第二十七話『呪文のデメリット』
「おまえ……一体なんの魔物と契約を交わした?」
シーナは首を傾け、綺麗な銀髪が肩にさらりとかかった。髪の伸びきった汚らしい男は驚きのあまり顔がひきつり、ただでさえ怖い容姿がいっそう恐ろしくなる。
「その子は契約なんてしてない。子供の頃からずっとその魔力量よ」
男はヒーラの言葉を聞き、いっそう顔を引き攣らせる。
「これが素の魔力量なのか……。契約なしで…そんなこと…」
「よく分からんがオヤジ、この子に魔法教えてやれよ」
「それはできん」
男はそう吐き捨て店を出て行った。
「すまねぇな。また明日来てからねぇか?明日までに説得しておくからよ」
「は……はい」
シーナたちもその店を後にしようとした時、店にまた違う人が入ってきた。その容姿を見てシーナは言葉を失う。
さっきの男とは全く違うベクトルで異様な姿。体はふかふかの毛で覆われ、耳が頭から生えている。いわゆる獣族だ。シーナは初めて見る獣族を無意識で見つめてしまっていた。
「……どうかした?」
獣族の女性から尋ねられ、シーナは慌てる。
「す、すみません。獣族を見るのは初めてで……」
「あぁ。そういうこと。ヘンリルじゃ見ることはないかもね。一度ヘンリルからでてバンドとかに行ってみたらいろんな種族がいるからおもしろいよ」
「いつか機会があれば」
シーナたちは獣族の女性と話を終え、店を後にする。その帰り道の途中、
「俺も魔法習いたい!」
とユーリが言うため、明日はシーナと二人でおじさんに教えてもらえるよう頼むこととなった。
「今日は泊まるんですか?」
「そうする。明日も家からこっち来るの面倒だし」
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シーナは自分のベッドを整えていた。毎回ヒーラたちが泊まりに来る時はユーリはヒューズの部屋、ヒーラはシーナの部屋で寝る。ベッドが整っていないとヒーラからぐちぐち言われてしまうため綺麗に整えていたのだ。
「ふう。お風呂気持ちよかった」
そうしているとヒーラは湯気をだしながら部屋に入ってくる。髪はまだ少し濡れているかと思えば、一度ヒーラが手で撫でると同時に乾いてしまう。
「魔法ですか?」
「そうよ。便利でしょ」
魔法は万能でなんだってできる。だからこそシーナは魔法に惹かれたのだ。シーナが外に出ようと頑張れるのは魔法のおかげだった。
「ヒーラが私やユーリに魔法教えてくださいよ」
「いやよ。面倒だもん」
「どうせ暇人でしょ?」
「剣の稽古とかもあるの。明日あのおじさんに頼みなさいよ。たぶんあのおじさん、かなり魔法できるわよ」
ヒーラの言葉にシーナは疑問を持つ。そしてその疑問を問いかけた。
「そんなの分かるんですか?」
「見た目だけじゃ分からないけど、あのおじさんが持ってた杖。腰のところにつけてたでしょ?」
「見てません」
「その杖がかなり良い物だったのと魔力量がかなり多かった。私と同じくらい。たぶん相当上の魔術師よ。なんであんなところで暇してるのか分からないくらいの」
「良い人だって肉屋の店長さん言ってましたし、明日ユーリと一緒に頼みに行きます」
シーナはまた外に出ることへの不安と魔法に一歩近づけるかもしれない喜びが入り混じり、心が落ち着かなかった。
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〈ヒーラ視点〉
深夜、家のみんなが寝静まった頃。ヒーラはドンッという音と共に背中を壁にぶつけた。痛みは全身を走りもだえる。何者からか壁に叩きつけられたかのような感触。すかさず背中に回復魔法をかけつつ、起き上がる。魔法で灯りをつけ部屋を見渡すとベッドと向かいにある本棚。その下に横たわるシーナを見つけ状況を理解した。
本棚からはいくつかの本がシーナに落ちているようだった。シーナは痛みでもだえ、本が当たったのであろうおでこの部分を手で押さえていた。
「どうしたの!」
シーラがさっきの音で気づいたのか部屋に入ってきた。本棚の下で横たわるシーナを見つけ急いでそこに駆け寄る。
「どうなされたのですか?」
次はカーラもそこにやってくる。そんな二人にヒーラは状況を説明しながらシーナに回復魔法をかけてあげた。
「たぶん寝言で風の呪文でも唱えたんですよ。「風よ……」って。それで自分が吹き飛んで本棚に当たってって感じです」
「寝言で言っても呪文は発動するの?」
「はい。毎年事故が起きたりしてます。火の呪文とかじゃなくてよかったです。火事になるところでした」
ヒーラの説明にカーラもシーラも知らなかったと驚く。毎年のように起きている呪文の事故は全国で問題となっていた。呪文の廃止も検討されたが、呪文というのは賢者ハコラスの作った大結界を媒体にしており、魔術研究者から大結界の廃止は大反対され呪文は今も残ったままとなっている。
「明日この部屋だけ呪文が使えないようにする結界を作りますよ。そしたらこんなことも起こらないでしょうから」
「ありがとうね。ヒーラちゃん」
「う……う…」
回復魔法をかけたがまだ痛みは残っているのかシーナはまだ悶えていた。
昨日休載すると言って今日投稿しています。なぜならゴールデンウィークだからです。時間ができて師匠編も仕上がってきました。ということで次の投稿は二日後くらいです。




