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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
魔獣災害編
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第三十九話『ヒューズたち』


〈南区後方〉


 シーラは目が覚めるとそこが自宅でないことに気づく。そして自分の記憶を遡り何があったかを思い出す。


 数時間前、シーラは夕食の支度をしていた。その時、床を突き破り突如現れた魔獣から吹き飛ばされたのだ。そして今なぜか自分は生きている。周りを見渡しても知らない部屋だった。


「目が覚めましたか?」


 カーラの声だった。


「カーラ、ここは?」

「南区後方です。なぜかこの南区後方は魔獣が現れないそうなんです」


 カーラの説明から現状が理解できた。起こってしまったのだ。誰も信じようとしなかったあの魔獣災害が。だがそれなら……

 

「シーナは?」


 カーラは目線を逸らし、シーラの問いに答えようとしない。


「シーナはどこにいるの?!」

「すみません。私もシーラさんを担いで逃げるのが精一杯で……」

「シーナは?」

「今どこにいるか分からない状況です。おそらく東区後方のどこかに……」

「な……」


 シーラは何も言わず立ち上がり、この部屋の出口を目指す。だがそこにカーラは立ち塞がる。


「今魔獣が次々と現れているんです。危険です」

「それなら尚更よ!シーナが!」

「肉屋の店主さんが東区へ探しに行ってくれました。騎士の方たちとご一緒にです」

「まかせろって言うの?私はあの子の母親なの!」

「気持ちは分かります。でも今は……」


 強行しようとするシーラをカーラは無理矢理に抑え込む。揉み合いになりながらもカーラはシーラを離そうとしなかった。


「シーラさんが行っても力にはならない!」


 カーラのその一言を聞きシーラは膝から崩れ落ちる。自分でも分かっていたことだった。自分が行っても何にもならないことくらい。


「分かってるわよ。でも……ここで待ってるだけなんて……」

「シーラさんにとってシーナちゃんが命より大事なのなら、シーナちゃんだってそのはずです。ここにいることがシーラさんのシーナちゃんのためにできることです」


 涙を流し、床に座り込むシーラをカーラは優しく抱きしめる。


ーーーーー


〈北区前方 騎士学校付近〉


「混乱している……」

「ヒューズくん!どうすしよ?」

「メリ、まずは一般人の安全確保だ。周辺の魔獣の討伐を」

「了解」


 ヒューズは状況の把握と素早い判断をする。それに従い騎士学校の同級生であるメリは魔獣の討伐へと向かった。

 

「わぁぁあ!」


 子供の悲鳴。ヒューズはすかさず悲鳴の方へと向かう。


「これは…」


 そこには太い腕を持つ魔獣がいた。体は大人と変わらないが強靭な腕はその体と同じくらいの大きさがある。


 ヒューズは一気に距離を詰め、片手で子供を抱えて避難させようとするがそんなヒューズと少年に魔獣は腕を伸ばす。強靭な腕がヒューズと少年を薙ぎ払おうとした時、ヒューズはかがみそれを避ける。


「危ない……」


 腰につけた剣を取り屈んだ体制のまま魔獣の足を切り落とした。魔獣はバランスを崩し、地面に倒れるがまだ息はある。抱えていた少年をその場に降ろすと、剣を振り上げ魔獣の首を切り落とした。


「はぁ…はぁ…。大丈夫かい?」


 ヒューズは振り向き、救った少年に近寄ろうとした時、少年のいる地面が盛り上がり、もう一匹太い腕の魔獣が現れる。少年は天高く吹き飛ばされた。ヒューズはその少年をキャッチしようと試みるが後一歩のところで間に合わない。鈍い音と共に少年は頭から地面へ叩きつけられる。


「へ……?」


 少年は死んだ。その事実を受け入れられないヒューズの頭は真っ白になり、その場に膝から崩れ落ちる。


 そんなヒューズを魔獣は見逃すわけもなく、その太い腕はヒューズの息の根を止めようと少しずつ近づいてきていた。


 だがその手はヒューズには届かず、魔獣は力無く地面へと倒れる。頭には槍が刺さっていた。


「もうリタイア?ヒューズ」


 槍を魔獣の頭から抜き、ヒューズを見つめる白髪の少年が問いかける。

 

「ごめん…。ナギ。油断した」

「大丈夫そうでよかった。君の指示を待ってる人はたくさんいるからね」


 ナギの後ろには十数人の騎士学校の生徒がいる。


「ヒューズ先輩!街中は混乱状態です」

「どうする?」

「やっぱりおまえがリーダーだろ。早く指示を」


 皆は剣を握り、ヒューズの指示を待っていた。


「銀等級の人は王宮の方に下がって避難のサポートを。金等級の人は一般騎士と同様に魔獣の討伐を。ナギとミオは僕と一緒に太い腕の魔獣を率先して倒して欲しい」

「了解」


 騎士学校の生徒たちは散らばり、ナギと桃髪の少女ーーミオは太腕魔獣を探す。ヒューズは少年の死体を道の脇に置き、「ごめん」と一言伝えてからナギとミオを追いかける。


「ナギさっきは助かった」

「別にいいよ」

「二人とも気付いてる?魔獣が現れてから数時間経つけど最初は丸い肉の塊みたいな魔獣と犬型の魔獣だけだった。だけど今になってあの太い腕の魔獣が現れるようになってきた」

「あぁ。おそらくこれからどんどん増えてくるはずだ。ミオもナギも気をつけて。できればゲイル、少なくともベールと合流したい」

「噂をすればだ」


 犬型魔獣が三匹宙を舞う。その先には拳で魔獣を仕留める屈強な男がいた。


「ゲイル!このまま僕らと魔獣の討伐に……」

「俺に指示すんな。いつまでリーダーでいるつもりだ。おまえがリーダーだったのは遠征の時だけだ」


 ヒューズの言葉を遮り、ゲイルは一人別の方へと歩いていく。


「どこに…?」

「大剣取りに行く。俺はおまえの指示には従わねぇ。リーダーしたいなら他の奴らのリーダーしてろ。俺の上に立つな」


 二人の間に流れる緊張はこの絶望に包まれた空気に、それとは違う冷たい不穏な空気を漂わせた。


 

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