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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
祭編
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第十七話『祭八』

〈ヒーラ視点〉

 

 ヒューズたちが家に帰る少し前。


「明日こそはヒューズ様に振り向いてもらって、そして二人で……」

「はいはい」


 シーナとヒーラは恋バナを続けていた。


「だいたいヒーラから告白すればいいんじゃないですか?」

「ヒューズ様からしてもらいた……。シーナ伏せて!」


 ヒーラはそう言うのと同時にシーナの頭を強く押さえる。シーナは何が起こっているのか全く分からない。ただ、ヒーラから押さえられる頭を下にして屈む。


 ヒーラは後ろから不意に打たれた魔法の攻撃を魔法を使い相殺する。


ーー何?こいつら。


 次は仮面をつけた人間が短剣を持ちヒーラに襲いかかる。それを魔法の壁で防ぎつつ、逆側から放たれる魔法の攻撃ももう一度魔法で相殺する。ニ対一の状況。だがヒーラにとっては大したことではない。


 短剣を持って向かってきた相手の足元から氷の棘を出し攻撃。その隙を利用して剣を一つ生成する。


ーー不意からの攻撃は慣れてる。


 さっきから魔法が放たれていた方向から仮面をつけた人間が現れ、ヒーラ対仮面二人の近接戦が幕を開ける。二人の息のあった攻撃を魔法と剣の両方を使い、容易く受け流しながら隙を窺う。


「なんだこの娘……」


 仮面の一人からそんな声が漏れた。まだヒーラの方が有利な状況だった。もちろん仮面二人が弱い訳ではない。年齢の差や体格の差、経験の差では仮面二人に分がある。だがその差を埋めているのは剣の技術と魔法の才能。それだけでヒーラはこの戦いを有利に進めている。


「あんたたちなんなの?」

「おまえは関係がない。怪我をしたくないなら早く去れ。俺たちの目標はそのシーナという娘だ」

「は?たくさん間違ってるから教えるけど私はこいつを置いてかないし、怪我するのはあんたたち」


 そうヒーラが口にすると同時に炎がヒーラとシーナを囲う。それは小さな路地裏に広がっていき、仮面たちに向かう。仮面二人は手のひらをヒーラの方に向け、その炎が広がらないように魔法で防ぐ。


「俺たちに攻撃すると見せかけて、大通りにいる騎士たちを呼ぶ作戦か」

「ヘイム、炎を消すぞ」


 片方の仮面の合図でもう一人の方の仮面も魔力を集中させる。ヒーラの魔力で発生している炎を二人の魔力でなんとか消すことに成功した。


「チッ」


 ヒーラの苛立ちは募る。せっかく楽しい祭でヒューズとも上手くいっていたところに水を刺されるなんてヒーラにとってたまったものではない。


 今度は風魔法で二人を吹き飛ばそうとした時、


「おぇぇ」

「は?あんたどうしたのよ」


 突然のシーナの嘔吐。それはヒーラにとっても予想外の出来事だった。そんな隙を二人の仮面は逃さずヒーラを襲う。だがヒーラはそんな二人を風魔法で吹き飛ばし、シーナの容態を確認する。


「ちょっとあんた大丈夫?」

「はぁはぁ……。いや、怖い……。助けて」


 シーナは我を失いただただそれを繰り返す。それもそのはずハーダル村でのトラウマが再来したのだ。


「シーナ、霧出せる?それだけでいいからしてくれない?」


 ヒーラはそれを小声でシーナに伝え、また向かってくる仮面と対峙する。炎を操り片方の仮面との間合いを確保しつつ、もう一人の仮面の短剣を剣で打ち返す。


「天神流の裏じゃ!流派が分かればこちらも戦いやすい」


 短剣を交えていた仮面がそう言うと形勢は傾く、と思われた。天神流裏の隙をつく短剣の攻撃をヒーラは天神流表で防ぐ。流派の表と裏はそれぞれの隙をカバーするもの。名前は似ているが動きは全く別のものとなるため両方の修得は難しい。それをヒーラはこの歳で超級上まで会得していた。


「な…なんじゃと……」


 予定にはなかった強者との戦闘に仮面がうろたえる。そんな時、


「霧よ……ここに…」


 細いシーナの声。それと同時に白い霧が路地裏を覆う。


「ナイス。シーナ!」


 ヒーラはシーナの体を抱えると炎で相手をしていた仮面の方に向かって走り出す。その仮面の体に触れると同時に浮遊魔法を男の体にかけ、風魔法で吹き飛ばす。重力の影響を受けないため空高く仮面は吹き飛んだ。


「逃がすか……」


 もう一人の仮面が霧を抜けでた時にはもうヒーラとシーナの姿はなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈シーナ視点〉


「はぁ〜。疲れた。あんた大丈夫?」


 ヒーラは脇に抱えたシーナをおろす。


「すみません。ちょっとは落ち着きました。水よここに」


 シーナは下級の水の呪文を使い口を濯ぐ。いったいなぜまたあの仮面たちが狙って来たのか。ハーダル村での一件も自分を狙っていたのか。シーナは自分のせいで周りの人を危険に晒している可能性が頭に浮かび絶望を感じる。


「歩ける?大通りに出たらあいつらもどうしようもないから。行くわよ」


 ヒーラはシーナの手を引っ張り歩き出す。シーナはいつもは兄に付き纏っているヒーラのことが今は頼り甲斐のある姉のように感じていた。


「ありがとうございます。ヒーラがいなかったら私……」

「いつもみたいに憎まれ口叩きなさいよ。その方が安心するわ。今のあんたはちょっと気持ち悪い」

「失礼ですね」

「あいつらが追ってきても大丈夫よ。あいつら弱かったし。第十の騎士隊長と手合わせしたことあるけど、あいつらはその人よりちょっと強いくらい」

「それ安心できないんですが……」


 第十騎士部隊の隊長がものすごく弱い訳もないため、あいつらは相当な強さだろう。そんな人たちを二人相手にして弱いと言ってみせるヒーラは実に頼もしい。


「任せときなさい。あんたの父親くらいのが来ない限り私は負けないから」


 ヒーラがそう言って誇らしげに剣を振ってみせる。ヒーラが思う中で一番最悪な事態は自分より強いかもしれないものが来ること。


「なぁ。嬢ちゃんがシーナ・オルスタルか?って二人いるじゃねぇか。どっちがシーナだ?」


 ボロボロの服を着て、髭を伸ばした男がヒーラとシーナの前に立ちはだかる。シーナのことを探している時点でさっきの奴らの関係者であることはほぼ確定している。ヒーラは持っている剣をその男に向け、戦闘態勢に入る。


「やめとけ。嬢ちゃん知ってるだろ?【人斬り】って大罪人。それりゃ俺だ」


 おそらくヒーラが想定していた最悪の事態は起きてしまった。人斬りアール。第五騎士部隊の隊長含む精鋭十人で構成された【第五精鋭隊】を一人で壊滅させた最悪の殺人鬼。それが二人の前に現れた。


ヒーラは今の時点でもかなり強いです。これから成長したヒーラはどうなるのでしょう。

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