第九話『祭一』
ハーダル村での一件から約三年。シーナは六歳になっていた。魔法学院の入学は九歳。兄のヒューズはもう十三歳。ヒューズは騎士学校に入学しもう三年生になっている。騎士学校の寮に入ることになり、シーナも会うのは年に数回になっていた。シーナが魔法学院へ入るともっと会えなくなるだろう。
そして明日はアーザル国最大の祭、ゴーサル祭が行われる。そのため寮にいるヒューズも今日は実家へ帰って来ていた。
「兄様、明日の祭一緒にまわりますよね?彼女さんとかいるんですか?」
「残念ながらいないかな。あっでもヒーラたちはくるらしいよ」
ヒーラ。その名を聞いてシーナは顔をしかめた。ヒューズより一学年下であり同じ騎士学校に通うヒーラは訳あって何度もシーナの家に遊びに来ていた。その理由は
「ヒューズさまっ!!」
聞き覚えのある声が玄関からしたと思えば茶髪の少女がヒューズに飛び付こうとしていた。シーナはすかさず
「風よここに」
風を吹かせる中級の呪文。それを唱えた瞬間ヒーラの体は宙を舞い、玄関の方へと押し戻された。着地に失敗し「いたっ」という声とともにシーナを睨みつける。
「歓迎しますよ。ヒーラ」
シーナはヒーラに皮肉を込めた言葉を送り、笑顔をつくる。その言葉を聞いたヒーラは聞こえないくらいの舌打ちをした後、立ち上がってヒューズの方へ歩み寄った。
「ははっ。二人は仲がいいな」
なんとも暢気なヒューズにシーナは呆れながら、来るはずのもう一人の存在を探す。
「よっ。シーナ。来てやったぞ」
そう言って玄関から入って来たのはユーリ・レイス。ヒーラ・レイスの弟であり、シーナと同い年の男の子である。
「いらっしゃい」
「こっちまで結構歩かないといけないから疲れたぜ」
ユーリたちの家は丘の上にある王宮の近く。シーナたちの家はそこからだいぶ離れた街の中でも端の方に位置しているためかなりの距離がある。
「飲み物要りますか?ハーブティー?」
「あぁ頼む」
そんなシーナとユーリのやりとりを聞いていたのか。
「私も欲しい!」
ヒーラは飲み物を要求する。
「ドブ水ですか?」
可愛く微笑みながらヒーラの言葉にすかさず皮肉を込めて返す。ヒーラはそんなシーナをもう一度睨みつけ、
「あんた本当に痛い目を……」
「ヒーラたちは明日の祭までとまっていくでしょ?」
「はい!ヒューズ様!ご迷惑おかけします」
ヒューズが現れると笑顔に戻り丁寧な言葉遣いになる。シーナはそんなヒーラに呆れながらユーリのためにお茶を入れ始めた。可哀想なので一応ヒーラにも。
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祭当日。祭は一週間にわたって行われ、アーザル国内や他国からも多くの人が訪れる。本来アーザル国の首都ヘンリルは城下街というのもあって訪れるにはいくつかの検査が必要だが祭が行われる一週間はそれが緩和される。つまり多くの招かれざる客が訪れる可能性もあるのだ。そのためアーザル国の騎士部隊総出で警備にあたっていた。
「ねぇ」
高圧的な態度でシーナに話しかけて来たのはヒーラだった。
「なんでしょうか?」
「あんたユーリと二人で回って来なさいよ。私はヒューズ様と二人で回るから」
「いやです」
「なんでよ!あんたそんなにお兄様大好きキャラでも無いでしょ」
「あなたを兄様を二人にしたら何しでかすか分かったもんじゃありません」
ヒーラのことだ。ヒューズを襲ったりなんたりする可能性がある。いや、多分する。とシーナは結論を出す。
「ねぇお願い!学校じゃ学年違うから全然話せないの!」
ーーヒーラにはプライドがないのでしょうか。
シーナの足にしがみつき懇願するヒーラを見てシーナはそんなことを思った。面倒くさいので無視して祭りに行こうとした時
「シーナ、ヒーラ……」
ヒューズから予想もしていない事を聞かされる。
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「……」
「……なんであんたと二人なのよ」
「仕方ないでしょ。兄様もユーリも屋台の設営の手伝いにいってしまったんですから」
ヒューズとユーリの二人は祭の屋台設営のため後に合流するという事でヒーラとシーナは二人で祭りを回ることになっていた。
「どこか行きたいところありますか?」
「ヒューズ様のところ」
しょうもない返事が返ってきたためシーナはヒーラの方に手のひらを向け呪文を開始する。
「エペラルシ……」
「は!あんた何しようとしてんの!そんなの人に向けてするもんじゃないわよ」
今シーナがしようとしたのはエペラルシーム。超級の呪文であり、右手の手のひら前方に爆発を引き起こす呪文である。普通の人が唱えようと何も起こることはないがシーナの魔力量なら余裕で発動させることができる。非常に危険なことだ。だがここでシーナは一つ違和感を覚える。
ーーヒーラに私の魔力量のこと教えましたっけ……。
「あっ。私と勝負しよう」
「いいですよ。なんの勝負ですか?」
「あれ」
そう言ってヒーラが指差したのはくじ引きの屋台だ。
「あれでどんな勝負を?」
「どっちがいい景品当てられるか。あんたが負けたら私とヒューズ様二人で祭を回るから」
「私にメリットがありません」
「はぁ。じゃあ私が負けたらあんたの言うこと一つ聞くから」
「消えてくれますか?」
「可愛い顔してえげつないこと言うわよね。いいわよ」
交渉は成立。二人はくじ引きで戦うことになった。この勝負シーナは絶対的な自信がある。
「ヒーラ。私は最近運がいいんです」
「な、なんですって」
「そう。私は最近欲しいと言っていた呪文の本を母様から買ってもらえましたし、ここ三日間夕食にキノコがでていないのです!」
シーナは三歳から欲しがっていた本を最近やっと買ってもらえた。それにシーラはシーナがキノコを嫌いな事を知っているためほぼ毎日キノコが夕食にでていた。それなのにここ三日間でていないのだ。どうでもいいことに思えてシーナにとって奇跡とも言うべき事。まさに今シーナは流れに乗っている。
「……しょうもな」
そんなシーナの言葉に冷たい返事が返ってくる。せっかくムードが整っていたのに台無しだ。
「まあ、ヒーラもそう言っていられるのも今のうちです」
そう口にしてくじ引きの箱に手を入れる。シーナは何度かクジをかき混ぜこれだと思うくじを一つ握りとった。そしてヒーラに見えないようにし少しずつ開いていく。そしてそこに書かれていた文字はなんと
「こ、これは!」
「ま、まさかあんた……」
小さき魔女と失われた記憶は一応頭の中では最終回までできていて終わり方も決まってるのでエタることはないと思いますが、投稿頻度が落ちたりすることはあるかも知れませんがません。
それはさておき祭編開始です。お楽しみください。




