第一話『始まりの魔法』
「母様、手伝います」
少女は母の手伝いをしようと台所に手を伸ばした。だがまだ背丈も低く届く気配がしない。
「いいのよ。シーナ。まだ台所にも背が届かないでしょう?」
「まだ三歳なのにお利口ですね」
母からは断られてしまったが家政婦が褒めてくれたため、少女は上機嫌になる。
「お嬢様、私と遊んでくれますか?」
と家政婦が頼んできたので少女は家政婦と遊ぶことにした。
少女の名はシーナ・オルスタル。人族領最大の国ーーアーザル国。その第一騎士部隊を率いる隊長サナス・オルスタルの娘だ。
シーナは母のシーラ・オルスタル、兄のヒューズ・オルスタル、お手伝いのカーラ・マリスとの四人暮らし。父のサナスは騎士の仕事のため王宮に寝泊まりをしており、ほぼ家に帰ってこない。
シーナは母と同じ艶やかな銀髪で、街にシーラと買い物に行くとおじさま、おばさまに大人気だった。また、同い年の子達より頭がよく、算術や言葉、文字などは二歳の時にだいたいを習得してしまう才女である。そのため周りからの評価は高く、シーナ自身もそれを分かっていた。シーラは優しく、ヒューズはさわやかな好青年だ。
お手伝いのカーラ・マリスはマリス家との関係が悪く、家を飛び出し今はオルスタル家の使用人として働いているらしい。だが詳しいことは難しくてシーナにはまだ分からなかった。
シーナはカーラと二人で自分の部屋に行き、一冊の本を手にする。小さな頃はシーラやカーラ、ヒューズが読み聞かせをしてくれ、言葉が分かるようになったら自分でも読み進めている本。その本をカーラに読み聞かせてあげるのだ。
「この本にします」
「お嬢様、またその本ですか?他にもたくさん本があるのに。これとかどうですか?」
カーラはそう言って本棚にぎっしりと並べられた本の中からいくつかをとってみせる。でもシーナはそれを断ってまた本を読み始める。どうしてかシーナはこの本に惹かれている。まだ読んでいない本はたくさんあるのにやはりこの本を手に取って読んでしまうのだ。もう目を瞑っても読めるくらい何度も見たセリフ。その一つ一つがシーナを掴み続けている。
カーラと二人でその本を読み進め、ちょうど主人公たちが世界を滅ぼそうとする敵を見つけるシーン。その時シーラからお昼ご飯の呼び出しがきた。
ーータイミング良くないなぁ。
「行きましょう。お嬢さま」
「はい」
パンとスープと魔物の卵の簡単な料理。それを食べながらシーナはずっと気になっていたことを母様に尋ねてみることにした。
「母様、私の魔力量はどのくらいなのでしょうか?」
「そうね。私もよく分からないわよ。魔法に詳しくないし。ヒーラちゃんは魔法学院に通ってたって言ってたからその子に聞くのが一番でしょうけど……」
シーナの聞いたことのない名前だった。シーナが真剣にシーラの話を聞いているとシーラは言いにくそうに顔を下に向けながら続ける。
「たぶんね。剣の家系だし、魔力はそれほどないと思うわよ?」
予想はしていた答え。ただ、それはショックが大きかった。シーナにとって魔法は初めて興味を持ったものだったからだ。
「使ってみたいです」
魔法の道に進めないなら一度くらい使ってみたい。そう思った。
「そうね。「エペラルフォサス」って唱えてみなさい」
「奥様、「フォサス」はさすがに使えないと……」
「一回試してみたらいいじゃない」
シーラはそう言って唱えてみるように進める。シーナも試しに一度唱えてみる。
「エペラルフォサス」
そう唱えた途端。空には雲が回転しながら現れる。街は闇に包まれ、光が見えたと思えば轟音がなりひびいた。外にいた街の人々は大急ぎで屋根のある場所へ避難を始める。シーナには何が起こっているのか分からない。恐怖が押し寄せてくる。
「母様、怖い」
シーナはシーラに抱きつきそう囁く。外は大雨が降り始める。シーラはそんな様子を窓から見て唖然とした様子で外を見ていた。
「洗濯物が!」
カーラはすぐに外に干していた洗濯物を取りに二階へ上がって行った。シーナはそんなカーラの様子を見て、一安心。
ーー世界が滅んだりしないでよかった…。
シーナはこの状況への不安を持ちながら、何も言わず外を見続けるシーラにしがみついた。
最初は設定紹介が多くなってしまい、あまり話が進みませんがよろしくお願いします。いつかここにある伏線を回収できる日が来ることを願っています。