第二話『魔力』
昨日の急な大雨騒ぎで街はいつもより騒がしかった。話題の内容は誰が天候変化魔法を使ったのかということだ。
その犯人は……
ーー私です。すみません。
「この子が天候変化魔法使ったんですよ!すごいでしょ!できないと思ってエペラルフォサスを唱えさせたら辺りは暗くなって雷がどーんって」
シーラが興奮して、サナスに話をする。そのサナスはシーラから連絡が来て今日の朝方、王宮からこちらに帰ってきた。
「たしかに昨日大雨騒ぎはあったが……。そんな魔力量どこに……」
「それでもこの子が使ったんです。ねぇ魔法学院に入れてあげましょう?すごい魔法士になるわよ。きっと」
半信半疑でシーラの話を聞くサナス。サナスの言い分は一般的だ。剣の家系であるオルスタル家にそんな魔力量はないということ。
昨日、シーナが使った魔法は天候変化呪文エペラルフォサスという超級呪文である。呪文を唱えると勝手に発動してくれる魔法で、誰でも使うことができる。ただその分、魔力量はたくさん使うことになるため、一般人ではエペラルフォサスを唱えても魔力不足で何も起こらないはずなのだ。ちなみに魔術師の家系の子は魔力量が多いため唱えれば使うことができる。
「超級呪文なら最低で青くらいか……。おまえの勘違いだろう」
「それならもう一度使ってみましょう」
シーラの驚くべき提案にシーナは固まる。街の話題は昨日の騒ぎで持ち越しだというのにまた使うなんてごめんだ。昨日の夜も騎士たちが天候変化呪文を使った者がいないか、と街を聞き込みしていた。
「いやです」
「お父さん信じないわよ?」
「騎士に捕まります」
「大丈夫よ。ここにその騎士の隊長がいるんだし」
「騒ぎは起こさないでくれ」
「私も見ていました。シーナちゃんが使ったのは本当です」
カーラがシーラに助け舟を出した。どうしてもシーナを魔法学院に入れたいらしいシーラはカーラに飛び付き「ありがとう」とお礼を言った。カーラはまだ二十歳にもなっておらず、シーラの方が歳上のはずなのにカーラの方が落ち着いていて大人びている。
「……カーラが言うのなら本当なのだろう。魔法学院のことは手配しておく」
「なんでカーラのことは信じるのよ!」
サナスが魔法学院への入学の手配をしてくれるらしい。シーナの心臓は今までにないほど高鳴り、興奮している。
ーーまさか魔法を習うことができるなんて。
「父様、よろしくお願いします」
「あぁ」
サナスは短い返事をし、シーナには目もくれず体の方向を変える。その後ろ姿はとても大きく、たくましい。だがどこか無愛想で好きになれない。
「どこ行くの?」
どこかへ向かおうとするサナスにシーラが声をかけた。一度、振り返り
「ヒューズのところだ。せっかくこっちに帰ってきたんだ。稽古をつけてやりに行く」
と言ってそのまま歩いていく。それを聞きシーナは顔をしかめた。サナスは基本シーナに興味を示さなかった。そのためシーナはサナスのことがあまり好きではない。
逆に兄であるヒューズにはまだ九歳だというのにきつい訓練をさせ、ヒューズはいつも泣いて帰ってくる始末。ヒューズはシーナよりずっとサナスを憎んでいるであろうことは容易に想像できた。
シーナは兄に少し同情しながらも魔法学院へ行けることに胸を高鳴らせ、ステップを踏みながら自分の部屋へと帰った。
自室に戻ってから棚にある本を手に取る。またいつも通りあの本だ。主人公は水や火を操ったり、怪我を治したりとたくさんの魔法を使う。
ーーいつか私もこんな風にできたらいいな。
と思いながら目を閉じた。
目を開けると時間は過ぎ、昼過ぎになっていた。だいぶ寝てしまったと残念に思う。そんな時、誰かがシーナの部屋に入ってきた。
「シーナ、ちょっといいか?」
シーナと同じような綺麗な銀髪。ただシーナのように腰までの長さはなく、短くカットされている。兄のヒューズだ。疲れたような表情をしながら土で汚れた服を着ている。
ーーそんな服で部屋に入ってほしくないですけど……。
とは思ったもののサナスが帰ってきたのは自分のせいなので今回は許すことにした。
「どうかしましたか?」
「父さんから剣技がまったく修得できていないって怒られてね。それで爺ちゃんに教えてもらうよう言われて。シーナ、爺ちゃんに会ったことないだろ?一緒に行かないか?」
「お爺様?ですか?」
たしかに会ったことはない。いったいどんな人なのかも想像がつかない。ただ、すごい人だということはカーラやシーラからは聞いていたため一度は会ってみたかった。だからシーナは即答する。
「会いたいです」
「それじゃあ明日出発だから準備しといてくれ」
「了解しました」
シーナは自分の祖父がいい人ならいいなと思うもののサナスの父であるためあまり期待しないようにしようと心に言い聞かせた。




