第二十話『祭十一』
シーナ、ヒーラの場面に戻ります。
「シーナ、ヒーラ!!」
シーナとヒーラのいる廃墟にヒューズが飛び込んでくる。アールと言えど予想しない第三者の登場に一瞬の隙ができた。そこをヒーラは逃さない。一瞬にして剣を魔法で作り出し、アールに斬りかかる。
だがアールはそれに反応し剣で打ち返そうとした時、ヒーラの剣は下に逸れる。そのままヒーラは体をかがめ、アールの背後に回りもう一度剣を振る。天神流裏奥義『流星』。敵の背後をとる天神流ならではの技だ。そしてアールの脇腹に剣が触れそうになる直後、アールは地面を蹴り、その剣をギリギリで避けた。
「チッ。おい、賢くなれ。おまえらじゃ俺には勝てない。それに人質だって……」
アールがもう一人座っているはずのシーナの方に目を向ける。だがその椅子にはシーナはいなかった。アールは周囲を見渡すと手のひらをアールに向けたシーナが立っている。
「おい、嬢ちゃんその手を向けて何をするってんだ?」
「わ…私は……かなり…大量の……魔力をも……持っています!ここで……私がシームの呪文……を唱えれば…あなたは死に……死にます!」
震える右手を左手で押さえながらシーナはアールに向かって脅しをかける。守られてばかりではいけない。自分なりに考えたできることをシーナはする。
「俺は言ったよな。シーナって娘だけ殺すって。顔はわからねえがあいつらは魔力量が異常なほど多いって言っていた。……おまえがシーナだな」
シーナはアールの言葉により右手だけでなく、体全身が震える。唇もうまく動かせない。立つこともままなら無くなり、膝をついた瞬間、アールはシーナの首めがけて剣を振る。それをギリギリで打ち返したのはヒューズだった。
「シーナ、お兄ちゃんの後ろに下がって」
ヒューズはハーダル村の一件で何もできなかった自分を悔いていた。だからその悔いを晴らす最大のチャンス。自分より遥かに格上のアールに果敢に立ち向かう。
ヒューズは天神流の足運びでアールとの間合いを詰めていく。だが、アールはそんなヒューズの動きを見切り剣の腹でヒューズの顔を強く打つ。その反動でヒューズはカウンターテーブルの方に吹き飛んだ。
「ヒューズ様!!」
「兄様!!」
ヒーラとシーナはヒューズの方に駆け寄ろうとするもアールが邪魔でどうすることもできない。
「よくもヒューズ様を!」
ヒーラは怒りに任せながらも的確な攻撃をアールに続ける。アールはその剣をギリギリで避け続けて、自分の剣では受けようとしない。そこでヒーラは自分の工作にアールが気づいていることを確信する。
「おまえのその剣、魔法で電気通してるだろ。剣で受けたら感電する」
「それが分かっていても戦いづらいのは変わらないでしょ」
ヒーラの攻撃は続き、アールはその剣を避け続けながらヒーラの隙を探す。そしてヒーラの疲労による隙を見つけすぐさま反撃をした瞬間、その剣をヒューズが打ち返した。
そのまま戦いは二対一の攻防になるも、アールは難なく二人の剣をさばき続けていた。
そんな中シーナは店の中から一つの酒瓶を見つける。そして震える手足を深呼吸をすることで止め、大きな声でヒーラとヒューズに合図を送る。
「ヒーラ、兄様、避けて!」
その合図にヒーラとヒューズは地面を蹴り後ろへ下がる。シーナは酒瓶をアールに投げつけるとアールは思った通り酒瓶を剣で粉砕する。中に入っていた酒が飛び散る瞬間を狙い
「火よここに」
下級の呪文で火の球を出し、酒に投げつける。酒には一瞬で火がつきアールは目を瞑った。その隙を逃すまいとヒューズとヒーラは剣でアールを攻撃する。
だが、アールに近づいたヒーラは蹴り飛ばされ、ヒューズは剣で攻撃を受けられる。
「そんな……」
あまりにも劣勢な状況。シーナにはどうすることもできなかった。
だがそんな時ある男がそこに現れる。
「そこまでにしとけ【人斬り】」
若い男がアールにそう告げる。シーナとヒーラにはその男に見覚えがあった。その男はメールという女性と一緒にいた男だった。
「なんだおまえ」
「ナミリス教のロードだ」
「ナミリス教?なんで世界の咎人がこんなところにいる?」
「なんだっていいだろ。お前を脅して従わせていた連中はもういない」
「何言ってやがる?そんなこと信用できない。こっちは二人の命がかかってるんだ」
アールはそういうとロードに斬りかかった。アールの怒涛の斬撃にロードはなんとか対応する。だが不利なのは間違いなくロードだ。
「待て。話を聞け」
「……おまえのその根拠のない話を聞く気にならない」
「ソムルとトークは俺が相手をした。途中で騎士が来て仕留め損なったが身柄は騎士が連行した。サンプとヘイムも仲間が相手をして、もう決着はついたろう。おまえの人質を拘束しているホールとフィルメールの方には、内のリーダーが向かって、タルエス兄弟は保護した。ここまでは確実だ。残りはトンボだが、そっちも仲間がなんとかしただろう。たぶん……」
仮面側で起こった不足の事態。それを起こしていたのはナミリス教徒を名乗る者たちだった。
「……本当なのか?」
さっきまでの恐ろしい顔のアールはおらず、安堵したようなだがまだ半信半疑でいるアールがそこにいた。剣を持つ手にはさっきのように力は入っていない。
「あぁ。ナミリス神に誓おう」
「本当なんだろうな……」
アールが落ち着きを取り戻し、もう一度真偽を尋ねたその時、アールに大きな隙が生まれる。その隙を利用してロードは持っていた剣でアールの腹を突き刺した。血は剣を伝って流れ、アールは吐血する。
「なっ……」
「ちょっと……」
「へ……」
シーナ、ヒューズ、ヒーラはそれぞれ状況が分からず声が漏れる。
「悪いなアール。やはりおまえには隙をつくらないと勝てない。タルエス兄弟を保護したのは本当だ。だがあんたを生かしておくのは危険だ。すまないな」
「本当に……二人は無事なんだよな……?」
血を吐きながらも二人の安否を確認し続けるアール。その腹に突き刺さった剣をロードは素早く横にスライドさせる。左脇腹は斬られ、そこから血とそれとは別に胃液のようなものが流れ出る。
「あぁ無事だ」
「いや……。なんで…こんな……」
シーナは状況の読み取れなさと恐怖により震えが止まらなくなる。アールの腹の真ん中から左脇腹にかけて斬られた傷。そしてそこから流れる血と胃液。それがシーナを恐怖に落とす。
「よかっ……」
「アールさん!!」
アールは薄れゆく意識の中、自分の名前を呼ぶ少年の声を聞き微笑む。何度も聞いて聞きなれた声だ。双子で顔も声も似てるがアールには聞き分けがつく。間違いなくタルエスの兄の方の声。そしてアールはつらく苦しかった過去のことを思い出していた。




