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11.宇宙へ 2/2

——艦隊の光点が消えたな?


「回収部隊はどうなった?」


 芙蓉正規軍の白い軍服の胸に幾つも勲章をつけた士官が部下に確認を取った。


「ハッ、確認を兼ねて遠隔操作室に使いをやりました。 まもなくパイロットを連れて戻ってまいります」


 やりとりの間に指令室にパイロットの一人がたどり着いた。

 しかし、パイロットは自力で歩ける状態ではなかった。


「もっとまともなヤツはいないのか!」

「申し訳ありません。 起きたのがこの者だけでした。 他は皆、昏睡状態です。 医師によりますと、ダイブ中に端末から受けたフィードバックの影響と思われます」


 勲章が重そうな士官は焦っていた。


 近衛師団である自分が来ている以上、無様を晒すわけにはいかない。

 渡水わたみず家の当主と、その取り巻きの一部、それに《《一連の件》》に関わった要人達も何名か《《視察》》に来ている。


 大した武装のない技術施設を略奪するだけの、簡単な仕事のはずだったのだが……明らかに様子がおかしい。


 いつも一般航路でやっていること——臨検で油断させたうえでの不意打ちによりターゲットを沈黙させ、ドローンとレイバロイドでの船内の戦闘員の掃討と、人員を含む戦利品の運び出し。

 このパターン化されたルーチンワークの履行に、戦闘訓練を受けていない人員一名の確保が加わっただけのはずだ。


 本当に全滅したのならすぐに追撃隊を出さねばならない。

 大義名分でゴリ押しているとはいえ、冴澄領を統治下においた後のこともある。

 実効支配を完了する前に、こちらの行動についての情報が漏洩する事態は避けたい。

 ちょっとした小遣い稼ぎで躓くわけにはいかないのだ。


 それにしても、パイロットは何かブツブツとつぶやいているだけで全く要領を得ない。


「もう良い! こちらで確認する。分析する前で構わん! 記録映像を出せ!」


 指令室内の人員が速やかに行動を開始する。


 正面のスクリーンの画面が九等分され、それぞれの戦艦がメインカメラにとらえた映像を映し出す。

 各画面の脇には、それぞれの艦が持つレーダーを代表とした探知装置群がとらえた情報も同時に表示されている。

 気の利くスタッフがいるのだろう。


 使い捨ての人形に貸した戦艦。その前に一機のドラゴンが現れた。

 人形との会話を聞く限り、今回のターゲットである実験動物が乗っているようだ。

 玩具を手に入れた実験動物ごときが、何か勘違いをしているようだが、千年前の原始人にできることなどたかが知れている。

 やはり、九隻の戦艦が消えた原因は、施設の方の防衛システムが想定外の戦力を持っていたからだと考えるべきだろう。

 

——そろそろか。


 予想通り、人形を無視してパイロットが戦闘を開始した。


——実験動物の玩具とはいえ、性能は優秀なようだ。


 初期の牽制攻撃だとしても、戦艦の砲撃を腕の一振りで無効化できる所を見ると、あの大きすぎる腕に何か仕掛けがあるのだろう。


「……え?」


 ドラゴンが魔術をランタイムした。


 どうやらただの玩具ではないようだ。

 間違いない。あのドラゴンには賢者の石が組み込まれている。


 魔法という新しい物理体系を機械に落とし込むには、賢者の石を組み込んだ回路が必要不可欠なのだ。

 しかし、賢者の石の希少性から、それを組み込んだ機体を前線で見る機会は少ない。


 賢者の石の産地だからこその無駄な使い道なのだろう。

 この領が再び芙蓉国に統合された暁には、このような愚行は改めさせなければなるまい。


 ドラゴンが作り出した魔法陣から巨大な剣が出現した——ドラゴン本体の倍の長さだ。


「次元収納魔法だと……? しかも、なんだ? あの容量は?」


 頭が理解する前に、最初の一隻目が沈黙させられた。


 まあ良い。

 戦闘訓練を積んでいない雑魚の艦だ。 もとより数に入っていない。

 ここは密集して、一気呵成に攻撃を浴びせれば、防御力に特化した機体であってもひとたまりもあるまい。


「……は?」


 ありえない。


 小型艦とはいえ戦艦一個中隊だ。 それなり以上の戦力があるはずなのだ。

 支援機を積んでいなかったとはいえ、普段から武装した護衛艦を伴った民間船を獲物に仕事をしているパイロットが手も足も出ないというのか。 それもドラゴン一機にだ。


 戦闘中の短距離ジャンプだと? イカレてるのか? 

 目標座標にミサイルの一発でも通過したらどうするのか。

 それ以前にジャンプにエネルギーを割り振った後の行動はどうするのか。



 通常、エネルギー兵器の効率的な運用のために、機体にはコンデンサーのような機構を置き、一定量のエネルギーを常に溜め続けながら活動をする。

 これは、ジェネレーターの最高出力は一定であるが、これに対して戦闘の局面ごとの必要エネルギーの変化が大きいからだ。


 戦場ではこのエネルギーの要求を常に満たさなければならない。


 高いエネルギーが必要な時、常にエネルギーがプールされていれば、たとえ、必要なエネルギーがジェネレーターの出力を超えていたとしても、溜めてあったエネルギーから必要な分を融通できる。

 コンデンサーに類する機構は、そのための物である。



 これとは別に、ジャンプ航行には、その機構のジャンプ可能範囲内であれば、消費されるエネルギー量に距離による差は生じない、という特徴がある。

 つまり、ジャンプ航法においては行ける範囲内であれば、近かろうが遠かろうが必要なエネルギーは変わらないのだ。


 そして、ジャンプに使用するエネルギーは通常一回でコンデンサに溜め込んだエネルギーをすべて使い切るのだ。

 そんな機動を初手で使うなどありえないし、その後、すぐに戦闘行動を起こせる機体など、実現するには大型戦艦以上のジェネレーターが必要になる。


 しかも、戦艦一隻を棍棒代わりに振り回すなどという芸当など聞いたこともない。


 慣性制御が働いているにしても、そのための膨大なエネルギーをどこから捻出しているのか。


 現在、戦闘に使用するエネルギーは電気や魔力を始め数々ある。

 そして、その発生メカニズムも多岐に渡る。


 しかしこの士官が知る限り目の前の事態を引き起こせるエネルギーも、その発生のための機関も聞いたことがない。


 指令室ないに言葉を発するものがいなくなった。


 士官も口を開けたまま呆然とスクリーンを凝視している。

 ここにいる全員が同じような表情をしていた。


 それは、生き残った戦艦がジャンプ航行の準備をしながら《《真直ぐ》》本陣に向かっている最中さなかに、映像が消えてしまった後も続いていた。


 二隻分の映像が同時に切れたことから考えるに、後方から大火力のエネルギー体をぶつけられたのだろうことは容易に推察できる。



 室内の静寂は、突然のアラーム音と、観測員の緊張を含んだ声に断ち切られた。


「前方より高エネルギー体の接近を確認しました。着弾まで後三百」


 観測員のカウントダウンが続く中、士官は今回の任務を割り振られた自分の不運を呪っていた。

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