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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
師匠編
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第三十二話『誕生日』

 

 誕生日というのはなんと特別な日だろうか。毎年やってきてその日は自分が特別な存在になれる。

 

 シーナは自分の誕生日パーティーを心待ちに自分の部屋で本を読んでいた。


「シーナ、準備できたわよ」


 シーラからの呼び出し。やっと誕生日パーティーの始まりだ。


「シーナおめでとう」


 そこには母のシーラ、お手伝いのカーラ、そしてユーリとヒーラがいた。残念ながら兄は騎士学校の遠征中であり、父のサナスはゴーサル森林の魔物の討伐のため、森林の方に戻っていた。一週間前はアルフォントが来日するということで警備に来ていたので、来日が一週間遅ければここにいたかもしれない。


 シーナは自分に興味がない父は王都に居ても誕生日は祝ってくれないだろうと思っていた。実際今までサナスから特別に祝われたことはない。


「はい、これ誕生日プレゼントよ。私とカーラから」


 そういって渡されたのは細長い木の箱だった。


「開けていいですか?」

「いいわよ」


 シーナはそっと木の箱の蓋を開ける。そこに入っていたのは一本の杖だった。


「杖!」

「学院に行くんだから杖がないとね」

「ありがとうございます。母様」


 シーナがプレゼントされた杖はマント山脈の巨大樹の枝。かなり高価な上級の杖だった。本来入学時は下級程度の杖を使って学年が上がるたびに新しい杖を買うものだがシーナのこの杖なら中級生までなら十分使うことができるだろう。


「いいなぁ。自分の杖」

「ユーリはまだ買ってないんですか?」

「姉ちゃんのおさがりなんだよ」


 ユーリはヒーラが入学時に使っていた下級の杖をもらったらしい。


「それとこれお父さんからよ」


 シーラがそう言って渡してきたのは一つのローブだった。黒い布地に他の色でいくつかラインの入ったカッコいいローブだ。だが一番シーナが驚いたのはサナスからという言葉だった。毎年サナスからは特にプレゼントをもらったことはなかった。なぜ急にと思ったがその答えはすぐに出る。


「魔法学院の制服じゃない」

「へ?」


 ヒーラはそのローブを知っている。それはアルバルト魔法学院の制服だったからだ。中の服装は自由で上からこのローブを羽織るのが学院の決まりだった。


「そのローブ特殊な魔法陣が編み込まれてて、少しの魔法なら魔法を魔力に分解できるの」

「魔法学院の制服なのに分解しちゃうんですか?」

「魔法学院って魔力変換修得したら魔物対策用の攻撃魔法の講義が最初あるから、悪ふざけで魔法ぶっ放す奴がいるのよ。だから身を守るために必要なの」

「なるほど」


 これで魔法学院の制服、そして自分用の杖は揃った。もう魔法学院に行くために揃えておくものは全て揃ったことになる。シーナが入学するのは九歳になる年。つまり約二年後だ。


「はい。これ姉ちゃんと俺から」


 ユーリから渡されたのはマフラーだった。だが今は外の気温は低くない。どちらかというと暑いくらいだ。


「季節外れじゃないですか?」

「いつも長袖だから寒がりなのかと」

「あぁ。そういうことですか……。ありがとうございます」


 シーナはユーリにお礼を言いマフラーを受け取る。シーナは寒がりというわけではない。だからこのマフラーは寒くなってから着るためちゃんとしまっておくことにした。


「この前の俺の誕生日のお礼だから気にすんな」


 この前シーナは一ヶ月早いユーリの誕生日に魔水晶のネックレスをあげた。ちなみに魔水晶にはいくつか種類があり、このネックレスにの水晶は《変色の石》と呼ばれる触れる人の魔力量によって色が変わる石だ。ゴーサル祭でシーナが触って粉々になったアレである。


「あれ私が触ると壊れますから近づけないでくださいね」


 一応ユーリに伝えておいた。魔力感知ができるようになった今ではなぜ魔水晶が割れたのか分かる。シーナの魔力が多すぎたのだ。


「それじゃ食べましょうか」

「そうですね」


 みんなで豪華な食事を囲む。シーナの中で今までで一番楽しく嬉しい誕生日だったことには違いないだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 楽しい時間はアッという間に過ぎ、もう寝る時間になっていた。シーナはいつも通りヒーラと二人で寝る。


「あんた寝相悪いから縄で縛っていい?」

「そんなことしたらこの部屋から追い出しますからね」

「え?そしたらヒューズ様の部屋で寝よう!」

「やめてください」


 月明かりが窓から入り、寝るにはちょうどいい明るさだった。ヒーラはベッドで横になり目を瞑った時、シーナがヒーラに話しかける。


「ヒーラ、見てほしいものがあります」

「何?」


 シーナはいつになく真面目な表情だ。


「知っているのは母様とカーラだけです。兄様なんかにも隠していて……。ヒーラになら言ってもいいかなと」

「何何?あんた本当は私のこと好きでしょ!」

「嫌いではないです。変態なことを除けば信頼もしてます」


 シーナは率直に自分の気持ちを伝えた。今まで意地を張っていたがシーナの中で一番仲のいいのはヒーラなのだ。


「何?今日のあんた気持ち悪い」

「私が真面目な話してるんだから真面目に聞いてください」

「ハイハイ。それで何?」


 ヒーラが面倒臭そうにシーナに尋ねるとシーナは来ていた上着を脱ぎ始めた。脱いだ服で前の方を隠す。


「ちょっ……。人のこと変態って言えないわよ!」


 シーナの突然の行動にヒーラは焦り、目を逸らす。別に女子同士なら関係ないと思うがやはり目を逸らしてしまうものだ。


 シーナは前の方を隠し、髪を前の方に持ってきて背中が見えるようにしながらヒーラに背中を向けた。そして


「見てください」

「は?あんた本当に変態じゃない!」


 ヒーラはそう言ってシーナの言う通り上裸のシーナの背中を見た。


「え……」


 そしてヒーラは言葉を失った。美しい銀髪と整った顔立ち、幼い体には違和感しかないアザのような傷跡のようなものが肩から腰にかけてあった。


「生まれた時からあるんです。ときどき痛みます。何回も回復師のところに行ってみたりもしたんですが回復魔法が効かないんです。それで私幼い頃から肌を見せるのが好きじゃなくてずっと長袖を着ているんです」


 ヒーラは少し近づきその傷にふれた。茶、黒、青たくさんの色が入り混じってところどころ血管が浮き上がったような傷。回復魔法をかけてみるが変化は一切ない。


「どうなってんの……」

「たぶん一生このままだと思います。覚悟はしています」


 シーナはそう言うと手に持っていた服を着て、ヒーラの座っている横に座る。


「そんなことないわよ。この世界は広い。千切れた腕も回復できたりする魔術師もいるのよ。あんたのこの傷も治るわよ」


 ヒーラはそっとシーナを抱きしめそっと優しく頭を撫でた。


今回で多分十万字ですがキャラ紹介と設定紹介を除くと師匠編の終わりくらいに十万字行くと予想しております。

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