第四十話『騎士たちの戦い』
「先を急ごう」
ナギからそう言われ、ヒューズはうなずき足を進める。
「おそらくベールは城下街近くの防衛をしてる」
「僕らも何匹か討伐したら防衛に加わった方がいいかもしれない」
「いや、このまま北区後方まで……」
「ミオ、あくまで僕らは騎士学校の生徒だ。騎士の人たちを信じよう」
「でも……」
「僕はヒューズに従うよ。どっちでもいいから」
「分かった。付近の太腕魔獣を討伐したら城下街の防衛をしよう」
ミオとナギ、ヒューズは今後の確認をとり、太腕魔獣の討伐のため三方向へと散らばった。
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「おい!メリッサ!大剣の手入れは済んでるだろ。早く出せ」
「そう焦らすんじゃないよ」
ゲイルはメリッサ武具店を訪れていた。騎士たちや冒険者の武具の手入れや販売を行う店である。
「はいこれ」
ゲイルはメリッサから大剣を受け取り、それを背負う。
「おまえは逃げないのか?」
「手入れをしている武器がこんなにある。置いていくわけにもいかないんだが持って行けそうにもない。困りもんだよ。そうだあんた」
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「なんで俺がこんなこと……!」
「大剣の手入れ安くしてやったんだ。運べ」
ゲイルは無理矢理にメリッサから大量の武器を持たされ、城下街へ運ばされることとなった。騎士、冒険者数十人の武器だ。
「おい、魔獣の討伐しねぇといかなぁんだよ!」
「ヒューズたちが頑張ってるからあんた一人いなくても大丈夫だ。最初から全員救う気なんてこの国はないだろうさ」
「俺の前であいつの名前を出すな」
「騎士大会でずっと負けてるからかい?」
メリッサの問いかけにゲイルは答えず、舌打ちを返す。
「あいつは選ばれた人間だ。張り合っても仕方ない。永遠の二番手なんて言われてるんだったな。はははは!」
「こんな状況で笑えてるおまえはどう言う神経してんだ?周りは人間の死体だらけだぞ」
「いちいち人の死に向き合ってたら騎士はやってけないぞ。そこがヒューズよりおまえが優れているとこだと思ったがやはり人の死はつらいか?」
「つらいかどうかは置いといて笑うことは出来ねぇよ」
「そうか……」
ゲイルは持っていた武具を下ろすと
「ここから先はおまえで持って行け。城下街はすぐそこだ」
とメリッサに告げる。体に力を込め、戦闘の体制に入った。
「あんたはどうすんだい?」
「俺はこいつら仕留める」
振り返ると三匹の太腕魔獣がそこにいた。
「頑張れよ」
メリッサはそう言うと片手で軽々と武具を持ち上げ、スタスタと歩いていく。
「おい、おばさん一人で持てるじゃねぇか」
「おまえとお話がしたかったんだよ」
メリッサは手を振りながらバイバーイとゲイルに告げた。
「あのおばさん絶対騎士より強い……」
ゲイルは大剣を構え、太腕魔獣に立ち向かう。
一匹が勢いよくゲイルへと突進するがそれを避け、二匹目に大剣を振り下ろす。硬い腕もゲイルの前では他の部位と同じ。一瞬で切り落とした。
だが魔獣たちも甘くない。三匹目がゲイルへ向かって拳を振り下ろす。それを大剣で受けるが今度は一匹目がゲイル目掛けてもう一度突進する。
「それを待ってたんだよ!」
ゲイルはそう叫ぶと体を捻りながら大剣を振り回し、三匹の魔獣の胴体を同時に真っ二つに切り裂いた。血飛沫と共に三匹の魔獣は地面へと倒れる。
「くそが」
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ヒューズはナギ達と別れ魔獣を探していた。やはり生存者はちらほらいるもののほとんどが死体である。地面に倒れ、助けを求める者もいるがヒューズではどうすることもできない。
「ここら辺の魔獣は倒したと思うんだけど……」
そう言ったのも束の間、地面から太腕魔獣が現れる。ヒューズは戦闘の体制に入り、体に力を込める。その瞬間、現れた魔獣の首は飛び、体は力無く倒れる。
「弱っ…」
そう言い放ちヒューズより先に魔獣の首を取ったのは一人の少年だった。隊服は着ていないが明らかな強者。白い髪と細い体が特徴的だった。
「あなたは?」
「誰でもいいでしょ。ザコは引っ込んでなよ」
「ですが僕は騎士で国民を守る義務が……」
白髪の少年は一瞬にして消え、気づけばヒューズの背後にいた。
「めんどくさいね。君」
彼の持つ剣は地面に刺さっており、その周辺の地面は少しの盛り上がりがあった。地面から這い出ようとした魔獣を這い出る前に仕留めたのだ。
「ベル。どうじゃ?」
「弱い」
今度は隊服を着ていない老人がとことこと歩いてきた。だがその老人には隙はなく、そしてヒューズも知っている顔だった。
「第九騎士部隊隊長アリスト・メラネル」
第九騎士部隊は別名、自由騎士部隊。隊服はなく、上層部も存在しない。唯一国の命令なしで動け、命令に従わなくて良い部隊だ。第一、第二は国王支配、第三から第八までは上級貴族が支配している。そして第十部隊は国民が募って作られた騎士部隊となっているものの実際は上級貴族の支配下にある。
第九騎士部隊は第一騎士部隊と張り合う程の戦力があるとされているが実際の戦力は確定されていない。理由としては隊長アリスト・メラネルの側近ベルという少年が未だにどれほどの実力があるのか分かっていないだからだそうだ。
「君がベル……」
「だから何?」
「やめんか。それはサナスの息子じゃ。優しくしたれ」
「あぁ。あのめんどくさい人の息子なんだ。めんどくさいわけだ。騎士だからとか言って。似てるね」
何を言っているのかヒューズには理解できなかった。だがあの父親と自分が似ている?それだけはどうしても許せない。剣を持つ手に力が入る。次の瞬間自分でも無意識にベルに剣を向けていた。
「何これ?それがどういう意味か……」
「やめとけ。行くぞベル。サナスの息子も痛い目を見るだけじゃ」
悔しいが反論はできない。力量の差は目に見えていた。唇を噛み締め耐えた。そして近くにいるであろうナギとミオ、そしてメリを探しにその場を後にする。




