第十一話『祭三』
「残念賞のなんの魔物のものか分からない骨になります。飾りに使ってください」
「骨だったんだが……」
ユーリとヒューズが一つずつ骨を持って帰って来た。
「そういえばシーナとヒーラもたくさん骨持ってるね」
「それには触れないでください」
そんなやりとりを終え、次の面白そうな屋台を探す。朝から何も食べていないためそろそろ何か食べるものが欲しいところである。美味しそうなものがないか探していると
「おい、シーナ。これとかいいんじゃないか?」
そう言ってユーリが指をさす先にはシャベパイと書かれた屋台がある。
「シャベパイってなんですか?」
「そういえば去年の祭では食べなかったね。おもしろい食べ物だよ」
ヒューズがそう説明してくれた。シーナ的には食べ物ならいいかという感じでシャベパイを四つ頼んでみんなで食べることにする。
「久しぶりね。これ……」
ヒーラが少し引き攣った顔をしながらシャベパイの入った箱を受け取る。シーナはその態度に少し不安を覚えながらゆっくりとシャベパイの箱を開けてみた。
「食べちゃうの?」
パイから浮かび上がる悲しそうな顔と可愛い声がシーナに問う。
カチャ。
シーナはすかさず箱の蓋を閉じいったい今のものはなんなのか思考するも答えが出ない。もう一度開けて確かめようと開けてみると
「食べちゃうの?」
またそう言って今にも泣き出しそうな声をしながらシーナに尋ねる。
カチャ。
「私は何も見ていない。そう、何も見てません。ヒーラ……」
「やだ。自分で食べなさい」
心を見透かしたようにヒーラから断られる。シーナ自身も食べられるなら食べたいがあんなもの食べられない。ヒューズに押し付けようとヒューズの方に目をやった時、
「ぎゃーーーーーーー」
とヒューズの方から絶叫が聞こえた。シーナはこれはまさかと思いヒューズを見ているとスプーンで箱の中を指すと同時に箱の中から「ぎゃーーーーーーー」という声が聞こえるのだ。
ーー恐ろしい……。
そう思っていると今度はヒーラの方から
「ぎゃーーーーーーー。ぎゃーーーーーーー。ぎゃーーーーーーー」
「ちょっと、もう少し優しくしてあげてください」
「このパイは優しさなんて求めていないわ。この子達はきっとすぐ食べてほしい。そう思っているのよ」
そんな寒いことを言いながらヒーラは急いでパイにスプーンを刺していく。シーナはどうしようかと悩んでいるとユーリがこちらに近づいてくるのが見える。その手にはパイがない。
「パイはどうしたんですか?」
「食べたぞ」
そう当たり前のようにいうユーリ。だがユーリの方からはあの絶叫は聞こえなかった。いったいどうやったのだろうと思い尋ねてみる。
「パイの声しなかったですけどどうしたんですか?」
「ん?あぁ。パイとスプーン貸してみろよ」
そう言ってユーリが手を差し伸べる。シーナは言われた通りパイの箱とスプーンをユーリに渡す。そしてユーリが箱を開くと聞き慣れないあの言葉が聞こえてくる。
「食べちゃ……」
途中で途切れた言葉。いったい何があったのかと思いパイとユーリを見てみるとなんとユーリがパイの表面から浮かび上がる顔を崩していた。
「何してるんですか?」
「シャベパイは口崩せば喋らなくなるんだぜ」
とても簡単なことを言っているがそれを実行するにはあの可愛い顔にスプーンを刺すことになる。シーナにはできないことだった。
「あ、ありがとうございます」
一応ユーリにお礼を言って少し崩れた普通のパイを食べる。空いていたお腹は満たされるがなんとも言えない感情だ。
ーーごめんなさい。パイ。
シーナは心の中でパイに謝って三人と一緒にその屋台を後にした。
「あの子達の名前ってしゃべるパイだからシャベパイなんですか?」
「そうだよ」
「ネーミングセンスがない気がします。安直すぎません?」
「僕は気に入ってるけどね。分かりやすくていいじゃないか」
「兄様はなんか子供に変な名前つけそうですよね」
シーナがヒューズとそんなやりとりをしているとやはりあの女が横から入ってくる。
「ヒューズ様!子供の名前は何にしましょうか!」
「うーん、そうだなぁ」
「ヒーラは一人で盛り上がらないで、兄様は真剣に考えないでください!」
また、ヒーラがシーナを睨んでくるが、ヒューズの身の危険を感じたためシーナも引かずにヒューズを止めておいた。その後ユーリとヒューズがナイフ投げという屋台に行ってシーナとヒーラ二人になる。ちなみにナイフ投げは的にナイフを三本投げて得点ごとに景品がもらえるものだ。
「ねぇ、あんた。私とヒューズ様の邪魔しないで」
「二人で喋っている時は邪魔しないであげてるじゃないですか」
「てか、協力しなさいよ。ねぇ、いいでしょ。お願い」
またプライドを捨てヒーラが懇願してくる。そこまでヒューズのことが好きなのかと驚きはするがそれがヒーラであるため一応納得しておく。
「いやですよ。ヒーラ姉様。なんて呼びたくないですもん。気持ち悪い」
「私とヒューズ様が結婚したら嫌でも呼ばせてやる。あっそうだ。前の屋台で水晶壊したんだから責任として一回協力しなさいよ!」
「いや、あれはヒーラのものでもないでしょ」
「私がもらったんだから私のものよ」
「二人にあの人は渡したんです」
「でも二人のものってことは私のものでもあるのよね?」
シーナは断ってもひつこそうなので今回だけは協力してやろうと諦める。
「何すればいいんですか?」
「え!協力してくれるの!?シーナちゃん大好き!」
ヒーラは本当にプライドというものがない。というよりシーナがヒーラに対して燃やしている敵意のようなものがあまりないようだ。
「今回だけです。何するんですか?」
「それじゃあね……」
そしてヒーラはシーナに作戦を話し始めた。
後書きと本編が噛み合っていませんがノストラルの持っている剣は《消剣》といって『全知の魔女』が作り出した禁忌級の剣です。魔法を消す効果があります。小ネタです。ハーダル村編の後書きで書くのを忘れていました。




