第二十九話『最強の騎士二人』
「入っていいぞ」
おじさんから許可をもらいシーナ達は家に入った。おじさんから言われたとおりに椅子に座るとおじさんは魔法について話し始めた。
「魔法は三分野に分かれる。一つは魔力感知、もう一つは魔力操作、そして魔力変換だ。一番、大事なのは魔力変換だが、前の二つがうまくできんと教えることもできん。だからまずは魔力感知だ。目を瞑ってみろ」
シーナは言われた通りに目を瞑り、そしておじさんから杖を受け取り手に力を入れる。
「どうだ?少しだけ魔力を感じないか?」
そんなこと言われたてもそう簡単には感じないと思いきや、少しだけ手がくすぐったい。
「手がちょっとくすぐったいです!」
「そうだ。それが魔力だ」
「目開けていいですか?」
「いやまだだ。手に感覚を集中しろ」
今まで以上に手に感覚を集中させる。やはりでは少しだけくすぐったく、何かからくすぐられている感覚がある。だがここでシーナはその手に違和感を持ち、言われたことを無視して目を開けてみた。
「あ……」
すると自分の手をくすぐっているユーリと目が合う。少しずつ目を逸らしていくユーリにシーナは手のひらを向け
「火よここに」
ユーリの服には火がついて燃えていく。ユーリは焦りはたいて火を消すと安心したのか床に倒れ込む。
「おじさんがやれって言った!」
シーナはおじさんの方を睨み、手のひらを向ける。
「意味があるんだ。こうすると感覚が掴みやすくなる」
「それ本当なんですか?」
「本当だ。宮廷魔術師の間では有名な話だ」
「宮廷魔術師の間ではって……?」
「そこは気にするな。とにかく一ヶ月もすればできるようになる」
シーナはしぶしぶ受け入れ、おじさんを燃やすのは一ヶ月後に延期することにした。
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杖を持った手をユーリとシーナは互いにくすぐり合うという奇妙な訓練?をした後、家に帰ってきていた。
「ちょっと来なさい」
帰ってくるや否や、ヒーラからシーナは自室へ呼び出させる。部屋に入ると床には大きな魔法陣が描かれていた。
「なんですか……これ」
「魔法陣よ。なんか呪文唱えてみなさい」
「火よここに」
言われた通りに下級の呪文を唱えてみると何も起こらない。右手の手のひらにいつもは火の玉が出現するはずだがそれが起こらないのだ。
「すごい。ありがとうございます」
「どういたしまして。明日私とユーリ帰るから」
「え?それじゃあ明日から私一人でおじさんの家に行くんですか?」
「そうなるわね。カーラさんについて来て貰えば?でも一人で歩く練習もした方がいいんじゃない?」
「そうですよね……」
カーラについて来てもらうのは簡単だ。だがそれでは外に出る練習にならない。学院に入れば寮生活。カーラもシーラもいないところで一人で過ごすことになる。
「一人で行ってみます」
そう決心し明日から一人で外に出る練習をすることにした。
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次の日の朝、ユーリとヒーラはすでに日が昇らないうちに帰ってしまった。シーナは一人でおじさんの家に向かうため、玄関扉を開けた。そこでシーナは止まってしまう。
朝人通りが少ないうちに出ようと思っていたが、通りの様子がいつもとまったく違う。通りを埋め尽くす騎士たち。武装し、街の見回りを行なっていた。一度扉を閉め何が起こっているのかシーラに尋ねに行く。
「今日はメルサリア教国の使徒の人が来るらしくて騎士の人が見回りをしてるのよ。あの人もお爺様も見回りしてるわよ」
あの人とはシーラの夫でシーナの父、サナスのことだ。ゴーサル森林の魔物の討伐に行っており、ここ数年帰って来ていないが今だけは帰って来ているらしい。それに加えてアーザル国最強の騎士『騎士王』ノストラルまで駆り出されているということだ。
「どうしよう……」
いくら騎士だと言ってもこの人数の人のいる道を一人で歩ける自信はない。
「お嬢様、今日は私も同行します」
カーラがそう言って手を握ってくれた。
「ありがとう」
一人で外に出る練習は明日からということにして今日はカーラと一緒におじさんの家に行くことにした。
街はやはり騎士たちであふれかえり、いつもとは全く違う雰囲気がある。そんな中を制服の違う青い髪の騎士が歩いているのを見つける。シーナはその青年を見つめているとあちらと目があってしまう。青年は少し驚いた顔をした後、シーナの方に近づいて来た。
シーナは少し怖くなりカーラの後ろに隠れる。街の騎士たちは青髪の青年を皆で監視しているようだった。
「どうかなされたのですか?」
「いえいえ、敵意などはありません。そこにいる少女の魔力量が見たこともないほどだったので、少しお話をしたくなっただけです」
カーラの高圧的問いかけに青髪の青年は慌てて敵意がないことをさわやかに説明する。明らかに普通とは違う青年は小さく屈みシーナと同じ目線になりながら話しかける。
「君は生まれつきその魔力なの?」
シーナはカーラの後ろに隠れたまま首だけを縦に振る。青年は驚きの表情を一度してこう続けた。
「そうか。すごいな。理からはずれている者同士強く生きていこう」
青年はシーナに手を差し伸べ、シーナはその手の小指を優しくつかんだ。
「アルフォント殿、うちの孫に興味がありますかな?ですが嫁にやるにはちと若すぎます」
青年は言葉のする方を向くとその言葉の主の名を呼んだ。
「ノストラル」
そこに現れたのはシーナの祖父であるノストラル・オルスタルだった。村での服とは違い、騎士の隊服を着ているノストラルは高齢ながらまだ若々しさを残していた。
「まさか……この子はノストラル様のお孫さんでしたか」
「かわいいじゃろう?」
「えぇ実に」
青年はノストラルに同意した後、小さな声でこう続けた。
「剣の家系でこの魔力……本当に理から外れている」
シーナと青年はまた目が合い、青年はシーナに向かって微笑んだ。それは疑問や敵意、おぞましい感情のようなものではなく、純粋な同類の者への親近感といった感じだった。
「アルフォント……」
カーラが何かに気づいたかのようにその名を呼ぶ。
「あぁ。申し遅れました。僕はメルサリア教国第一の騎士、アーザル国への使徒として送られることとなったアルフォント・ヘルマ・サモラスです」
シーナはフルネームを聞いてやっと思い出した。アルフォント・ヘルマ・サモラス。それはメルサリア教国最強の騎士。アーザル国で最強がノストラルならメルサリア強国の最強。『理から外れし者』『無敵』『青い神剣』と複数の称号を冠する騎士たちの到達点だった。
「この騎士たちもアルフォントの護衛というよりはアルフォントが暴れた時のための監視役のようなものじゃ。いくらメルサリア教国と友好的とはいえ、他国の最高戦力をのこのこと歩かせるわけにはいかんでな」
「僕はそんなことするつもりはないんですがね」
二人は仲良さそうに笑い話していた。二つの大国の最強が立ち話をする。なんとも珍しい光景だった。
アルフォント初登場ということで次話は短編で投稿しているアルフォントの外伝を投稿します。
今日はあと二時くらいに外伝、五時くらいにキャラクター紹介、十一時くらいに最新話投稿すると思います。
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