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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
魔獣災害編
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第三十八話『騎士たち』


「癒しをここに」


 シーナの腕の傷は完全には治ってはいないものの回復呪文で治る限界までは治ってきていた。だが依然として痛みは消えず、手の震えはおさまらない。


「立てますか?」


 シーナは少年に尋ねると少年は一度首を縦に振り、立ち上がる。一度深呼吸をし、震える手で杖を握る。いつまでもここにいては埒が開かない。また魔獣が来てしまえば戦わないといけなくなる。精神的にも身体的にももう限界だった。


「魔獣から見つからないように、もし見つかったら私を置いて逃げてください」


 少年は今度は首を縦に降らなかった。


「絶対ですよ」


 シーナは少年に念を押し、また歩き出す。


 この路地を抜け、大通りを進めばもうすぐシーナの家に着く。そうすればシーラもカーラもそしてサンちゃんもいるはずだ。


 一気に路地を進み、大通りに出る。道にはいくつもの穴が空いていた。魔獣が抜け出た穴だろう。そして人の遺体、食い散らかされた残骸がそこら中に散らばっている。


「見たらダメです。前だけを見て……」


 シーナは油断していたわけではない。むしろ集中しすぎていた。どこから魔獣が来るのか。それだけをずっと考え注意を払っていた。だから足元に気づけなかった。


 シーナと少年の足元に少しの盛り上がりが現れる。違和感に気づいた時にはもう遅く、勢いよく二人は吹き飛ばされる。


「うぉぉぉぉお!」


 雄叫びと共に現れたのは太い腕に巨大な体を持つ魔獣だった。今まで見てきた魔獣とは比べ物にはならない大きさ、そして覇気をまとっている。


「逃げてください!」


 シーナは泣きながら少年へ告げる。左腕は上がらない。右手で杖を握りしめ、魔獣に向けると渾身の一撃を放つ。だがその一撃は太い腕に阻まれ、無効化される。威力が足りていないのだ。


「は……」


 諦めの声が出る。もう無理だ。そう悟った。そんな時、後ろに逃げずシーナの服を握っている少年がいた。


「逃げてください!お願い……。もう私じゃ守れない…」


 泣きながら少年へ告げるが少年は固まったまま動かない。シーナはもう一度杖を魔獣へ向け魔法を放つがやはり腕に阻まれる。


「はぁ…はぁはぁはぁはぁ」


 息が荒くなり、体から大量の汗が出る。死の感覚が少しずつ近づいてきているのがわかる。


「こっちだ!一匹!小さい子二人が襲われている!」


 そんなシーナは現実へと引き戻したのは一人の男の声だった。槍を持つ五人の男たちが魔獣に向かって走ってくる。


「「「「「おぉぉー!」」」」」


 男たちは雄叫びをあげながら魔獣へと突進し、魔獣の頭や腹に槍は突き刺さる。勢いで魔獣は壁に押し付けられ、槍はさらに奥へと刺さっていく。


「このまま動かなくなるまで押し込め!」


 その男たちは騎士の制服を着ていた。おそらく警備に当たっていた一般騎士だ。シーナは気が抜けて膝をつき、近くの少年を抱きしめた。


 だがこの魔獣災害がそう甘くないことをもう一度思い知らされる。魔獣は押し付けられ身動きが取れない状況のまま太い腕を動かし始める。一人の騎士の槍を掴み、自分の体から抜こうとし始めた。


「まずい!こいつ強い!」

「おいバカ!槍から手を離せ!」


 魔獣は槍を抜き取るとそれを持つ騎士ごと持ち上げ、地面に叩きつける。騎士は地面へ直撃したことで首が折れ、そのまま死体となる。


「くそっ!押される!」


 一人欠けたことで形勢は逆転。魔獣は少しずつ騎士四人を押し返す。


「踏ん張れ!」


 四人の騎士たちではない。シーナの背後から声がした。その声の主は目にも止まらぬ速さで魔獣へ飛びかかる。


 天神流表奥義『天の川』。声の主は魔獣の首を落とした。魔獣は力無く地面に倒れ伏し、生き絶える。


「はぁはぁ……もう大丈夫だ…」

「あんたは?」

「第七騎士部隊副隊長ドルト……」


 声の主は騎士部隊の副隊長だった。だが明らかに様子がおかしい。いままでずっと戦ってきたのだろうか。顔は赤く疲れきっていた。


「騎士部隊副隊長!……すまない。この子たちを安全な場所へ連れて行きたい。一緒に来てくれるか?」

「あ…あぁ。……一人…死んだのか?」

「あぁ。この前岸学校を卒業したばかりの新人だった。可哀想だが今悲しんじゃ居られない。この子たちを安全な場所へ」

「あ、あぁ。よし、行こう」


 騎士たちは動かないでいるシーナと少年を抱えながら、ある酒屋へと向かう。三回のノック、その後ゆっくりと店の扉は開いた。


「子供たちが逃げ遅れていた。ここにいさせてやってくれ」

「はいれ」


 店主のような男が騎士たちを中入れ、そっと扉を閉める。中には大勢の人がいた。大勢と言ってもニ十人と少しだ。


「こんな小さい子が……」


 年老いた老婆がシーナと少年に近づき、「これを飲みな」と水のコップを渡す。


「おまえら怪我は?」


 睨み顔の男がシーナたちにそう尋ねる。


「おい!もっと優しく聞け!」 


 騎士たちは男に注意した後老婆から水をもらい、それを一気飲みした。


「この子は大丈夫です。私は左腕を……」


 シーナは自分の腕を男に見せる。


「まぁ…なんてこと……」


 老婆は慌てて、シーナに近寄り傷に手を当てる。


「あ!もう何度も自分で回復呪文をかけたんです」

「じゃが……」

「回復呪文には限界がある。それ以上は回復魔法じゃないと治らないんだろう。おい、おまえとおまえ二階に来い」


 睨み顔の男の指示に従い少年をつれて二階へ上がる。二階には下より多くの人がいた。約十人。その人たちは皆怪我をしていて、うめき声をあげるものもいる。



「二階は怪我人がいる。おまえは三階にいろ」

「もっと優しく言えんのか!」


 老婆が男とシーナとの間に割って入り、シーナと少年を抱きしめる。


「婆さんは黙ってろ」

「あの……」

「今まで怖い思いをしてきたんじゃぞ。この子らは」

「あの……」

「うるせえな」

「あの!」


 シーナは二人の口論に割って入る。


「すまん。どうした?」

「怪我人がいるなら回復呪文を」

「やめとくんじゃ。呪文を使えば魔力が減る。人は魔力が減ると少しずつ体力も削られていくのじゃ。多くの魔力を使ってしまえば動けなくなることもある」

「いいえ。魔力量なら自信があるんです」

「だまれ。ガキ。おまえが動けなくなったらここを動く時置いてくぞ。いやなら……」

「大丈夫です」

「勝手にしろ」

「ダメじゃ」

「やらせとけ。怪我人が動けるようになったら動けなくなったガキを運ばせたらいい」


 男はそう言って一階へと降りていく。一階では騎士たちが少しの休憩をとっていた。


「ん?一人変わってねえか?」


 男は騎士の一人が別人であることに気づき、騎士たちに問いかける。


「一人は死んだ。そしてこの人は騎士部隊の副隊長さんだ。俺たちを助けてくれた」

「……そうか。おい、おまえ、騎士部隊ならさっさと付近の魔獣を狩って来い。というか、いつおまえの部隊は助けに来る?」

「ーーだ」

「あ?」

「終わりだ」


 騎士部隊副隊長ドルトはそう言った。頭を抱えて震えながら。騎士たちは心配になりドルトに問いかける。


「何があったんだ?」

「第七は……第七は……第七は…俺以外全滅した!」


 ドルトの言葉はそこにいたもの全員に恐怖を与え、希望の光を遮るのだった。



 


 

久しぶりの投稿です。少しずつ投稿再開します

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