます!!」

 電話口に叫ぶように言うと上司に早退の旨を伝え、取るものも取りあえず、ひっつかんでやってきた。

「達紀!」

 病室へ美咲は駆け込む。

「み・・・さき?」

 達紀が呆然とみている。

「そうよ。わからないの?」

「いや・・・そんなに髪の毛長かったか?」

「願掛けよ。達紀が目覚めたらまた好みのショートカットに戻すから」

 いや、と達紀は言う。

「そういう、美咲も可愛い」

「まぁ」

 家族の面々の前で堂々と甘い恋人の言葉を言う達紀が信じられない。

「誰かがずっと、俺に目覚めるように言っていたんだ。美咲のような子だったけど、違った。誰の声だろう」

「おいおい。臨死体験か?」

 達紀の兄が突っ込む。それを無視して美咲は言う。

「紫蘭さんよ」

「紫蘭?」

「鉢植えの蘭よ。花言葉は変わらぬ愛、あなたを忘れない、よ。紫蘭さんが命をあげるって言ってくれたの」

 美咲から不思議な話をよく聞いていた達紀は突っ込む兄や弟の言葉を無視して美咲の手を握った。

「俺。これからどうなるかわからないけど、プロポーズの言葉は有効?」

「もちろん。有効よ! あなた以外に誰がパパになってくれるの?!」

「パパ?? もう子供かよ。ちょっとは甘い時間を過ごさせてくれ」

「いいわよ。思いっきり甘えるから。達紀が眠っていた分だけ思いっきり甘えるから」

「美咲・・・」

「達紀・・・」

 いい雰囲気になったところで、声が割り入った。医師である。

「あ。すみません」

 顔を真っ赤にして美咲は病室をでる。美鈴達両親は部屋の中だ。説明を受けているらしい。

「美咲さん。やっと義妹だね」

 兄の昌紀が言う。

「昌紀お義兄さん。これからよろしく。お手柔らかに。と。私、用を思い出したので一度家に戻ります」

「じゃ。またね」

「はい」

 美咲は部屋に置いている紫蘭の鉢を早速探した。紫蘭はしおれていた。水もたっぷりあげていたし、肥料もちゃんとあげていた。今朝までは元気だったのに。


“命をあげる”


 最初に聞いた声を思い出す。

「ありがとう。紫蘭さん。またあなたに会いに行くわね」

 そう言って紫蘭のしおれた葉をそっとなでた。

もう一度、あの花屋に行きたい。その頃は達紀も元気になっているだろう。今度も紫蘭の鉢を買うつもりだ。あの少女はどうしているだろか。そんな事をつらつら思いながら、達紀に食べさせる料理を作り始めた美咲であった。


 紫蘭の一つの物語が一つ終わる。だが、また別の紫蘭の物語が始まるだろう。あの妖精の居場所はそういう所なのだ。花屋elfeeLPiaはそんな花屋だった。


花屋elfeeLPiaシリーズ、なろうで始めてみました。note内での掲載でしたが、こちらにも置かせていただくことにしました。これから短編が34まで並びます。また推敲をすすめて加筆修正版として掲載していきます。よろしくおねがいします。

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