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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
魔獣災害編
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第四十五話『シーナにできること』


 シーナが目を覚ますとそこは知らない天井だった。窓からは朝日が差していて一瞬目を瞑る。


「シーナ?」


 自分の名を呼ぶ声に今までにないくらいの安心を感じた。


「母様……」


 シーラとシーナはお互いハグをしそして涙を流した。カーラも二人を包み込むように抱きつき、三人は再会を果たしたのだった。


「よかった……。本当に…」


 だがそんなシーナを襲ったのは安心の中を引き裂くような不安。


「サンちゃん……。母様!三尾を!三尾を見ていませんか?」

「どうしたの?シーナ。三尾ってなんのこと?」


 シーナが二人に内緒で飼っていた三尾。その三尾は二人と同じように家にいたはず。それがここにいない。シーナは全身が震えるような恐怖に襲われた。


「みゃー」


 その鳴き声は突然シーナの耳元からした。三人はシーナの寝ている枕を見るとそこには三尾が毛繕いをしながら可愛く鳴いている。


「みゃー」

「サンちゃん!」

「この三尾いつからここに……」

「シーナこの三尾はなに?」


 シーナは二人にサンちゃんについて説明した後、シーラから「大切に育てるのよ」と許可をもらった。二人はシーナが目を覚ましたことをネントに伝えに行くと言って部屋を出る。


「サンちゃんはどうやってここに来たんですか?」

「みゃー」


 シーナの質問は無視してサンちゃんは顔を洗っていた。シーナは二人が帰ってくるまで暇なので窓から外を眺めると壁を背にして寝ている人が大勢いる。


「みんなここに避難してきたんだ。ヤスさんたち……。たぶん大丈夫ですよね」


 窓から空を見上げると黒い鳥が一羽ちょうど上を旋回しているのを見つけた。


「鳥もここに逃げてきたのでしょうか」

「みゃーーーーーー!」


 そう言った直後サンちゃんはいつもとは違う何かを恐れ、威嚇したような鳴き声をだす。


「サンちゃん?」

「みゃー」


 すぐにいつも通りのサンちゃんに戻って今度はシーナの膝の上で手を舐め出した。


「どうしたんですか?サンちゃん」

「みゃー」


 何かを気にしたように数回サンちゃんは窓の外を確認した後、ゆっくりとシーナの顔をぺろぺろする。そうこうしているとシーラとカーラがネントを連れて戻ってきた。


「シーナちゃん久しぶり。覚えているかな?回復術師のネントです。背中の傷を何度か診せてもらった」

「あ……お世話になりました」

「いや、その時は力になれず申し訳ない。今回は少しシーナちゃんの力を借りたくてここに来たんだ。力を貸してくれるかな?」

「はい」


 シーナは即返事をしてネントは話を続けた。


ーーーーー


「アーミージョン」


 シーナが広場でそう唱えると一本の木が地面から生える。超級呪文『アーミージョン』は木を生やす呪文だ。その木にはいくつかの赤い実がなっていた。


「この赤い実は食べられます。栄養も豊富で、木は切り倒せば薪にもなります。シーナちゃん、もっと生やしてくれますか?」

「はい、アーミージョン、アーミージョン」


 シーナはネントに頼まれて広場に木を生やしていた。食料と燃料のために大量の木が必要だからだ。


「シーナちゃん、これが終わったら軽傷の人たちに呪文で手当をお願いしたい」

「了解しました」

「助かりました。シーナちゃんがいてくれるだけでかなり状況が変わります。無制限で呪文を唱えられる人なんて世界を探してもほんの一握りです。あるいはシーナちゃん一人だけかも」

「うちのシーナが役に立てて良かったです」


 シーラはネントの横で活躍している自分の娘を見ながら誇らしく思っていた。昨日も避難中、呪文で魔獣を討伐していたというのも聞いている。シーナが自分しかできないことで人を救っていたことに成長を感じたのだった。


「よーし、木は切り倒して燃料にするぞ!」


 騎士の掛け声と共に男たちが斧を持って集まってきていた。


「シーナちゃん、病院の方に」

「はい!母様は疲れているから休んでいてください」

「でも……」

「大丈夫です」


 シーナはシーラに微笑み、ネントと共に怪我人のいる病院へ向かった。


 その最中、あの男が道に座っているのを目にする。


「体の方は大丈夫なんですか?ヤスさん」

「あぁ。おまえも大丈夫か?」

「はい」


 ヤスは壁にもたれながら道に座り、横の男と話しているところだったらしい。


「おまえは仕事が多そうだな。俺はことが済むまでここで寝とくぜ」

「さっき男の人たちは木を切ってましたよ。手伝いに行きなさい」

「やだねー」

「おまえ、すごい魔力量だな。なんの魔物と契約したんだ?」


 ヤスの横にいる変わった服の男がシーナにそう尋ねた。


「私は魔物と契約してません。生まれつきです」

「そんなバカな」

「というかあなたは?変な格好ですね」

「こいつは和国出身の冒険者だ。この服は着物っていうらしい」

「トルミス・エドだ。冒険者をしている」

「シーナ・オルスタルです」


 シーナはエドと握手するが、ゴツゴツした手で少し怖い。


「私はまだ仕事があるので今度和国の話してください」

「あぁ」


 シーナはエドに別れを告げ、ネントと共に怪我人の所へ向かう。


「少し、惨たらしいかもしれない」


 ネントはそう言って病院の扉を開ける。傷だらけの怪我人、皮膚が削がれた騎士、手足などのない人、そんな人たちが何人も横たわっている。


「な、なんで……。ネントさんは何をしていたんですか?」

「命に関わる傷しか治さないようにしている。魔力量が足りないんだ。だがシーナちゃんの魔力量なら。頼めるか?」


 血の匂いがした。嫌な匂いだ。少しだけ吐き気もする。だがシーナは自分のできることをすると決めた。


「任せてください」


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