10.巣立ちの時
「晶さんもアンドロイドだったんだねぇ。 ジンバさんもアンドロイドだったりする?」
「あの穀潰しは人間よ? あんなのがアンドロイドだったら、 自販機の段階で廃棄よ」
「そうねぇ、私もロールアウトの前にプログラム矯正をかけるわね」
——ジンバさんの評価って、ひっくいなぁ……。
鷹揚は立体映像越しでも、何となく分かってしまった。
晶は無事に帰るつもりはないのであろう。 不本意だが覚悟を決めた——そんな表情だった。
対人仕様の型なのか、もしくはそういう仕事に従事していたのだろう、晶はディフォルメされた人間のような顔を持っていた。
口元が動いていたところから、全体が柔らかい素材で作られていることは容易に想像できる。
当然表情を作ることもできるだろう。仮想現実世界で会ったときの良く動く表情が思い出される。
「タカちゃんは心配しなくていいわよ。自分は表情を作れるからっていい気になってる女なんか、わたしが一瞬でデブリに変えてやるわ! この方向なら、二ヶ月後には本星で流星群になってるから楽しみにしてて」
「あの女って……アンドロイドなんだから性別は無いでしょうよ」
「女の勘よ!」
——アカ姉の性別には触れないでおこう……。
「私は女のつもりよ?」
「円さん……心を読むの、止めましょうよ」
ジンバの情報を基に考えると、渡水家の先発隊ってことなのだろう。
しかし、晶が鷹揚の捕縛命令を唯々諾々と聞くとは思えない。
「どうしたもんだろう……」
鷹揚は立体映像を見たまま腕を組んだ。
「円さん、ここに僕が使えそうな戦力ってあります? 移動速度が大きい物が助かるんですが」
「タカちゃん、アイツを伸すならわたしがやるよ?」
「ここって、国の施設でしょ? 先制攻撃は不味いんじゃないの? それを狙ってるのかもしれないし……」
「タカちゃんが危ない事することないよ。 わたしが全部やってあげる。 内助の功よね」
「ゴメンね、重い子で……」
「円さんって、アカ姉に容赦ないですよね」
「あら、そうかしら? ところで、鷹揚君が出なくても大丈夫よ? 最初に領界侵犯したのは向こうなんだから、知らぬ存ぜぬで済むことよ?」
「それでも、ですよ。僕がやったことなら、犯人を拘束しました。身柄は渡しませんで済むでしょう? どうやら、僕の身柄は価値がありそうだ。 その辺の交渉もお願いしていいですか?」
「ふーん……まぁいいわ。 戦闘用の速い機体ってことでいいのね? ちょうどいいのがあるから、ついて来て」
食堂のドアが開いた。
そこには燈理にそっくりな女性が立っている。
仮想現実世界にいたときの燈理の《《姉位》》の年齢だろうか。
「正体はこんな感じよ?」
一瞬で女性が消えた。
女性が立っていた場所の足元に、椅子のキャスター部分のような形状の機械がある。
鷹揚が機械の姿を確認したタイミングで、再び先程の女性が現れる。
「ま、雰囲気だけね。いつまでも声だけじゃつまらないでしょ?」
「お母さん、わたしも!」
「もっと、大きくなったらね」
燈理をいなしながら円が移動を始める。
途中でトラムでの移動をはさみ、格納庫についた。
鷹揚達が庫内に入ったところで、明かりが灯る。
「おおー!」
「やっぱり男の子ね。こういうのは好き?」
鷹揚の目の前には二十メートル位の人型ロボットと戦闘機が鎮座していた。
ロボットは太い腿と、本来の腕とは別に、肩部の上に不釣り合いなほど大きなもう一対の腕をもっている。巨腕はその先端が床につくほど大きい。腕だけで歩けそうだ。さらに足の間から尻尾が見えている。この時代の人型兵器には尻尾があるのだろうか?
戦闘機の方は、二つの機首が双胴船のような印象を与える。機体の後ろの方は平らになっておりマンタのような印象だ。機体の前部についた可動式の垂直翼がその印象を強く後押ししている。また、車輪でなく簡易な脚で機体を支えている異形の戦闘機だ。
どちらの機体も黒を基調として、銀と薄紅色のアクセントでカラーリングされている。
「ここで人が乗れる機体はこれだけよ。 心配しなくてもスピードは保証するわ」
「これをお借りしてもいいのですか?」
「鷹揚君にあげるわ。 持ち主はもういないもの。 大事にしてあげて、きっと使ってもらった方がこの子たちも喜ぶわ。 ドラゴンの方が桜花。 戦闘機の方が回天よ」
「ドラゴン? それで尻尾が——」
「尻尾があるからじゃないわよ? この《《て》》の兵器はね、初めて実戦配備された時に部隊呼称を竜騎兵って呼んだらしいのよ。 その名残ね。 つまり、ドラゴンってのは人間が乗り込む——今は人型兵器って考えてくれればいいけど、そう言ってモノを示す名称よ。 鎧って呼ぶ人もいるけど、ここでは制作者に倣うことにしたの」
「なるほど……それにしても、桜花に回天ですか……」
「大丈夫よ。 特攻機じゃないわ。 制作者が言うには、桜花と回天の制作者の、技術者としての無念を晴らしたいそうよ?」
「……ふーむ、無念……?」
「本人がいないから詳しい理由はなんとも言えないけど、桜花の方は拠点制圧特化型で長距離移動力はないけど、高い攻撃力と防御力で抜群の継戦能力を発揮するそうよ。 回天の方は超高軌道輸送機で、戦場に戦況を変えるほどの戦力を無事に届けるために長距離航行能力と機動性を両立させた機体らしいわ。それからジャンプ能力と慣性及び重力操作機能もあるそうよ」
「と、いう事は、回天で桜花を戦場に運ぶ、という事ですか?」
「回天に桜花を乗せたまま戦うこともできるそうよ。 むしろ、そっちがメインみたい。 乗馬して戦うイメージかしら。 シミュレーターがあるから、詳しいことは触れながらの方が早いわね。 桜花のコクピットで訓練できるから行ってらっしゃい。 時間がないわよ」
◇
《《自称》》救出艦隊の数は九隻。
小惑星の施設に対して十文字に配置されている。
小惑星から射出されたドラゴンが一機、巡航速度で隊に近付いてくる。
「使者殿としては物々しい出で立ちのようだが……ご用件を伺えるだろうか」
「私は冴澄鷹揚と申します。 遠路はるばるお越し頂きましたのに、誠に申し訳ないのですが、当方としましては、そちらに下るつもりはございません。 初対面で手土産もなくお引き取り頂くのは心苦しいのですが、ご理解いただきたい」
「これはこれは、冴澄の始祖殿の直々のご口上痛み入ります。 しかし、こちらとしましても、畏くも芙蓉帝より丁重にお迎えするよう申しつけられておりますれば、是非ともご同行いただきたく、重ねてお願い申し上げます」
「あの、この言い回し……まだ続くんですか?」
「あら、なかなか堂に入ってたわよ?」
鷹揚は通信を円との個別回線に切り替えた。
「なんか、イライラしてくるんですよ 。 普通じゃダメなんですか?」
「最初から普通にしゃべれば良かったかもね?」
後の祭りである。
「当方としましては、先ずは母星に戻りまして、正式な手続きをすませたのち、時期を改めてご挨拶の使者を遣わさせていただきますとお伝えください」
「帝のご意向に逆らうおつもりですか?」
「芙蓉帝のご威光も冴澄の傘の中までは届きますまい。 悪いことは言いません。 お引き取りを」
晶が乗艦しているであろう中央の戦艦以外から、桜花に一斉射がなされる。
「! なんで? やめろ! 撃つな!」
オープン回線に晶の悲鳴が響く。
戦艦から幾条も放たれた光線は、桜花の巨腕に尽くはじかれる。
——軌跡が見えるってことは、レーザーじゃないんだな。なんだろ?
「あーらら、晶ちゃんかわいそうに、切り捨てられちゃったのね……?」
「どういうことです?」
「さっきまで、全艦が晶ちゃんの指揮下にあったのに、今は遠隔操作されてるわね。 力ずくで拉致して、責任は晶ちゃんにかぶせるつもりじゃないかしら。 それから、遠隔操作なのは間違いないけど、操作用の通信に賢者の石を使ってるだろうから、タイムラグなしで動くわよ。 気を付けて」
絶妙なタイミングで円が専用回線に割り込み解説を入れる。 無駄に技術が高い。
「おまえら……いい加減にしろよ?」
「キャー! ワイルドな鷹揚君もカッコイー」
——親戚のおばさんみたいな人にいわれてもなぁ……
「おばさんって言ったらコロスわよ?」
「……」
鷹揚は黙って、晶の艦に対峙した。




