第十九話『祭十』
〈第三騎士部隊隊長イラマス視点〉
時は戻り祭一日目。イラマスは祭りの警備のため同じ騎士部隊のハラルと共に大通りに来ていた。そしてイラマスは二人の少女とそれを監視しているような男女二人を見つける。
「あれサナスの娘だよな?」
「そうですね。隊長ハーダル村の事件まだ解決してないんですよね」
「あぁ。妹が担当して捜査は続けてる。二人を監視してるようなカップルいるよな」
「いますね」
ハラルもカップルの存在に気付いていたらしい。イラマスはこのまま見過ごす訳にもいかず行動に移す。さっきから二人が残念賞ばかりを引き当てているくじ引きの屋台に行き、イラマスは【探し物の才】を使って一等の景品を当てた。
ハラルに卑怯だと言われながらもその景品を二人の少女に渡して、あのカップルの方に目を向ける。あちらもイラマスに気づかれたと分かり反対側に体の向きを変えた。
「ハラル、職務質問に行くぞ」
「了解です」
イラマスとハラルは駆け足でカップルに近づき男の方の肩を叩く。
「やぁ、カップルかな?ちょっと質問していい?」
イラマスは軽く彼らに話しかける。
「えぇ大丈夫ですよ」
「お名前は?」
「俺はハリメス、こいつ……彼女はヒルミスだ」
「今彼女さんのことこいつって……」
「言ってない」
明らかにおかしな受け答えをする男にイラマスはますます疑いを持つ。
「ていうか私とハリメスさんはカップルじゃ……」
「おまえは黙ってろ」
ヒルミスという女の方が何か言おうとするのをハリメスという男が口をふさぎ止める。
「なんかカップルにしてはそこまで仲良くないように見えるね」
「気のせいでしょう。ははは」
嘘をつくにももっと演技をしてほしいものだがハリメスとヒルミスの演技はグダグダだ。さすがのイラマスも嘘だともう気づいている。それと同時に疑いがどんどん膨れ上がっていた。そんなイラマスをよそにハラルが何か考え事をしていた。
「どうしたハラル?」
「いや、ヒルミスとハリメスってどっかで聞いたことがあるような気がして」
「そんな名前どこにでもいるような名前ですから。ははは」
相変わらず男は下手な誤魔化しをする。イラマスは我慢できず本題に入った。
「あんたらさっき二人の少女のこと見てただろ」
「あぁ可愛かったよね。あとすごい魔力……」
「おまえは黙ってろって言っただろ。いやぁ。くじ引き何回もしてて可愛いなぁって思って見てただけですよ」
「あのなぁ。嘘つくにしてももっと隠そうとしろよあんたら。ちょっと場所変えて話聞くから」
イラマスはそのまま二人を連行しようとした時、ハリメスはイラマスの右手を取り握手する。
「は?あんたどうした?」
「探し物の才か。使い勝手のいい才だ。だが探す物を間違えないようにしろよ。第三の隊長」
ハリメスという男は急に態度を変え、鋭い眼光でイラマスを見る。予想もしていない事態に大通りでの戦闘も覚悟したイラマスだがハリメスはそのままイラマスの手を離した。
「……あんた何もんだ?」
「おまえは知らないでいい。それと……仮面はすぐそこまで来ているぞ」
態度の変わった男の正体は分からずとも、最後の一言でこのまま逃してはまずいことを確信する。イラマスは背中にある長剣に手をかけ抜こうとした瞬間、
「うわぁ」
「なんだ。なんだ!」
「おい、屋台が倒れたぞ」
「風も吹いてねーのに!」
大通りを歩いていた人が騒ぎ出す。イラマスたちの近くの屋台が倒れたのだ。イラマスはその騒ぎに気を取られカップル二人から目を離してしまった。もう一度その二人の方に目をやるがそこには騒ぎを見に来た野次馬しかいない。
「あの二人どこ行った?」
「ハラル、おまえは妹たちと合流しろ。俺は一人で動く」
イラマスはこの祭で何かが起こるという予感を感じていた。
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時間は元に戻り、シーナ、ヒーラがアールと遭遇した頃。
イラマスは大通りから離れ、裏路地を歩いていた。もちろん理由は仮面をつけた招かなざる客を見つけるため。だが相手も相手、そう簡単には見つからないと思った時、
「おいおい、見つけちゃったよ」
イラマスの目の先には仮面をつけ、杖をつく老婆がいた。
「騎士か。残念じゃが見られてしまったのなら殺すしかない」
老婆はついていた杖をイラマスに向ける。イラマスも背中の剣を抜き、戦闘態勢に入ろうとしたが道が狭いことに気づいた。この狭さでは長剣では戦えない。
「ちょっと待った。話し合おう」
「なんじゃお主。わしらは忙しいんじゃ」
「狙いはシーナって娘だろ?」
「なんじゃそこまで知ってるのか。なおさら生きては帰せんな」
イラマスも武器なしではどうしようもできない。だから「まだ」戦えない。
「だけど第三者から妨害を受けている。違うか?」
「……お主なかなか勘がいいなぁ。少し話したくなったわい」
「それは良かった」
イラマスはこのまま話で時間を稼げるよう持てる情報を使って老婆の気を引く。
「実はそいつらが俺に接触してきた。いや、俺から接触しにいった……か」
「それで大通りを離れてこんな裏路地をパトロールしていたということか」
「おまえらは何者で何から妨害を受けている?」
真意に迫る質問。この祭では明らかにいくつかの勢力がある。シーナを狙う仮面の集団。イラマス含む騎士。そして仮面の集団を妨害し、イラマスに仮面の情報を伝えたもう一勢力。
「わしらが何者かは答えない。じゃがわしらを妨害している勢力が何かは教えよう。お主も聞いたことがあるじゃろう。ナミリス教という宗教を」
「……は?」
イラマスはまったく予測していなかった答えに思わず声が出る。
「ナミリス教?なんでそんないかにもお前らと手を組んでそうな奴らの名が出てくる」
ナミリス教ーー三百年前多くの人を虐殺し、魔獣を生み出し魔獣災害を起こした最悪【白銀の魔女】。その【白銀の魔女】と手を組んでいた邪神ナミリスの名を冠する宗教。魔女を崇拝し、復活を企てる世界の咎人である。
そんなものが少女を狙う謎の集団を妨害しているなど信じられない。
「わしらが奴らと手を組む?バカを言え。この仮面もメルサリア教の教えじゃ」
「そういや、メルサリア教は殺生をする時、メルサリア神から顔を見られないため仮面をするって聞いたことがあるな。だいぶ昔の話だろ。まだ残っていたのか」
「わしらの村は他から隔絶された所じゃからな」
仮面の集団についてはまだ謎だ。だがハリメスとヒルミスと名乗るカップルについては情報を得ることができた。
「それじゃあ、後は場所変えて話そうか。婆さん」
イラマスは後ろに回していた手を表に出す。その手には短剣が握られていた。
「昔、魔法学院に行ってたんだよ。それでこんくらいの剣は作れる。妹以外には黙ってるがな」
「時間稼ぎじゃったか」
「気づいてたろ?婆さん。余裕だな」
「わしらの村には家名はない。ラーウ村の使徒、トンボ」
「道が狭くて本気が出せない騎士隊長、イラマス・ティンゼル」
格好のつかない名乗りを終え、ここでも戦いの火蓋がきられる。




