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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
師匠編
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三十四話『第一騎士部隊』


「はい、サンちゃんご飯ですよ」


 三尾を家に連れ帰ってから約一ヶ月が過ぎていた。三尾のことは未だシーラには黙っている。シーラはあまり魔物が好きではないからだ。ハーダル村で惨いワグルテを見てからシーラは魔物全般を避けるようになった。


 あの村での出来事はシーナも忘れたいが三尾は関係ないし、自分に懐いてもくれているため可愛がっている。三尾は依然として性別も分からないし、おしっこなどもしない。こんな奇妙な三尾をシーナはサンちゃんと名づけた。


「サンちゃん窓から外に出といてください。師匠のところに行きましょう」


 そう言ってシーナは窓を開けて自分は玄関の方から外に出る。ユーリは今自宅へ帰っているため一人で師匠の家まで向かう。ちょうど歩き始めた時、玄関の方からシーラの声がした。慌ててサンちゃんを隠して振り向く。


「今日、お父さん帰ってくるから早く帰ってきなさいね」

「了解です!」


 シーナは気を取り直して歩き始めた。サンちゃんは当たり前のように体を小さくしてシーナの肩に乗る。


「絶対サンちゃんっておかしいと思うんですけど。本当に三尾なんですか?」

「みゃー」


 サンちゃんはまるで言葉を理解したかのように返事をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シーナは誕生日にもらった杖で黄色の閃光を放つ。それは的にあたり的は暗く焦げた。


「一ヶ月。だいぶできるようになったな。これならもう下級魔術師と名乗っても差し支えないだろう」

「まじですか。私かなり才能あります?」

「魔力感知と操作だけはな。変換は普通より少しできるくらいだ」

「感知も操作も簡単だったのになんで変換だけできなかったんだろう?」

「逆だ。なんで感知も操作もあんなにできたのか。そっちが気になる」

「前世の記憶でも残ってたのかもしれません!」

「なわけあるか」

「みゃー」


 シーナはサンちゃんと二人で師匠からもらったミルクを飲んでいる。最近は魔法の特訓もするが基本師匠と雑談に来ているようなものだった。


「その三尾結局なんなんだ?知能は高いし、小さくなるし、生き物としての器官も存在しない」

「分かりません。一体なんなんでしょう」

「みゃー」


 サンちゃんは三尾のような姿形はしているがシーナも三尾だとは思っていない。


「やっぱりどこかの魔物学専攻をとってた魔術師に見てもらうのがいい」

「サンちゃんは危険じゃありませんからね!この話は終わりです。サンちゃんが可哀想。魔法を放つ攻撃魔法以外も教えてくださいよ」

「その魔法は基本だ。もっと威力が上げるべきだ。それと……もう教えられない」


 師匠は言いにくそうにそう答えた。シーナは首を傾げて聞き返す。


「それどういうことですか?」

「仕事を……しようと思ってな。だから明日からはもう来ないでいい」

「そ……そうですか。それじゃあ、ユーリにも伝えておきます。仕事……頑張ってください」

「あぁ」


 シーナは師匠との特訓が好きだった。だからこの時間を大切にしていた。だがそれが急に失われたのだ。一緒にいたいと言いたかった。でもそれは師匠の歩みを止めることになるからシーナは言わなかった。言えなかった。


「それじゃあ。また会う日まで」

「あぁ」


 別れを告げ、シーナは家へと帰っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シーナが家に帰ると大騒ぎが起きていた。人が家にたくさんいる。たくさんといっても十数人だがシーナにとっては大人数だった。そもそも家がそんなに大きくないためこれだけの人数がいると狭く感じる。


「あっ!あなたがシーナちゃん?」

「はっ……はい」


 すごい勢いで飛んできたのは短い髪をした女性だった。ニコニコしながらシーナを見つめている。


「えっとあなたは?」

「あっ。みんな隊服着てないから分からないよね。第一騎士部隊のサミナといいます」

「父様の?」

「そうです!いつもお世話になっております!」


 サミナのテンションは高く、シーナは少し疲れ始めていた。


「はぁ。お仕事の方は?」

「実は迷宮の調査はお休みになったの。国の安全維持を最優先にって」

「何かあったんですか?」

「まあ、ちょっとね。でも大丈夫。安心して。私たちがいるから」


 何かをはぐらかすようにして会話を終わらせた。シーナも深入りするのは良くないと察してそれ以上は聞かなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いつもとは違うたくさんの人との食事。第一騎士部隊の人たちはつい最近までゴーサル森林からの撤収作業で王都と森林を行ったり来たりしていたため久しぶりのゆっくりした食事らしい。そのため皆が各々にはしゃいでいた。


 それに付き合わされ、サナスの娘だからという理由でいろいろ話を聞かれシーナは引っ張りだこだ。師匠との特訓が終わりになってしまったことが胸の引っ掛かりになっているがそんなこと気にしている余裕がないほどの忙しさである。


「はぁ。疲れた」


 そんなシーナはなんとか騎士部隊の人たちから離れ外に避難した。だがそこには三人の大人の姿がある。


「あっ!シーナちゃん!」


 そう言ってはしゃいでいるのは最初に会ったサミナだった。横に座っているのは茶髪で細い男、そして頭がツルツルしている小太りの男だった。


「ほぉ。嬢ちゃんが隊長の娘か」

「どうも」


 シーナは二人に頭を下げ、サミナの横に座った。


「さっきまで中でもみくちゃにされてたな」

「疲れました……」

「だろうな。ヒューズはいないのか」

「たぶん会いたくないんですよ。兄様は……」


 シーナは誰にとは言わずそう答える。だが三人はそれが誰なのか察し、それ以上は聞かなかった。


「いつかヒューズも気づく時が来るさ。騎士王の息子が自分だけじゃないことを」

「それはどういう……」

「自己紹介タイム!」


 シーナが茶髪の男に尋ねようとした時、横にいたハゲが割って入った。


「これから大変になるかも知れねーんだ。重い話はなし。俺はハルト・ゲラ。よろしくな」

 

 小太りのハゲはそう自己紹介した。


「おまえな。俺は副隊長のソル・メゾス」


 次に茶髪の細身の男がそう言った。強そうには見えないが副隊長らしい。


「改めて私はサミナ・テイット」

「シーナ・オルスタルです」

「よろしくね」


 そう自己紹介を終え、三人で最近の話をした。ほとんどシーナが師匠との訓練のことを三人に話す感じだった。魔力操作や感知は簡単にできたのに変換だけ全然できないこと、師匠と今日が最後の特訓だったことなど全部話し、シーナは引っ掛かっていた胸の詰まりを少しやわらげた。


「その師匠さんもシーナちゃんに会えて新しく何かをしようと思ったんだよ」

「そうだ。そうだ」


 サミナの言葉にハルトが相槌を打つ。誰かに話すとちょっとだけすっきりした。その後もたわいもない話を続け、空には無数の星が輝き始めた頃、サミナが急に立ち上がった。


「シーナちゃん少し歩きましょう」



 お久しぶりです。不自然な終わり方です。長かったので少し切りました。続きは明日更新します。

 また、師匠編は明日の話で終了。魔獣災害編へと移ります。師匠編は戦闘などがありませんでしたが魔獣災害編はその名の通り戦闘マシマシ、死人多めです。

 今後ともよろしくお願いします。

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