第十二話『祭四』
ヒューズとユーリが祭りから帰ってくるがヒューズは大きなワグルテ型の人形を抱えている。シーナのトラウマとなったあのハーダル村での一件。その中でグロテスクな死体をいくつも見たあの魔物だ。だが抽象化され、目はくりくりとしていて少し可愛くなっている。
「その人形どうしたんですか?」
あまりにも大きすぎて尻尾が地面についている。シーナよりはでかいだろう。
「ヒューズ兄ちゃんすごいんだぜ。ナイフ投げで全部ナイフを的の中央に当てて一等」
「鬼神流に剣を投げる技があってね」
「さすがです。ヒューズ様!」
剣を習っているものがナイフ投げをするとそうなるだろう。少し反則な気もするが祭なのでよしということにしてシーナはヒーラから聞いた作戦を実行する。
「私、魔物屋敷に行きたいです。だけど怖いのでユーリも一緒に入ってください」
「え?それなら四人で……」
「ユーリは私と一緒に入りますよね?二人で!」
「え?なんで二人……。え……?あ、や、え?」
「入りますよね」
「あ、はい……。ってそれって……」
「それじゃあ行きましょう」
ほぼ強引に、何か言いたそうにしているものの無視して魔物屋敷に行く。ユーリが勘違いしていそうで怖いがこれがヒーラの作戦。名付けて『シーナとユーリが先に魔物屋敷に入って、残されたヒューズとヒーラが二人で魔物屋敷に入ることになりそのままドキドキでお互い好きになってしまう作戦』である。
ユーリが顔を赤くしているのに気づきシーナはユーリの手を握って引っ張る。
「早く行きましょう」
手を握るのはヒューズ達のところに行くとヒーラからぐちぐち言われそうだったのが半分、もう半分は単に男の子と手を繋いでみたかったからだ。意外とユーリの手はゴツゴツしていて硬かった。
シーナはもう暗くなり始めている空を確認しながら、自分の顔の色が見えなくなるくらいの暗さになるまで顔を下に向けながら歩いた。
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「すみません。魔物屋敷はもう閉館です。また明日来てくださいね」
「くっ……どうしてよ……」
ヒーラがそのまま膝から崩れ落ちる。シーナも若干残念に思いながらもユーリの手を少し強く握る。そうするとユーリはピクッと動き同じように握る手に少し力を入れた。
まだ祭は初日。また明日来ようということで四人は家へ帰ることになった。帰ればシーラが夕食を作って待っているだろう。
帰る時もシーナとユーリは手を握り二人で歩く。それに気づいたヒーラはシーナに近づき小声で
「なんであんたの方が進展してるのよ」
「……いや、進展とかじゃなくて……。どのタイミングで手離したらいいんですか?」
シーナは魔物屋敷からずっと手を離すタイミングを探していたが見つからずどうすればいいのか分からなくなっていた。なんとかしてくれとヒーラに助けを求める。
「知らないわよ。私も手なんて繋いだことないし」
「なんとかしてください」
「なんで繋ぐことになったのよ」
「……い、いやぁ……ヒーラの…方に…行かせないためですことよ?」
「繋ぎたかっただけでしょ」
なんとか誤魔化そうと試みるも失敗。ヒーラからすぐに真意を見つけられてしまう。
「私だって女の子です。ちょっとくらい男の子と手を繋ぎたいくらいあります!!」
「聞こえるわよ」
「……っ!!」
ユーリに聞こえていないか隣を歩いている本人を見るもののずっと足元の方に目を向けながらトボトボと歩いている。聞こえていなさそうなのでヒーラの方に向き直り
「助けて」
シーナにとって実に屈辱である。あそこまで目の敵にしていたヒーラが唯一の頼みの綱なのだ。だがこの状況を一人で打開する手立てはシーナにはない。
ーー私のプライドさんまた後で拾いにきますね。さよなら。ぽいっ。
「なんでもします。助けてください」
「え?なんて?聞こえない」
ーー本当に意地の悪いやつ
「なんでもしますから助けて」
「もう一回言って?」
「お願いします。メルサリア神に誓います」
「いいでしょう。仕方がないわね」
ヒーラはそういうと少し遠くの屋台に走っていく。そしてシーナとユーリの方を向いて
「シーナ、カーラさんとシーラさんのお土産買うからこっちきて」
そう大声で叫ぶ。まさかヒーラに助けられることになるとはと悔しく思いながらシーナは隣を歩く男の子に声をかける。
「お兄様と先に帰っておいてください」
「お、おう」
ユーリが少しピクッと動きそのまま手を離しヒューズのもとへ走って行った。
「感謝は?」
「ありがとうございます。今度、兄様とあなたの方を手伝います」
「当たり前よ」
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「お帰りなさい」
「これ母様とカーラへのお土産です」
「あら、私たちは明日回るからいいって言ったのに」
「あれ?そうでしたっけ?忘れてました。てへぺろ」
もちろんシーナは覚えている。だがユーリにあぁ言った以上買わないで帰るのも変な話なので買わざるを得なかったのである。
「ありがとう。カーラといただくは」
「そうしてください」
そうしてみんなで夕食を食べる。六人で食べる食事はいつも三人で食べていた食事よりおいしく感じるのだった。
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〈祭一週間前〉
アーザル国首都ヘンリルの検問所。そこにトルッテルという四足歩行の魔物が引く魔車が到着する。転移陣があるとは言え送るのは基本人で積み荷などの大きい荷物は未だこの魔車を使って運んでいた。
「何が入ってる?」
アーザル国の騎士は魔車を引く老婆に積み荷について尋ねる。その老婆はトルッテルの綱を握りながら
「今度の祭の屋台と品です。隣の都市からといっても老婆にとっては長い旅でしたわい。ほっほっほ」
「そうか老婆さん。歳なのに頑張るね。中を確認しても?」
「ああ良いぞ」
老婆からの許可を得てその騎士は積み荷にかかっている布に手をかける。
「あっ。じゃが命はもらうでな」
老婆がそう口にしたその瞬間、積み荷から伸びた短剣が騎士の喉を掻き切る。激しい血飛沫を飛ばしながら騎士は静かに動かなくなった。
「ホールとフィルメール、サンプ、トーク、ソムルはわしと共に来い。ヘイムはその男の死体の処理をした後合流じゃ」
「了解。トンボの老婆さん」
トルッテルの引く魔車の音はゴーサル祭で起こる事件の始まりの鐘のように暗くなった街に鳴り響いた。
シーナとユーリの関係も進展?しました。シーナは誰と結ばれるのでしょうか。同い年は魔法学院編でたくさん出て来ます。キャラがめっちゃ増えてますがこれからもっと増えます。
そして祭編に少しずつ不穏な動きが……。




