表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
師匠編
31/59

第二十八話『特訓の始まり』

 

「なんか昨日はお世話になったようでありがとうございます」

「本当よ。感謝しなさい。それに私だって痛かったんだから」


 朝、ヒーラとシーナは昨日のことで話していた。怪我はすっかり治っていて痛みはなくなっている。それもヒーラのおかげだ。


「てかあんた私にお世話になりすぎよ」

「実に不愉快で屈辱ではありますが否定はできません。感謝しています」

「素直じゃないわね。寝言で呪文唱えるとかどんだけ好きなのよ」

「いやぁ、夢でヒーラを吹き飛ばしたと思ったら現実で自分が吹き飛んでました。お恥ずかしい」

「あんたもう一回吹き飛ばしてやろうか」


 二人がいつも通りの話をしていると部屋にユーリが入ってきた。シーナは男は入ってくる時になんでノックしないんだとユーリと兄を重ね少しだけ嫌な顔をする。


「準備できたぞ」

「私もできました。ヒーラは結界?かなんかを作るんですよね」

「二人で行ってきなさい」


 そうしてシーナとユーリの二人はまた昨日の肉屋に歩きだした。


「朝早くね?おじさんいるのかよ」

「いなくても来るまで待っていればいいじゃないですか。人が少ない時間に行きたかったんです。まだ……人の目線は少し怖いですから……」

「……」


 シーナがそういうとユーリは無言で手を差し出した。シーナはその手を取らずこう口にする。


「なんですか?その手」

「怖いなら手でも握ってやろうと思っただけだよ」

「必要ないですよ」


 ユーリがカーラと仲良くしていることにシーナは嫉妬していた。だからその手を取ることができなかったのだ。無駄に意地っ張りなところがあるシーナはこういうところで損をしがちである。


 そうこうしていると二人は昨日の肉屋にたどり着いた。店に入るとそこには肉屋の店長とあのおじさんがいた。話はせず店長は肉の解体、おじさんは店の端に座りそれを見ていた。


「あっ二人とも来てくれたか!こいつを説得しといたぞ」

「された覚えはない」


 また昨日と同じように男は店を出ていこうとする。それを肉屋の店長は引き止め


「頼む。これは俺のためでもあるんだ。……おまえがそうなったのも俺の責任なんだ。ずっとそうやって責任抱えてんだよ。俺は人の幸せを願ってた。だがその幸せが他人の不幸になるってことを俺は知らなかったんだ。おまえが少しでも人と関わったりしてくれたら俺は少し楽になるんだ。これは俺の独りよがりの逃避だ。頼むよ」


 肉屋の店長は男に熱く語りかける。それは自分の罪の告白にも等しいものだった。


「わかった……。だがあのことは気にするなと言ったはずだ」

「それでも気にしちまうもんなんだよ。嬢ちゃんたちすまねえな。こいつもいいって言ってくれてるしよろしくな」

「はい」


 シーナたちはなんの話かはわからないものの返事をして男と共に店を出た。


 三人は共に歩き、おじさんの家に向かっている途中である。シーナはおじさんの腰につけた杖に目をやる。白く独創的な形をした杖だった。


「その杖良いものだと聞きました」

「あぁ。これは四百年前の【最愛の魔女】ハヤメサの骨でできている。世界にも十本しかない神級中の杖だ」

「魔女?ってことは人の骨なんですか!」


 魔女の称号を持つものはこの世界に複数いる。女性の魔術師が称号を与えられる場合は魔女として登録されるからだ。


「これは人の骨じゃない。そもそも人の骨なんかを杖にしたところで何の意味もない」

「どういうことですか?魔女の骨なんですよね?」

「【最愛の魔女】ハヤメサは魔物だったんだ。禁忌級に相当する。人に化けてあのハヤメサ魔法国を建てたものの、【悪龍】サンプレオンの襲撃に遭い、敗れ、死んだ。それを嘆いたハヤメサ魔法国の国民が彼女の骨を使い杖を十本作ったとされている」


 おじさんはそう説明しながらシーナに杖を渡した。シーナはそれを手に取り見ながら


「最強の杖なんですか?」


 と尋ねる。だがおじさんは首を横に振り、こう口にする。


「この世には禁忌級の杖が存在する。それには及ばない」

「ほしい!それどうやったら手に入るんだ?」


 横で珍しく静かに聞いていたユーリだが最強という言葉に我慢できず、おじさんに大きな声で尋ねた。


「不可能だ。ほとんどが所在が分かっていない。そのうち一本は魔法学院の校長が持っているがあの校長は誰にも渡さんだろう」

「その校長ってアルバルト魔法学院の?」

「あぁ。【三等星】アルバルト・サーモスだ」

「俺らが行く学院じゃん!」


 【三等星】アルバルト・サーモス。三百年前、【白銀の魔女】の起こした魔獣災害を食い止めることに大きな役割を果たした六人の一人だ。一等星から六等星までいる中の三番目。大魔術師としてアルバルト魔法学院を設立した。


「会ったら杖を見せてもらうといい。ただ、少しイタズラ好きなところがあるから校長室に入る時は気をつけろ」


 男はアルバルトを知っているかのようにそう話した。まさかアルバルト魔法学院の卒業生なのかと聞こうとしたがちょうど家に着いてしまう。


「ここだ……が、開けても驚くなよ」


 男はそう言った後、玄関をゆっくりと開いく。そこでシーナは驚きのあまり大声を出してしまった。


「きたなっ!」


 優しく言ってゴミ屋敷。脱ぎ散らかしてある服や洗ってない食器がそこら中にある。


「すぐに片付けるから待ってろ」


 男はそう言うと同時に杖を手に握り、音楽の指揮をとるかのように振り出した。そうすると周りにあった服は畳まれていき、食器は台所に運ばれる。一人でに雑巾やほうきが動き出し掃除をし始めた。


「あ……」


 あまりの汚さへの驚きは魔法というシーナにとって未知の力への興奮へと変わっていた。明らかに今まで見てきた魔法とはレベルが違う。


 数分経った時にはもうすでに掃除は完了していた。少しだけ床にシミが残っているものの、数分前より格段に綺麗になっている。これが魔法。シーナはこれがいつか自分でもできるようになるのかと思うと興奮が抑えられなくなっていた。


師匠編はゆったり進みます。日常回、シーナの成長回です。祭編、村編ともに活躍が少ない主人公ですのでここで成長して次の編では活躍してもらいたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ