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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
魔獣災害編
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第四十六話『異形の魔獣』

 

「つかーれたー」


 シーナはぐったりと壁に寄りかかって座り込む。ちょうど病院の怪我人たちへの回復呪文を終えた所だった。ここまで共に逃げてきたヤスと和国出身の冒険者エドの隣に座り込んで休憩を取る。


「エドさん!和国の話してくださいよ」

「おまえ、さっきまで呪文唱えてたんだろ。疲れてないのか?」


 ヤスは少し呆れた顔でシーナに尋ねた。


「休憩がてらです」


 シーナの好奇心は疲れなんかに勝る。それにまだ日が暮れるには早いので寝てしまうのも夜寝れなくなるので嫌なのだ。


「いいぜ。和国の話してやるよ」


ーーーーーー


 時間は少し戻り、場所は城下街入口


 ヒューズたちは魔獣災害が起きて二日目に城下街南区方面入口の防衛を行なっていた。そこには槍使いナギ、桃色の髪を持つミオ、双剣使いメリ、背の小さいベール、皆ヒューズと同じ騎士学校の生徒で銀等級以上だ。そしてもう一人、ヒューズを睨む男がいた。


「俺たち六人を城下街の警備に当たらせるなんてどんだけ人手不足なんだ?」


 ゲイルは不機嫌な顔をして、そう尋ねた。警備なんてせずに魔獣討伐に出掛けたいのだろう。


「魔獣の討伐に行きたいみたいだけどそれは無理だよ。昨日から第七騎士部隊が帰ってこない。騎士部隊が一つ壊滅したって考えるのが自然だ。私らなんかが魔獣討伐の許可がもらえるとは思えない。警備にあたらせてもらってるだけありがたく思いな」


 ベールはゲイルに対してそう答えた。


「チビが」

「あ?誰がチビだって?もう一回言ってみろ!」

「やんのか。俺は女でも容赦しねぇぞ!」


 ベールとゲイルが武器を構えて、戦闘の体制にはいる。そこにヒューズは入っていって喧嘩の仲裁を始めた。


「二人共遊びじゃないんだ。やめてくれ」

「俺に指図すんなって言っただろ。なんでこいつと同じ場所なんだ」


 ゲイルは不機嫌な顔をして武器をしまって壁にもたれて目を閉じた。


「……まったく」

「嫌われてるね。ヒューズ君」

「僕何かしたかな……?それは置いといてキースはどこに行ったんだろう」

「ソルト家ってのはいろいろあるんだよ。神の子も生まれたみたいだしね」

「そうか……」


 ミオとヒューズは座り何気ない話をした。今魔獣災害真っ只中。だが城下街に魔獣はおらず、周辺も騎士部隊の人たちで討伐を行っているからか静かで平和だった。


「メリ、ナギ先に休憩に行っていいよ。その後ゲイルとミオ、そして僕とベールが休ませてもらう」

「分かった。じゃ、先に休憩に行くね」


 メリとナギは起き上がってその場を後にしようとした時、地面が揺れ、爆発音がした。咄嗟にヒューズは剣を抜き土煙の中にいる一匹の魔獣に剣を向けた。


「人型……俺たちより三倍はでかいぞ」


 ゲイルもまたその存在に気づいていたらしく、大剣をその魔獣に向けていた。


「早いとこ倒しちゃお」


 メリは二本の剣を抜き、戦闘体制をとる。砂煙が晴れ、その魔獣の姿が見えるようになった時、メリはあることに気づいた。


「魔石持ちだ。……2つ魔石を持ってる!」

「どういうことだ?メリ?」


 魔獣は人型でヒューズたちの三倍はある体に不自然な形をした右腕がついていた。


「あの変な形をした右腕にもう一つ魔石がある。気をつけて!他の魔獣とは違う」


 ヒューズとゲイルは同時に駆け出し、魔獣との距離を詰める。


「邪魔すんなヒューズ!これは俺の獲物だ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!まて!ゲイル!」


 ヒューズがそう叫んだ瞬間、ゲイルは後方に吹き飛び、鈍い音が辺りを支配する。ヒューズは怯まず魔獣の間合いに入って攻撃を仕掛けようとするも、右腕に阻まれる。


「ダメか。ゲイルは?」


 一度魔獣と距離をとってゲイルの容態を確認する。


「大丈夫っぽいよ。硬いからね。あれは」

「あれってなんだ?物みたいに言ってんじゃねぇぞ!ナギ!大剣で防いだのにこのダメージか……」


 ゲイルは腕から血を流し、よろけながら立ち上がる。


「こいつは僕らがやる。みんな僕に合わせて」

「リーダーぶるな。おまえがリーダーだったのは遠征の時だけだって言っただろ」

「ゲイル頼む。ここは僕に従ってくれ」


 ゲイルは怒りの表情を浮かべ、雄叫びをあげながら魔獣へ突撃していく。


「ハガが!」


 ベールがゲイルに向かってそう口にするが気に留めていない様子だった。


 ゲイルは再び魔獣の間合いに入るとまた右腕の攻撃がとんでくる。それをギリギリでかわし、大剣で足を切りつけた。だが……


「剣が通らねぇ」


 大剣は足に直撃したものの剣の刃は深くは入らず、浅い傷しかつけられない。


「ゲイル、そのまま動くな!」


 ヒューズはすかさずゲイルに近づき、向かってくる左腕を剣で受け止めた。その隙にナギとメリが右腕を切り付けるが今度はまったく刃がたたない。


「一旦距離をとる!」


 ヒューズの指示と共に四人は後方へ逃げ、攻撃をかわした。


「あの右腕硬すぎる。僕の槍がまったく刺さらなかった。メリの剣もだ。」

「その他の体はゲイルの一撃でも傷がつく程度……。まずいな」


 ヒューズとナギは分析を始めるが勝機が見つからない。


「一番厄介なのはあの異常な力とスピードを持つ右腕だろ。あんなでかい体してんのに動きは速いってやばいぞ。どうするヒューズ?」

「右腕は僕とゲイルで抑える。メリとナギ、ミオは魔獣を撹乱してくれ。そしてベールは頭を狙うんだ!」

「一撃じゃ大したダメージにならないぞ」

「何度だってやればいい」

「了解した」


 5人が息を合わせようとする中、1人そうでない男がいた。


「勝手に決めんな!俺はおまえの指示には……」

「ゲイル!」


 ゲイルの言葉を遮るようにヒューズの罵声が響く。ゲイルを睨む目、その圧はまるで現第一騎士部隊隊長のようだった。


「ゲイル、いい加減にしろ。これは命令だ。従え」


 ヒューズの冷たい声はゲイルを怯ませ、無言で大剣を魔獣に向けさせた。


「僕が合図したら一斉にかかる」


 魔獣がヒューズたちへ近づき、右腕を振り上げた瞬間、


「今だ!」


 ヒューズとゲイルは共に右腕を引き留め、ミオとナギ、メリは四方八方から攻撃を仕掛ける。そして、一瞬の隙、それをベールは見逃さない。


 天神流表奥義『天の川』。ベールは魔獣の首目掛け、一閃を放つ。血は飛び散るが傷は浅い。


「みんな一旦退避!」


 ヒューズの呼びかけに応えて、6人は魔獣から距離をとった。


「ヒューズ、すまない。首を切り落とせなかった」

「いや、ベール。このまま続ければなんとかなるはすだ。気にしないでいいよ。ゲイルいけるか?」

「俺は頑丈なんだ。おまえと違ってな……」


 ゲイルは視線をヒューズの腕に落とす。血が滲んだ腕がこの作戦の限界を示していた。


「後何回耐えれるんだ?ヒューズ」


 ゲイルは笑みを見せながらヒューズに尋ねる。


「腕が動くまで続ける。痛みには耐えればいい。みんないくよ」

「ダメだよ。ヒューズ君!その腕じゃ限界は近いし、このまま続けるのは……」

「まぁ、ヒューズは見ときなよ。なんとかするから」


 ミオとナギがヒューズを止めようとするがヒューズは聞こうとはしない。


「ダメだ。みんなで協力しないと……」

「他の作戦にしよう。正直私の一撃じゃ何発いれても倒せる気がしないしな」


 ヒューズの言葉を遮ってベールはそう口にした。


「分かった。他の作戦を考えよう。一旦みんなで分散して魔獣の気を引くんだ!」

「「「「了解」」」」


 みんながばらけようとした時、ヒューズの隣から鈍い音と血飛沫が飛ぶ。さっきまで隣にいたはずの背の低い騎士ベールが消えていた。静寂と共に皆は後方に吹き飛ばされ、ぐちゃぐちゃになった仲間の死体を見た。


「は?」


 ヒューズは理解できずその場に倒れ込む。皆呆然として身動きが取れなかった。そんな中でも魔獣は容赦なく襲う。今度はミオが吹き飛ばされ、そしてメリ、ナギも直撃を食らう。ヒューズの頭は真っ白だった。次が自分の番であることも気づかずにただ呆然としていた。


「おい、いい加減にしろ!ヒューズ」


 ヒューズに向かう魔獣の右腕を受け止め、ゲイルはそうヒューズに怒鳴る。絶望の中一人の男だけが戦う意志を切らしていなかった。



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