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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
ハーダル村編
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第五話『魔物との遭遇』

 シーナたち四人は森の中を歩いていた。シーナはシーラから抱かれ、そのシーラの前をヒューズが後ろをノストラルが歩いている。


「虫、多くないですか?」

「シーナは本当、虫嫌いよね」


 虫なんて好きな人はいるのでだろうか。何も考えず近づいてくるし、体にとまったら動き回るし、最悪だ。と心の中で思いながら近づいてくる虫を手で追い払う。


「爺がなんとかしてやろう」


 ノストラルはそう言って持っていた剣を抜きすごいスピードで振り回す。それと同時に周りを飛んでいた虫たちは居なくなっていた。剣が振り回されたのに驚いて虫が逃げたのか、まさか飛んでいた虫を全て切り落としたのか。さすがのノストラルと言えど後者はないだろう。とシーナは思った直後、落ち葉に混じった虫を発見する。体が二つになり腹の部分から気持ちが悪い液体が出ている。体が半分になっているのにもかかわらず、手足が少し動いているのを見てまたシーナの虫嫌いが強くなった。


「ありがとうございます。お爺様」


 一応お礼だけは言っておくが、二度としないで欲しい。


「かまわん。かまわん」


 また少し歩いていた頃、シーナは腕に激痛が走りそこを見る。すると腕に小指サイズの人が齧り付いていた。


「いやっ。母様!」


 シーナは半泣きの状態で腕を振るが齧り付いている小人は離れない。噛まれている部分からは血が出始めていた。そんな時、落ち葉の下から数人小人が出てきてシーナに飛びつき、齧り付く。痛いし、気持ち悪いし最悪だ。


 倒れそうになるシーナを優しく抱きしめ、ノストラルは小人を片っ端から切り落とした。


「うっ……」

「大丈夫?シーナ。いったいこれは……」


 シーナは吐き気を堪えて、血のついた腕でシーラに抱きつく。


「「癒しを」と「ここに」を傷口に手を当てて言いなさい。回復の呪文じゃよ」


 ノストラルから言われた通りに傷口に手を当てて唱えてみるとすぐに傷が塞がった。


「小人とという魔物じゃ。人に齧り付いて魔力を吸う。シーナちゃんのことは好きじゃろうな。爺が見張っておこう」

「ありがとうございます」


 そのまま時は過ぎ、途中ノストラルが土や落ち葉を確認するために止まることが何度かあったものの森の深いところまで四人は来ていた。だいぶ歩いて来たためもうどちらが前で後ろか分からない。


「帰り道わかるんですか?」

「わしは分かっとるから安心せい。はぐれたら一夜森で過ごすことになるかもしれんがな。はっはっはっ!」

「爺ちゃん、笑えないよ」


 とそんなやりとりをしていた時、ノストラルの動きが止まる。


「いるぞ。ワグルテの群れじゃ」


 木の間から見える大きな尻尾。それにつながる体は黒い鱗に覆われ、顔は昨日、テーブルに置かれたものより恐ろしい。細長い口からは無数の尖った歯がみえている。そんな魔物が数体群れをなして水辺にいた。


「少し脅かす。水に潜らず向かってきたやつを狙うんじゃ」


 ノストラルはそうヒューズに指示を出すと手のひらをワグルテのいる池の方に向ける。その手のひらからは人の顔くらいのサイズの火の玉が現れた。


ーー呪文の魔法じゃない?


 その火の玉はワグルテの群れの方にとび、はじけワグルテは我先にと水へ潜る。一匹を除いて。


 その残った一匹は群れの中でも一番大きく、恐ろしい。


 その一匹はシーナたちに気づき、こちらを赤い目玉で睨みつける。


「土魔法を使うぞ。気をつけて戦うんじゃ」


 ノストラルはヒューズにそういうとシーナを抱えているシーラを軽々と持ち上げる。と次の瞬間、地面からは岩でできた棘が飛び出す。ノストラルはその棘をステップをふみながら避けた。


「母様……」


 そんな惨劇を目の当たりにしたシーナはシーラの腕にしがみつく。


「これはくるべきじゃなかったわね」


 シーラはノストラルに抱えられながらシーナを抱きしめた。こんな戦いの中ではシーラもシーナも無力だ。今はノストラルを信じることしかできない。


 そんな中、ワグルテと相対しているヒューズはワグルテの棘の攻撃を避けつつ、ワグルテとの距離を詰め攻撃を仕掛ける。だが、あの巨大からは想像もできないスピードで棘と鱗がある尻尾がヒューズに近づく。なんとかその尻尾を剣で受けたものの体は宙を舞い近くにあった木に衝突する。


「ぐぁっ」


 ヒューズから悲痛の声が漏れ、それに耐えられず、シーラはシーナをノストラルに託し、ヒューズの方へ駆け寄ろうとする。そんな彼女をワグルテは見逃さない。今度はシーラに向かって岩の棘が迫る。


「シーラさん、危ないですぞ」


 落ち着いたノストラルの声。それと同時に岩の棘がボロボロに崩れる。ノストラルがシーナを片手で抱え、もう片方の手で岩を砕いたのだ。


「母様!」


 シーナがノストラルの手から離れシーラに飛びつく。心臓の鼓動は速くなっていく。何と言えばいいか分からないような感情が押し寄せる。自分の近しい人が死ぬかもしれない。それがどれだけ恐ろしいことかシーナは実感する。


 シーラは足の力が抜け、地面に崩れながらシーナを抱き抱えた。


「ヒューズは……」


 シーラの涙混じりの声にノストラルは


「大丈夫じゃ。見ておれ」


 ヒューズはワグルテの前に立っていた。さっき吹き飛ばされたことで体は傷だらけだが彼は剣を構えている。ヒューズはシーナやシーラが思っている以上に強いのだ。サナスから何度も泣かされ帰ってきた彼しか見ていない二人には想像もつかないようなたくましい彼の姿がそこにはあった。


 ヒューズは軽快なステップで棘を避けていく。ノストラルが棘を避けた時と同じような動き。それはまさに天使が空を駆け回るような美しい足運びだ。そしてまたワグルテとの距離を詰めたところで尻尾が迫ってくる。


 ヒューズは軽快なステップは止まり、今度は力強く地面を踏みしめる。今度は龍のような力強い剣撃をワグルテの尻尾目掛けて繰り出す。


 千切れたワグルテの尻尾は血しぶきを飛ばしながら、グニョグニョと動く。やがてその尻尾は力を失い、そのまま地面に横たわった。


「いやっ……」


 あまりにもグロテスクな光景にシーナは思わず声が出る。流れる血。飛び散る血。三歳の少女には刺激が強すぎる。またそれはヒューズにも当てはまることだった。初めて生き物に剣を振った。その光景はヒューズに恐怖や後悔とも言えないような感情を吐き出させる。


 ワグルテは痛みに堪えながら池の方へ逃げて行こうとする。


「いかん。逃すなヒューズ。中途半端に傷付けるのが一番いかん」


 ヒューズはなんとか気を取り直し、逃げて行こうとするワグルテの頭に剣を突き刺した。剣は頭を貫通し、地面に突き刺さっている。悶え苦しむワグルテは手足だけでなく体や目も使い苦しみを表現していた。実際にはなんとか生き延びようとあがいているだけなのかもしれない。だがそれは皆に苦しい、やめてくれと訴えかけているようだった。


 そんなあがきはどんどん弱々しくなり、最後動きは止まる。目の瞳孔は開き、ワグルテの足元は血溜まりができていた。


「「おぇぇ」」


 シーナとヒューズは二人同時に嘔吐する。黄色い吐瀉物に朝食べた豆が紛れていた。


「これは子供に見せるものじゃなかったかもしれないわね」

「ヒューズもシーナちゃんも騎士と魔術師を目指すなら通る道ではあるんじゃが……少々早すぎたかもしれんのぉ」


 そんなシーナとヒューズにシーラとノストラルはそれぞれ口を濯ぐための水を渡す。


「ごめんね。シーナ」


 シーラはシーナの頭を優しく撫でた。シーナはそんなシーラの手を握りながら涙を流す。


「母様、大丈夫ですよね」

「えぇ。もう大丈……」

「シーナちゃん、ヒューズ、シーラさん目をつぶっとれ。目を開けても池の方は見んように」


 シーラの言葉にノストラルの声が重なる。言われた通り、三人は目を閉じる。池の方からは生々しい音が聞こえてくる。今、池の方で何が行われているのか三人には何も分からない。


「よし。三人とも目を開けて池の方は見ずにかえるぞ」


 そんなノストラルの指示。だが、それを聞かずシーナは怖いもの見たさで池の方を見てしまった。それは想像していたよりもひどい、おぞましい光景。


 複数体のワグルテの首が地面に横になり、体から流れた血が池を赤く染めていた。地面に横たわるワグルテの顔はまだ生きているような生々しさが残っている。


 自分の判断を呪う。なぜあんなことをノストラルがしたのか分からない。ただ、ひたすらに恐怖だけが押し寄せてくる。さっきまでのものとは比べものにならないほどの得体の知れない恐怖が。そしてシーナは、気を失った。



今ハーダル村編、その次の祭編までを書き終わっているのですが、まだ魔法学院編までに師匠編と魔獣災害編があります。まだまだ遠いなと思いながら書いているところです。

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