星の筒
なんとか間に合った
今日も今日とて星が降る。
皆が願いを込めて祈る星たちが。
「おい新入り。星は拾えたか?」
「いえ、まだちょっと残ってて」
「おいおい、そんなんじゃ日が明けちまうよ」
僕の仕事は星拾い。
落ちてきた星を回収するお仕事。
まだまだ新入りだけど中々きついお仕事です。
ここは星降る街。
毎日季節問わずに星が流れそして落ちてくる。
いろんな人が観光に来るおかげで街は賑わっている。
ホテル、レストラン、カジノ。
豪華なものはなんでもござれ。
皆豪遊しながら流れ落ちてくる星を眺めに来る。
こんなものの何がいいのだろう。
僕はそんな街に入れない落ちこぼれ。
星拾い。
落ちてくる大量の星を拾うお仕事。
夜から明け方までひたすら落ちてきた流れ星を拾って特定の場所まで届けるお仕事。
放っておくと街が落ちてきた星でいっぱいになるらしい。
誰にでもできるお仕事。
流れ星に願いを?
そもそも流れ落ちないで欲しい。
「新入り、そろそろ引き上げるぞー」
「は、はい」
星拾い歴30年の親方。
流石に新人の僕より何倍も早い。
でもそんな親方の姿は見事に汚れだらけだ。
どこでつけてきたのか黒いススが目立つ。
白髪もまばらで目立つ。
街にそんな人間はいない。
いつだって綺麗なものはお金を持っている人のもの。
流れ星の綺麗なところはいつもお金を持っている人のもの。
その綺麗なものがこんなにも落ちているなんて思わない。
流れ終わったものに誰も興味がない。
「親方、いつも思うんですけどこの拾った元星さんはどうするんです?」
「そりゃ、あれよ。必要な人のところに持っていってるのよ」
「ゴミじゃないんですか?」
「それがな、あ、いやまぁそんなところだ。」
どうにも煮え切らない親方。
いつも拾って指定の場所に届けて終了。
次の日には綺麗さっぱり無くなっている。
不思議だ。
それだったらその綺麗さっぱりにする人に代わりに拾って欲しい。
それだと仕事が無くなるけど。
あーあ、なんて夢が無い。
「おし、新入り。明日っていうか今日の夜は暇か?」
「夜ですか?明日って星もあんまり降らないって天気予報が言ってたから仕事が無いって聞いてましたけど」
「うし、暇だな。じゃあ今日の夜ここで待ち合わせな?」
「仕事ですか?もう流石に疲れたから嫌ですよ」
「いいからいいから面白いもんが見れるぜ」
「はぁ」
どうせまた一緒に呑みに行くのだろう。
大変だなー。
面倒くさいなー。
でも仕事じゃない日だし。
もしかしたら奢ってくれるかも。
どうせ安酒だろうけど。
そして明るい間に眠り、夜に親方に会いに行く。
「おう、来たな新入り」
「来ましたよー、面白いもんってなんですか?」
「まぁ、そう焦るなって。酒持ってきたぜ」
「どこまでもお共します」
親方が掲げるビニール袋から神々しさを感じながら後ろをついていく。
結局どこに行くか聞いていない。
と思ったらいつも拾った星を届けに行ってる場所だった。
「やっぱり仕事じゃないですか」
「違うって。まぁ見てな。もうすぐ始まるからよ」
「始まるって」
シーっと親方が指を口に添えて言う。
いい歳しておっさんがやってるのを見てなんだかおかしく感じて大人しく従ってみた。
そして親方が何かゴソゴソと取り出してきた。
「それは筒ですか?」
「おうよ」
親方がでかい筒を何本も横に並べていた。
そしていそいそと俺に何かのスイッチを渡してきた。
「ほれほれ、押してみ」
「なんですかこれ?」
「いいから」
「はぁ」
「あー待て待て。こういうのはカウントダウンだろ」
親方が指で3,2,1とゆっくりこちらに見せてくる。
言えばいいのに。
ゼロのタイミングで親方が
「点火ー!」
っと叫ぶ。
そしてボタンを声につられて押す。
するとすごい煙と火花が舞い、筒から何かが打ちあがる。
ひゅ~~~
ドン
大きな音と共にでかい花が空に咲く。
流れ星には無い派手な音と共に。
そして一つ二つ三つとドンドンと『星』が打ちあがっていく。
「どうだ!すげぇーだろー!!!」
親方がこの爆音の中、横で叫んでいるのがわずかに聞ける。
「すごいっすー!」
本当はもっと聞くべきことがあったのかもしれない。
けどいろんなことが吹っ飛んで只々その迫力に圧倒された。
そしてこんなに荒々しいのになんて
「綺麗だなー」
初めて心の底からそう思えた。
しばらく打ちあがっていくのを見つめ、そしてすべてが終わったのか今度は静寂が訪れた。
しばらく放心していると親方が改めて。
「どうよ!」
とニヤニヤしながら近づいてきた。
「本当になんというかすごいです、どうしたんですかあれ?」
「あれはほれ、お前が拾ってきた星たちよ」
「へ?」
「だから毎回毎回落ちてくるだろ?なんかムカついてよ。逆に打ち上げてやった」
「はい!?」
「んで流れ星ばっか見てるやつらに見せたかったんだよ。落ちてくるもんばっかありがたがってないで俺ら星拾いが綺麗なもんをパーッと打ち上げてやるってな」
ガハハと豪快に笑う親方を見てついこちらもつられて笑いだす。
なんてすごいことを考える人なんだろう。
「あー、あとなこれまた打ち上げる予定なんだけどまた星拾い手伝ってくれるか?」
「もちろんです」
「そうか、一週間後また千発うちあげる予定なんだが」
「ちょっと風邪ひいたかもです」
「頼むよーマジでー」
ここは星降る街。
星が舞い上がる街。
相変わらず童話っぽくないのかも?
少し大人向けに書いてしまったけどファンタジーはファンタジーよね?
楽しんで頂けたら幸いです。