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小さき魔女と失われた記憶  作者: 沼に堕ちた円周率
祭編
16/59

第十四話『貧民街』

この話には残酷な描写、非人道的な描写が含まれます。苦手な方はお控えください。

また、この話で描かれることなどは実在の場所とは一切関係ありません。


〈祭開催二日前〉


 ヘンリルは世界の中でも巨大都市。いくら平和といってもその裏には闇の部分もあるものである。その一つであり一番の問題となっている場所。それはヘンリルの街の端に位置する貧民街だ。


 その貧民街に住むタルエス兄弟という双子はシーナたちの住む東区から王宮を通った真逆の位置、西区で悪餓鬼タルエスとして有名だった。そのタルエス兄弟がいつも通り店から物を盗み掃き溜めのような貧民街へと帰ってきていた。


「兄ちゃん、そろそろ祭らしいぜ」

「そしたらもっとたくさん食えるかもな」

「あぁ。兄ちゃんとアールさんと俺でご馳走パーティーだな」


 そんなたわいもない子供の会話。ただ、彼らは盗みを働いた罪人である以上、騎士からも、そしてタルエス兄弟を騎士に差し出すかわりに得られる報酬を目当てにした貧民街の者からも狙われる運命だ。貧民街は法は適用されず、毎日のように人殺しが起こる世界。そこだけ違う国、都市であるような異様な空気が流れている。


「タルエス兄弟だ!」

「捕まえろ!!」

「おい。てめーらには報酬渡さねーからな!」


 そう言って男三人がタルエス兄弟を襲う。兄は近くにあった板材で一人の男を殴り、弟の手を引き、逃げる。決まった道などなく穴だらけの人の家をいくつか突っ切って走る。


「おいおい。なんだ?タルエス兄弟じゃねーか」


 そんな家を突っ切ったことが運の尽き、四軒目の家には入る穴はあったが出る穴がなかった。そしてそこの家の住民もタルエス兄弟を狙う者の一人だったのだ。


 もう無理だ。そう思った時、ぐちゃりという音やゴキッという音、そして三方から飛び出す血飛沫。タルエス兄弟の周りには首のなくなった男三人の遺体と血まみれになりながらその男たちの首を持つ男の姿があった。


「「アールさん!!」」


 それはタルエスたちが共に住んでいる男の名だった。


「おまえたち目立たないように帰ってこいって言ってるだろ」

「すみません。アールさん」

「この男たちの死体水路まで運ぶぞ」


 そう言いながらアールは手に持つ首三つを放り投げ顔のない体を二つ、肩に抱える。兄弟は一つの体を一緒に持ち取ってきた食料はその体の上に乗せた。


「やったぜ。兄ちゃん、アールさん。祭が始まる前にご馳走だ!!」

「何がご馳走だ。人の肉が美味しいか?」

「俺好きだぜ。なぁ兄ちゃん!」

「まぁ普通だな。腹に溜まるし魔物の肉とさほど変わらないしな。ただここの人間は汚ねえ。ちゃんと水路で洗わねぇと」

「俺頑張るぜ!!」


 そうやって元気に喜ぶタルエス弟に兄は耐え難い感情が芽生える。自分がもっと頑張らなければそう兄は自分に言い聞かせた。


 水路に体を運び終わるとアールは


「おまえたちは先に帰ってろ。肉持って帰ってくるから」

「先に食べたら怒るかんな。アールさん!」

「あぁ。わかったよ」


 二人を帰らせたアールは一人黙々と人の皮を剥ぎ、血を洗い流し、内臓を抉り出した。何時間か経ったのちに綺麗に食べれそうな肉の部分をでかい板に乗せながら兄弟の待つ家に戻る。


「今回の奴らは皮ばっかでほとんど肉なかったな」


 そんなことを一人呟きながらちょうど家に着いた頃、アールは異変に気づく。扉の前に立つと家の中からは約五人の気配。二人はタルエス兄弟。もう三人は明らかに手練れだ。


 肉を乗せた板を地面に置き、腰につけた剣を持ちそっと扉を開く。その瞬間首元に近づく短剣。それを軽々と避けその短剣の持ち主に斬りかかる。だがその短剣の持ち主は後ろに下がりアールの剣を避けた。


「こんな所で子供の世話ですか?【人斬り】アール」

「てめぇら何もんだ?三対一でも負ける気はしねぇぞ」

「えぇそうでしょう。私、フィルメール、サンプの三人では勝てない」

「ほっほっほ。ホールのいう通りじゃな。だがアールよ。子守は続けたいじゃろ?」


 そう言って横から出てきた老人はタルエス兄の首元に短剣を近づける。そしてまたその逆方向にはタルエス兄弟と同年齢くらいの少女がタルエス弟を抱えて首元に短剣を持つ。


 そこにいたのはハーダル村でシーナたちを襲ったホールとフィルメール、そして同じ村に住む老人サンプだった。


「【人斬り】手を貸しなさい」


 少女は見た目より大人びた声でアールに話しかける。


「私たちの目的はシーナ・オルスタルという少女の殺害。それが成功すればあなたも子守りを続けられるわ」

「ただの子供を殺すだけだろ。おまえたちでやればいい。これだけできるんだ。簡単だろ?」

「そうもいかんのじゃよ。どこでわしらのことを聞きつけたか、或いは別の目的で来ているだけか、それは知らんが少し面倒な連中がおってのう。うちらの司令塔の婆さんがおまえを連れて来いと言っておるんじゃ」


 サンプはその何者かは伝えず、ただアールを頼る理由だけを言葉にする。


「祭は騎士の目が多くなるように見えますが基本いる騎士の人数は変わりません。いつも裏路地などに割いている人員を一気に大通りに集めるのです。裏路地でなら騎士からも見つからずに暗殺できるでしょう」

「ホールって言ったか?おまえいくつだ?」

「十七か十八になるでしょうか。それがどうしましたか」

「そっちの女は?」

「八歳にもうすぐなります」

「そうか……。こいつら兄弟はもう十三歳か十ニ歳かどっかそこらだ。俺がいない間話し相手になってやってくれ」


 三人は思いもしなかったアールの言葉に戸惑いを見せる。


「その婆さん所に案内しろ」

「ホール、フィルメール後は任せたぞ」


 アールとサンプは家から出てトンボのいる所へ向かうことになる。


「ご馳走は祭終わったらになっちまったな……」


 かつて、ある騎士とその妻を殺したのちに、第五騎士部隊の精鋭十人をたった一人で斬殺。また騎士のみを狙って殺害を繰り返した。アーザル国から【人斬り】という大罪の称号を得たアール。その男は小さく兄弟に告げ、依頼人の元へ歩き出した。


少し残酷な描写が多くすみません。

今回は暗い回でした。次の話はまた明るい祭編に戻ります。

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