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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
祭編
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第十五話『祭六』

 

 シーナたち四人は魔物屋敷に到着していた。さっきのメールという女性とぶつかった後からヒーラの様子は……


「きゃあ、ヒューズ様!!怖いから近くにいてくださいね!」


 たいして今までと変わっていなかった。シーナは昨日のヒーラとの約束のためユーリと先に二人で入ることにする。


「ユーリ二人で入りましょう」

「あ、あぁ」


 昨日手を繋いだのが原因でユーリが変に意識していることはシーナもわかっていた。もちろんシーナもちょっとは意識せざるを得ない。だがここで失敗するとヒーラから絶対ぐちぐち言われるためユーリと二人で入るしかないのだ。


 中は暗く森の中のような音が流れる。魔法で音を出したりしているのだろう。そして時々魔物の鳴き声が屋敷の中に鳴り響く。


「なんかあまり大したことないですね」


 シーナがそう口にした時隣を歩くユーリはビクッと動き


「あ、あぁ。ぜんぜん怖くないな。うん。ぜんぜん怖くない」

「ちょっとビビってません?」

「は?ビビってないし」

「……怖いなら手握ってもいいですよ」


 シーナなりに気遣いをしたように見せかけてただ自分が繋ぎたいだけだ。素直になれないのは二人とも同じ。


「……」

「そこで黙らないでください。私が恥ずかしいです」

「いや、シーナが繋ぎたいなら別に繋いでやってもいいぜ!」

「別に私はどっちでもいいですよ。ユーリが怖そうだから繋いであげようかなって思っただけです」

「は、はぁ!お、俺はぜんぜん怖くないし」

「そうですか。じゃあ手は貸しません……」


 無駄な意地の張り合いをしながら二人は屋敷を進む。一グループが出るまで次のグループは入れない仕様になっているためできるだけ早く出ないとヒーラが待ちきれずに怒り出してしまう。そのため少しだけペースを上げて進むことにした。


「……」

「……」

「な、なぁ」

「なんですか?」

「さっきからぜんぜん魔物の人形でなくない?」

「そうですね。最後にバンってすごいのが来るのかも」

「や、やめろよ!」

「怖くないんじゃないですか?」

「こ、怖くは……」

「ゴォォォォー!!」


 ユーリがそう言いかけた時、後ろから魔物の唸り声が聞こえる。


「ぎゃぁぁぁあ!!」


 ユーリが叫びその場に縮こまる。だがそんなユーリは同時に隣を歩いていた少女が頭を抱え震えているのに気づいた。恐る恐る後ろを振り返る。そこにはリアルなワグルテの人形が何体かこちらに近づいてきていた。


 シーナにとってトラウマになっているハーダル村の一件。そこで何体もの酷い死体を見たワグルテはシーナにトラウマを思い出させる存在だった。


「シーナ、大丈夫か?」


 ユーリはシーナの肩を何度か揺するがシーナは頭を抱え縮こまり震えている。


「お願い。やめて。来ないで。いや。やめて」


 少女の小さな助けを求める囁き。いつも他人には弱いところを見せないシーナだがトラウマはどうすることもできない。ただただヒューズやノストラルが助けに来てくれることを願う。


「シーナ、来い!」


 だがシーナの小さな手を強く握り、立たせてくれたのは違う人物だった。


「ユ、ユーリ……」

「目瞑ってろ。走るぞ!」


 ユーリそう言ってただ手を引っ張ってシーナまで連れて行く。シーナはユーリを信じそのままついて行く。瞼の裏から光を感じ、目を開けるとシーナは屋敷の外に出ていた。


「大丈夫か?」


 涙でぼやけてしまったシーナの目にシーナを心配するユーリの顔が映る。さっきまで頼りなかったその顔はなぜかシーナに安心感を与え、握られている手は昨日と同様に硬くそして暖かかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈ヒーラ視点〉


 シーナとユーリがいい感じになっていた頃、次に入ることになっていたヒューズとヒーラが屋敷に入る。

 

「ぎゃぁぁぁあ!!ヒューズ様怖いです」


 もちろん嘘だ。ヒーラは騎士学校、魔法学院両方の遠征授業で魔物のいる森に足を運んでいる。ついでにヒーラは超級の魔物も討伐経験があり、こんな魔物屋敷の魔物などまったくもって怖くない。


「まぁ、遠征じゃ基本グループ行動だし、屋敷の中は暗いし、僕もちょっと怖いかな」

「そ、そうですよね。二人だとちょっと不安だし、でもヒューズ様がいるとすごい安心します!!」


 これも嘘だ。ヒーラは魔法学院在学時、超級魔物を夜間に一人で討伐している。この屋敷に出てくる中級魔物など石ころ程度にしか思っていない。


 ヒーラは嘘をつきながらヒューズの腕にしがみつき屋敷を進む。そしてあのワグルテの仕掛けのところに差し掛かる。


「きゃあ!ワグルテだ!!」


 まったく怖くないが怖がってるふりをしてヒューズの腕にしがみつく。


「シーナ大丈夫だったかな……?」


 そんなヒューズの言葉を聞いて作戦の失敗を悟る。ヒューズはヒーラが思っている以上に鈍感だったらしい。


「大丈夫ですよ。うちの弟もついてるし」


 ヒーラはそう告げヒューズの腕を握っていた手を離した。これはもうダメなのかなという考えが頭の中にちらつく。


「ユーリはやる時はやる男だからね」


 ヒューズはそう言ってから離されたヒーラの手を握った。


「え?」

「怖がってたから。嫌なら離すよ」

「いえ、このままでお願いします」


 ヒューズからの不意の一撃。いくらヒーラといってもかわすことはできなかった。今回の作戦はそれなりにうまくいったらしい。また新しい作戦を考えようとヒーラは心に誓った。


祭編まだまだ続きます

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