はじめての断罪
「マチルダ•デイヴィース!アニカ嬢への残虐非道な嫌がらせの数々。許すわけにはいかない。お前との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ只中。観衆の目の前で私を糾弾したのは、他ならない私の婚約者。この国の第一皇子のフィリップ殿下であった。
その横には怯えた表情をしたアニカがいる。アニカは平民の出自にも関わらず、才覚をかわれ、この王宮学校に編入してきた特待生だ。そして殿下は彼女に入れ上げている。確かに彼女に嫌味をいったり物を隠すような嫌がらせはした。身の程を思い知れと。ただそれはひとえに殿下の気持ちを取り戻すためにやったこと。身を引けばすぐにやめるつもりだった。
「お待ちください!殿下……私は」
「黙れ!お前に発言権はない。貴様は俺の未来の花嫁を傷つけたのだ。死をもってアニカに詫びろ!」
頭が真っ白になった。たかが小娘に嫌がらせしただけで死刑だなんて。
「連れて行け刑吏」
殿下は静かに告げ、数人の男に抑えられ私は会場を追い出される。
「嫌!嫌だ!やめて!もうしません!アニカを虐めたりなんか!殿下……殿下お許しください!」
閉ざされていく扉の隙間から。遠くにいる殿下が見えた。
柔らかな笑顔。コバルトブルーの瞳にはアニカが映っている。私が欲しかった。ずっとずっとその笑顔を向けてもらえる日を夢見て辛い妃教育にも耐えてきたのに。全て無駄だった。
瞬間。殿下と目があった。
まるで汚いものでも見るかのような嫌悪に満ちた瞳。
その瞬間に。私の恋心も死んだ。
馬鹿なことをした。小娘一人排除したところで、殿下の寵愛なんて最初から望めるはずもなかったのに。
こんなことなら嫌がらせなんて最初からしなければよかった。
死刑執行日。
公爵令嬢の公開処刑だというのに見に来たもの好きの民衆は数えるほどだ。
王宮からは祝福の音楽と喧騒が聞こえる。
殿下は私の処刑日と戴冠式兼結婚式を同日にしたらしい。
そりゃ皆、不敬と思われたくないのなら結婚式の方へ足を向けるだろ。なんたって元婚約者を容赦なく吊るような極悪非道の冷酷王だもの。
処刑台の足元の板が外れる。
首が吊られる瞬間まで私は後悔した。
もしもやり直せるなら絶対にアニカを虐めたりなんかしないのに。