第三十三話『魔力変換』
前話から1ヶ月経っています。
誕生日から一ヶ月。
「どうしてだ!」
師匠はまた謎にぶち当たっていた。
「できな〜い!!」
「どうして魔力感知も操作もあれだけできたのに変換だけここまでできないんだ」
師匠はシーナに向かって疑問を投げかける。だがシーナは頬を膨らませそれに言い返した。
「まだ一ヶ月じゃないですか。普通はこのくらいかかるものなんでしょう?」
「あぁ。そうだが。おまえはすぐにできると思っていた」
「私もちょっと傷ついているんです。でもでも、他人の魔力に干渉できるようになりましたよ!」
「普通はそっちができないんだよ」
シーナは魔力操作で人の魔力に干渉できるよになったものの魔力変換だけ一ヶ月たっても出来るようにならなかった。若干シーナは傷ついている。
「俺が追いつくのも時間の問題だな。ふっふっふ」
「まだ魔力操作もできないユーリが何を言ってるんですか?」
「なんだよ!そのまま魔力変換できないままかもしれないぜ!」
「言いましたね。今にも成功させて……」
そう言ってシーナは杖を強く握りぐっと力を込める。魔力を杖の先に集中させ目を閉じて念じる。
「おっ!」
「やっとか」
師匠とユーリの声が重なった。シーナは目を開いて見てみると杖の先が淡く光っている。成功したのだ。
「やったぁ!!」
少し気を抜くとその光は消えてなくなる。
「あぁ、なんで?魔力感知も操作も簡単なのに」
「俺に刺さるからやめて」
「なんか違う気がするんですよね」
「違うとは?」
「感覚が……」
「おまえの感覚でやってみろ」
師匠から言われた通りにシーナは自分の感覚でやってみることにした。杖を置き、手のひらに力を入れる。そして魔力を手のひらに集めて一気に変換する。
瞬間、手のひらからは血が吹き出し、言葉にもできない痛みがシーナの手に訪れる。辺りは血まみれになっていた。
「お、おい!大丈夫か!師匠!!」
「いた……。痛い……」
シーナは手首を抑えて止血を試みるが血が止まる気配がしない。
「手を出せ」
師匠はシーナの手を優しく取ると弾けた手のひらに触れる。
「い……」
師匠は思っていたより強く傷口を抑えるため、痛みが増した。だが少しすると痛みが和らいでいく。目を開けて見てみると弾けていた手のひらが少しずつ治っていっていた。
「完全には治せん。回復師のところで見てもらえ」
「ありがとうございます。これはいったい」
「魔力を外に出さないで変換したんだろ。バカでもしないぞ。そんなこと」
「魔力を外に出さないで」
「つまり体内で魔力を変換したんだ。本来は体から魔力を外に出して変換するものだが今おまえは体内で変換した。だから手のひらが弾け飛んだんだ」
「危険ですね。気をつけます」
シーナは傷痕の残った手のひらを見ながらそう反省した。ユーリは一件落着したため気が抜けたのか床に寝転がっていた。
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シーナとユーリは帰り道、をいつも通り歩いていた。
「みゃー」
そんな二人は共に何かの鳴き声を聞く。辺りを見渡すとちょうどシーナの足元に丸く愛らしい顔、くりくりとした目、そして三本の尻尾を持つ魔物がいた。
「みゃー」
「かわいい!!」
やけにシーナに懐いている魔物は足に顔をすりすりしていた。
「三尾だな。中級の魔物でペットとして飼われてる」
「飼いたい!」
「こんだけ人に懐いてるならどこかの家のペットじゃねぇの?」
そう言ってユーリが三尾に触ろうとした時、三尾はユーリを威嚇し始めた。
「嫌われましたね。三尾さん、ご主人がいるならもう遅いので帰った方がいいですよ」
シーナは三尾にお別れを言って帰ろうとするが三尾はシーナの足から離れようとしなかった。爪でタイツが破れてしまっている。
「ちょっと!一緒に来るんですか?」
「飼い主心配するんじゃね?」
「でも遅いですし一旦預かった方がいいかもしれませんよ」
「じゃあ騎士に預かってもらって……」
ユーリはそういうとシーナの足にしがみついている三尾に手を伸ばした。だがその三尾はユーリから遠ざかっていく。シーナと一緒に。
「本当はシーナが持って帰りたいだけだろ!」
「かわいいじゃないですか!飼いたい!飼いたい!」
「シーラさんとか許してくれないんじゃね?無理だって」
「いけます!隠して持って帰ります。協力して」
「え〜」
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「じゃあまずユーリが先に入って中の状況を」
家の前でシーナはユーリに指示を出す。ユーリは言われた通りに玄関を開けてシーナに今だと合図を送る。
三尾を抱き抱えてシーナは急いで二階の自分の部屋へと駆け込んだ。
「みゃー」
「家では静かにしてくださいね」
「みゃー」
そうやってシーナが落ち着くや否や階段を登る足音が聞こえた。
「シーナ、帰ったならもう夕ご飯にするわよ」
シーラの声だった。このままでは部屋に入ってくる。
「あ、え、どうしよ。……えっと。小さくなれたりします?」
シーナは焦り過ぎて普通の判断ができていなかった。そんなことできるはずがない。だが
「みゃー」
その鳴き声と共に三尾の体は小さくなっていく。
「なんで……」
シーナも自分で言ったことだが動揺を隠せない。だがそんなことはどうでもいい。シーラが来る前に小さくなった三尾を隠す。少し考えた末、シーナは自分の着ているスカートの下に三尾を押し込んだ。
「シーナ、ご飯よ」
「はい、すぐ行きます」
シーラは少し様子のおかしいシーナに首を傾げながら、一階へと降りていった。
「ふぅ」
ため息をつきながらスカートから三尾を出す。持ち上げてお腹の部分を見た。一応シーナも女の子なので三尾がオスだった場合、少し恥ずかしい。
「ないですね。……何もない。え?なんで?何もない!」
オスならあるはずのものも、メスだった場合にあるはずのものも、その三尾にはなかった。たぶんメスだということに決着をつけて不思議な三尾をベッドに置くとシーナは一階へと降りていった。
もうそろそろ師匠編は終わりです。大きなことはなく、まったりした編なので。前菜です。
間話も投稿します。師匠編の途中で登場したある三人視点でのお話です。
次の編に大きく繋がりますのでよろしくお願いします。




