第十三話『祭五』
「魔物屋敷に行くぞ!!」
「おーー!」
「やけに張り切ってるね。ヒーラとシーナ。そんなに行きたかったの?」
ヒューズは相変わらず鈍感でヒーラの好意に一切気づく気配がなかった。ヒーラが無駄に積極的なのもヒューズに問題があるのではないかとシーナが少しだけ思ってしまったくらいである。
「そんなやる気出してるってことは私とヒューズ様が結婚するの許可してくれるってこと?」
「それは嫌です。借りは返さないと面倒くさそうなので」
「顔以外が可愛くないわよね」
「褒めてくれているんですか?」
「貶してるのよ」
シーナとヒーラは相変わらずでそんなやりとりばかりだ。ユーリとヒーラがシーナの家に泊まるにあたって寝床はヒーラがシーナの部屋、ユーリがヒューズの部屋で寝ることになっているため昨日の晩もシーナとヒーラはこんな感じのやりとりを続けていた。
本人たちはそんなつもりはないようだが側から見ていたらそれなりに仲の良い二人だ。相性もいいもののシーナの方がやけに意地を張っているためこんなやりとりは続くことになるだろう。
「あっ。四人とも……」
祭に行こうとする四人を止めたのはシーラだった。
「ここから検問所は遠いから大丈夫かもしれないけど行方不明になった騎士さんまだ見つかってないらしいの。気をつけてね」
「わかってる。僕が三人を守るから」
「ひゃぁぁぁあ!ねぇ。聞いた?あんた。ヒューズ様が私を守るって」
「そうですね〜」
若干ヒューズに問題があると思い始めていたシーナの思考は今ヒーラから投げ捨てられた。面倒くさいので適当に相槌を打っておく。
「それとは関係なく祭には悪い人も多いのでお嬢様やヒーラ様は特にお気をつけを。お二人ともお可愛いですから」
「大丈夫ですよ。こいつ……シーナちゃんはともかく私は一応騎士ですし魔法も使えますから」
ヒーラは若干ボロを出しながらいい子を演じていた。そんなヒーラの言葉をきっかけにシーナは聞きたかったことを思い出す。
四人はまた昨日と同様に祭に出かけ今度こそはと魔物屋敷に急いだ。その道中シーナはヒーラに聞きたかったことを尋ねる。
「ヒーラはどれくらい魔法を使えるんですか?」
「え?一応上級上までなら等級持ってるわよ。魔法協会で試験受ければもっといけるけど」
上級上。それは魔法学院が認定できる中で最高の等級だ。それ以上は魔法協会などから認められる必要がある。だがヒーラはもっと上までいけると断言したのだ。おそろしく才能に恵まれた少女。シーナは少しだけヒーラを見直した。
「前々から気になっていたんですけどなんで魔法学院辞めちゃったんですか?」
シーナの何気ない質問。だがその質問がヒーラに少し嫌な顔をさせる。
「それは……意味なかったからよ。私一年で上級までなれちゃったし。ぐだぐだ学院にいても意味ないでしょ」
シーナの質問を適当にあしらうように、真実、本心を隠すようにヒーラはそう答えた。そしてヒーラは騎士学校に入って約二年。その騎士学校も中退するつもりでいる。
「てかなんで私について聞くのよ。何企んでるのよ!」
「魔法について知りたいだけですよ。あっ、そうだ。昨日の騎士さんが言っていた『才』ってなんですか?」
「才は魔法じゃないわよ。生まれ持った特殊能力みたいなやつ」
「そんなのがあるんですか。魔法に契約に才。いろいろあるんですね」
「才知らないくせに契約知ってるのね」
もちろん知っている。シーナの心の中に残るあの出来事。ハーダル村で出会った神級魔物【指食い】とその契約者フィルメール。それはシーナにとって忘れられないつらい思い出だった。
そんな世界の知識についてシーナがヒーラに尋ねていると前方不注意で人とヒーラがぶつかってしまった。
「いたっ」
そう言ってヒーラは尻餅をつく。横を歩いていたシーナはヒーラが心配になり、しゃがんで怪我がないか確認をすると少し手に擦り傷をしていた。
「ごめんなさい。手を怪我してしまいましたね。少し見せてください」
ヒーラとぶつかった青いマフラーの女性がしゃがみこんでヒーラの手を見る。そしてその女性がヒーラの手に自分の手を重ねると同時に傷が消えていった。回復魔法だ。
「立てますか?」
立ち上がった女性はヒーラにそう尋ね、手を差し伸べる。ヒーラはその手を取りゆっくりと立ち上がった。
「ふふっ。あなたも同じようなものじゃないですか。それにそこの隣の子とは比べ物にならないですよ」
急に女性がヒーラに向かってそう語りかけた。ヒーラは顔を変えず女性を見続ける。
「当たりですよ」
また、まったく会話になっていない言葉がヒーラの手を取る女性から発せられる。シーナにはなんの話かわからない。
「……ぶつかってしまいすみませんでした。手の怪我ありがとうございます」
「私が見ていなかったのが悪いんです。すみません」
ヒーラはさっきの女性の言葉には触れずお礼と謝罪をし、女性も一緒に謝罪する。まるで二人の間でのみ会話が成立しているような不思議な感覚を覚える。
「メール、どうした?早く行くぞ」
「すみません。ロードさん」
その女性のボーイフレンドか何かである男がその女性の名を呼ぶ。そのメールと呼ばれた女性はヒーラの耳元で何かを言った後、そのまま男の方へと走って行った。その時何を言われたかシーナが何度ヒーラに聞いても教えてはくれなかった。
ヒーラにぶつかった青いマフラーの女性はいったい誰なのか?連載はまだまだ続けていきます。評価とブックマークをできればお願いします。あと、短編の外伝も投稿しましたのでそちらも読んでいただけたらと思います。




