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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
魔獣災害編
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第四十一話『絶望と希望』


「第七騎士部隊は俺以外全滅した」


 ドルトの告白に誰もが絶望した。最初に口を開いたのは質問をしたヤスだった。


「何があった?」


 ヤスはドルトを睨み、そう尋ねた。

 

「俺たちは魔獣災害が起こって即東区の魔獣討伐を行った」


 ドルトは一呼吸おき、話を進める。


「討伐は順調だった。そもそも魔獣災害は序章に過ぎない。だから小型の魔獣しかまだ現れていなかった。隊長を中心に陣形を組んで魔獣を討伐していき、一般騎士には街の人の避難をさせていた。だがあれは……あれはなんの前触れもなしに……」

「一旦落ち着け。これを」


 老婆のハルセはドルトへ水を渡し、ドルトは受け取って一気飲みした。


「あれとはなんだ?早く言え」


 ヤスはドルトをせかし、ハルセとまた口論になる。


「うるせえな。優しさが誰を救う?今必要なのはそんなものより情報だ」

「それはわしも同意じゃ。ハルセ黙っとれ」


 ヤスの言葉に同意したのは酒屋の店主ベリーだ。ドルトは震える手に力を入れ、止めようとする。


「魔獣には普通の魔獣とは違う魔獣がいる。三百年前の騎士が手を焼いたのはその魔獣達だった」

「魔石持ち魔獣」


 一般騎士の一人が一つの単語を囁く。するとドルトは何度も首を縦に動かし、自分たちが遭遇したのはそいつだと伝えた。そしてドルトに変わってその一般騎士が説明を始める。


「本来魔獣は魔物や人間と違って魂を持ちません。魔法や闘術の力の源は魔力。その魔力は魂と関係があるんですが魔獣はその魂がない。だから魔獣は魔法や闘術は使うことができない。でも魔獣の個体の中に『魔力の石』を体内に持つ魔石持ち魔獣が存在します。そいつは魔法を使用したり、異常な身体能力を持っていたりするそうで……」

「それに襲われておまえらは全滅したと?」


 ヤスの問いにドルトは首を縦に振る。


「騎士部隊をも壊滅させるとは……」

「一匹なら厄介じゃない。だが現れたのは複数体そして魔術型の魔獣だった」

「魔術型?」

「魔石持ち魔獣には型がある。魔法を放つ魔術型。体が頑丈な闘術型。その二つを兼ね備える複合型」

「複合型が一番やばそうだな」

「一番ヤバいのは闘術型だ。よくできた個体なら極級かそれ以上の魔物と同等のものがいる。でも騎士にとって一番厄介なのが魔術型。対応は騎士にはできず、あたれば普通の騎士は即死の魔法を放ってくる。複合型はその中間をとった型で前の二つより戦いやすい」


 ドルトは少しずつ情緒を取り戻し詳しい解説を行う。魔獣が石から戻る速度は魔獣の体の大きさが関係してること。闘術型の魔獣は体が大きいためまだ出現していないこと。逆に魔術型は体が小さくほとんどが元の姿に戻り、人を襲っていること。それをそこにいた全員へと伝えた。


「どうするんだ。そんなやつ」

「魔術型は小さな子供のような形をしている。魔法の放ち方が独特だ。右手を上げると前方を破壊していく魔法を放つ。そして左手を上げると前方に盾のような魔法を発現させる。だがそれ以外の攻撃手段はない。一体なら俺でもなんとかできるし、他の騎士でも……」

「複数体来られるとまずいってことか」

「あぁ。それに気づかずに右手を上げる攻撃魔法をやられると俺たちじゃ対策のしようがない。だから俺たちは……」

「もういい。十分じゃろう」


 ハルセは皆を止め、ドルトを三階に上げようと手をかした。階段へと誘導し、そこでハルセは一人の少女と目が合う。


「あの……」


 銀髪で可愛らしい見た目だが腕には魔獣から受けた傷がある。それがハルセの心を痛めつける。


「どうした?シーナちゃん。さぁわしとこの騎士さんと三階へ行こう。回復呪文はもういいぞ」


 ハルセは優しくシーナの手を引こうとした時、信じられない光景を目にする。


「な……」


 シーナの背後にいる二階にいた怪我人たち、彼らは確かに自力で立てるような者たちではなかった。だがその彼らは階段の上段に自分たちの力で立ち、自力で一階へと降りてきていたのだ。何度回復呪文をかけたのか。そんなことハルセには計算できないが途方もない回数と魔力量が必要なのは理解できた。


「二階の怪我人の人は全員自分の力で逃げれるようになりました。えっと他に怪我をしている人がいれば……」


 シーナの言葉に一階の者たちは驚きを隠せずにいた。ヤスは立ち上がり目を数回擦り、一般騎士たちは口が空いたままとじず、ベリーはカウンターの酒を一口飲んで笑っていた。


「これはとんだ魔女を拾ってきたな」


 ベリーは一般騎士に目をやりそう言うともう一度酒に口をつける。


「あの……怪我人……は?」

「おい。ガキ。魔力に自信があるって言ってたな。自分で自分の魔力がどれくらいあるか分かるのか?」

「は…はい」

「あとどれだけ魔力は残ってる?爆裂呪文を発動するだけの魔力は残ってるか?」

「魔力はたくさん残ってます。というか減った感覚がない……。爆裂呪文って『シーム』のことですか?」

「あぁ」

「何度でも撃てると思います」


 シーナの答えに初めてヤスは笑みを見せる。


「おい。ハルセの婆さん、三階の奴らを呼べ。今すぐここを出て南区の安全地帯を目指す」

「南区の安全地帯?」

「なんでかしらねぇが南区は魔獣が発生しないらしい。そうだろ?」

「あぁ。一般騎士が支持されたのは南区への避難誘導だ」


 ヤスはベリーたちにも準備を指示してすぐにでもこの場を離れられる体制を整える。


「まて。言っただろ!魔術型がいるんだ」


 ドルトはヤスたちに考え直すよう強く訴える。だがヤスたちは止まろうとはしない。


「魔法は魔法で相殺できるんだろ?『シーム』は呪文の中でも一番強力な魔法だ。おそらく相殺できる」

「バカやろう!シーナちゃんを前線で戦わせる気か?」


 ハルセはヤスへそう問いただす。


「そのガキの安全は俺らが保証する。ベリー、一般騎士、そこのへっぽこ副隊長でだ。このガキが全員生還の鍵だ」


 ヤスは強い口調でハルセにそう告げた。


「じゃが……」

「やります。私ができることは限られてるけど。そのできること全てを」


 シーナの答えは決まっている。自分にしかできない。生まれ持った魔力量という才能で皆を救いたいと心から決意する。


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