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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
師匠編
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第三十五話『親と子』

「シーナちゃん。少し歩きましょう」


 軽くシーナは頷き、サミナの後をついていく。


「シーナちゃんはお父さんのこと嫌いでしょ」

「え?いや、そんなことありませんよ」


 サミナの急な問いに慌てながら返事をする。


「隠さないでいいですよ。隊長無愛想だし意地っ張りなところあるからシーナちゃんたちは好きじゃないでしょう」


 そう言ってサミナは空を見上げた。少し悲しそうな目をしているのをシーナは気づいていた。


「……私は父様が嫌いです」

「ははは!そこまできっぱり言われると隊長が可哀想になるなぁ。実はね。私もお父さんとは仲が悪いの」


 笑いながらそう口にするサミナはやはり悲しい顔をしている。


「あまり想像つきませんけど」

「ずっと前に喧嘩して家を出て、そして適当に騎士の下っ端やってたら隊長に拾われた。ずっと前から騎士になるのが夢だった。だから隊長に拾われて騎士部隊に入れて本当に嬉しかったし、努力しててよかったなぁって思った」

「……」


 今日始めて会ったサミナの印象は天真爛漫、人と喧嘩するようなタイプには見えなかった。だが嘘を言っているように見えない。


「気になるでしょ。なんで私がお父さんと喧嘩したか。お父さん、私が騎士になるの反対してたんだ。「女が騎士なんてしても男には勝てない」って。それで喧嘩した」

「そんな……。女性だって……」

「そりゃあなれるよ。でも苦労はした。力じゃ勝てないから技を磨いて頑張った。それでお父さん見返そうって思って騎士になれたこと伝えに行ったら「そんなもの早く辞めて家業を手伝え」だって」


 シーナに怒りの感情が湧く。娘の努力を全て否定するようなサミナの父親に。


「ひどいです」

「本当だよ。最低な父。だけどね……」


 サミナの目からは涙が流れていた。上を向きながら頬から涙が流れていく。


「いつかは仲直りするんだよ。きっと。仲直りしないといけない。なんであんなこと言ったのかとか私はこうしたいんだとか話せるようになる時がきっと来る。でもそれまでたくさん苦労はするかも。シーナちゃんにはそうなってほしくないな」

「え?」


 自分にはそうなってほしくない。そう言われてシーナは自信を失った。自分の父親がどういう人間かが今までわかっていない。そして今も分かっていないままだ。もし、サナスと自分の間で大きな亀裂が生まれるようなことが起きればサミナと同じように喧嘩をしてしまうかもしれない。


「シーナちゃんは隊長のこと好きでなくていい。嫌っていたっていい。だけど、離れ離れになっちゃダメだよ。離れ離れになっちゃったらまた近づくために多くのものを犠牲にしないといけなくなっちゃうから。その犠牲にするものが大切なものだったら辛いでしょ?だから……」


 サミナの目からまた大雫の涙が垂れる。


「だからシーナちゃんは隊長と喧嘩はしないでね。お姉ちゃんとの約束」

「約束……守れるかは分かりませんが…」


 少し俯きながらそう答えた。分かりましたとは言えなかった。


「大丈夫だよ。きっと隊長とシーナちゃんなら」


 そのサミナの言葉に少し勇気づけられながら、シーナは約束を胸にしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈数日後〉


 男は数ヶ月ぶりに肉屋にやってきていた。


「おいおい。久しぶりだな」

「あぁ」

「おまえ仕事するんだって。シーナちゃんから聞いたぞ」


 肉屋の店主が髭を伸ばした男にそう言った。だが男は下を向きながら首を振る。


「は?どういうことだよ」


 肉屋の店主が怒りを含んだ声で尋ねる。


「仕事はしない。あいつとの特訓をやめるための後述だ」

「おまえなんでそんなこと。あの子おまえとの特訓楽しいって言ってたんだぞ。あの子と関わったらおまえも何か変わるんじゃないかと思って……」


 店主がそう口にした時、髭の男は机を叩き、一度店主を睨む。


「思い出すんだ」

「……」


 店主は男の言葉に何も言い返すことができなくなった。


「思い出すんだ。シーナを見ていると。あの子を……。あいつにもっと魔術を教えてやっていたら…もっと一緒にいてやっていたら……」


 店を二人の沈黙が包んでいく。その空間で具体的なことは何も話されていない。ただ、二人だけが知る男の過去と結び合わせ、内容は伝わっていた。


「すまなかった」


 店主がそう謝り、男は店のはじに座りながら、数ヶ月前の日常へと戻っていく。



次回から魔獣災害編です。

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