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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
祭編
20/59

第十八話『祭九』


〈ヒーラ視点〉


 ヒーラは魔物屋敷に行く途中のことを思い出していた。それはメールという女性とぶつかった時のこと。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ごめんなさい。手を怪我してしまいましたね。少し見せてください」


 そう言ってメールという女性はヒーラの手の怪我を回復魔法で治す。何も呪文を唱えないということは魔法学院に通っていた証拠だ。


「立てますか?」


 メールの手を取りながらヒーラは彼女の魔力量を確認する。魔法の三大技術ーー魔力感知、魔力操作、魔力変換のうちの一つである魔力感知では鍛えれば相手の魔力量を確認できるのだ。


 そしてヒーラは驚きのあまり言葉を失う。


ーーすごい魔力量……。


 心の中でそう思った直後。


「ふふっ。あなたも同じようなものじゃないですか。それにそこの隣の子とは比べ物にならないですよ」


 メールという女性からまるで心を読んだかのような返答が返ってくる。いや、確実に心を読まれたとヒーラは確信した。そんなことができるのは……


ーー『心声の才』?


 あえて心の中で尋ねてみる。


「当たりですよ」


 メールはヒーラの心の声に返答した。シーナは何が起こっているのか分からずキョロキョロしている。


「……ぶつかってしまいすみませんでした。手の怪我ありがとうございます」

「私が見ていなかったのが悪いんです。すみません」


 『心声の才』なんていう珍しい才を持ち、かなりの魔力量を保持する女性。かなり怪しい。ヒーラはすぐにそこから立ち去ろうとした。


「メール、どうした?早く行くぞ」


 メールのボーイフレンドか何かである男がメールの名を呼ぶ。ヒーラが安堵した束の間、メールから恐ろしいことを伝えられた。


 シーナには聞こえないくらいの声で


「もし、【人斬り】を名乗るものがいたらそれは本物です。逆らわずに言うことを聞いてください。もし何も言わず襲ってくるようであれば、その時はヒーラさんがシーナさんを守ってあげてくださいね」


 その女性からの意味の分からない伝言。そんな事あるわけないとほぼ相手にせずヒーラは魔物屋敷に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 だが、それは現実に起こってしまう。


「やめとけ。嬢ちゃん。知ってるだろ?【人斬り】って大罪人。そりゃ俺だ」


 人斬りアールを名乗る男。そしてメールという女性から聞いた伝言。それがつながる。


「俺は無駄な殺しはしたくない。着いてこい」


 ヒーラはあの女性から言われたことを信じてそのままアールに着いていく選択肢を取る。シーナの手を引き、大通りから離れた廃墟に到着した。昔酒屋か何かをしていたのか。カウンターテーブルや椅子が埃にかぶっている。


「ヒーラ……」

「大丈夫だから」


 シーナにそう言って安心させる。頭を何度か撫でて抱きしめた。


「そこ座ってろ」


 アールからの指示に従い、ヒーラは埃まみれの椅子に座り、横の椅子にシーナを座らせる。


「それでどっちがシーナなんだ?って聞いても答えてくれないよな。さっきも言ったが無駄な死人は出したくないんだ。あいつらが来てどっちがシーナか確認したら、そいつだけ殺して違う方は帰してやるから安心しろ」

「ひ……」


 あいつらというのは仮面をつけた奴らのことだろう。シーナは恐怖のあまり声が出そうになるとその口をヒーラが塞ぐ。


「ダメ。声は出さないの。私がなんとかするから。深呼吸して」


 シーナはヒーラから言われた通り何回かアールに聞こえない程度の深呼吸をする。落ち着きを取り戻し震える手をヒーラから握ってもらう。


 ヒーラは「なんとかする」と言ったもののアールと戦い勝てる自信はない。時間ならそれなりに稼ぐことは可能だろう。だがアールの力量とヒーラ自身がどれほどできるのかのどちらの要素も不確定で行動に移せない。


 そのまま膠着した状況が続いた。シーナとヒーラが廃墟に連れてこられて二十分は経つ。ヒューズやユーリももうすぐ屋台からかえり始めている頃だ。ヒーラはヒューズたちが気づき騎士に連絡してくれることを祈る。そんな時、アールは口を開いた。


「遅すぎる……。なぁ嬢ちゃんたちは仮面の奴ら殺したのか?」


 予想もしていない問いにヒーラは一生懸命首を振る。ヒーラも心の中では思っていた違和感。あの仮面たちがアールとここで落ち合うことになっているならもう来ていい頃なのだ。ヒーラと仮面二人が戦った場所からそこまで離れていない。


「仮面の連中で襲って、失敗したら俺がおまえら確保して仮面の連中五人とここで落ち合う。それが俺が聞いた話だ」


 そう作戦の全てをヒーラたちに語る。子供だから問題ないと思ったのだろうか。


「本当に殺してないのか?トンボっていう婆さんとソムルっていう同じババア。サンプっていう爺さんとヘイムっていうオヤジにトークっていう女。おまえらを襲ったのはどいつだ?」


 戦いの最中彼らは名前で呼び合っていたためヒーラは誰から襲われたか分かっていた。それは


「ヘイム……」


 ヒーラは小さな声で二人の名を答えた。


「チッ。ヘイムとサンプの二人か。あいつらどこで道草食ってるんだ?」


 明らかに敵側で予定外のことが起こっているのは明白だった。今が抵抗する好機なのかもっと待つべきなのかヒーラは黙考する。攻めるならもちろん敵側が不足の事態が起こっていて混乱している時。だがまだ不足の事態が不足している。この程度でアールを出し抜ける気がしない。ヒーラはシーナの手を強く握り、どうするか悩んでいた。


 そんな時、待っていた敵側の不足の事態、そして一番に待ち望んでいた人がそこに現れる。


「シーナ、ヒーラ!!」


 そこには剣を片手に持ち、廃墟へ飛び込んでくるヒューズの姿があった。



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