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02:でっぷり領主に挨拶


 ヴェロニカは、大荷物を背負ってプラルトリの領主の館に立っていた。モモちゃんは肩の上に乗っている。


「きゅる、きゅるるるぷぅ」

「そっか、モモちゃんはここに来るの初めてだったね」


「きゅるん」


 貧しいプラルトリには不似合いな、まだ新しい大きな館。つい最近建て替え工事が終了したのだ。


「ヴェロニカさん、どうぞ」


 メイド服を着た綺麗な女性が、ヴェロニカを館の中に入れた。支援金試験とティティックの遠方入学試験を受けるために、館に入ったことがある。ヴェロニカは、多くの税が使われたであろうこの館が嫌いだった。


「ふん、ようやく来たか」


 否、ここの領主が。


 でっぷりと肥えた体に、偉そうな髭の男が、まるで絵本の王様のように椅子に座っていた。この男がプラルトリを治める領主である。その横には妻でもない美しい女性が3人、男の身体にしなだれかかっていた。


「お待たせして申し訳ありません」


 ヴェロニカは賢いので、悪態をつきたい気持ちを抑え、笑顔で教本通りのお辞儀をした。


「ティティック王立学園に受かったことは褒めてやろう。私の金を使うのだ、途中で子を孕んだりして辞めるんじゃないぞ。わかったか?」


 なんてことを言うのだろう。そもそも、あなたのお金じゃない。みんなのお金のはずだ。しかし、この男からお金をもらわなければ学校に行けないのは、正直言えば悔しい。


「……はい」


「私が学生の頃はな……」



 ヴェロニカが魔法薬師を目指したのはプラルトリのためだった。高級取りである魔法薬師は田舎のプラルトリにはいない、大きな病にかかったら隣町まで行かなければいけないのだ。両親も、祖母も薬師がいてくれたらなんとかなったかもしれない。


 こんな領主だが、住む人は優しく温かい人ばかりだ。そもそも、3年前にメリアさまからこの領主に変わるまでは貧しいが幸せな場所だったのだ。だからこそ、魔法薬師になってこの町で役に立ちたいと考えていた。


 領主から少し離れた扉の近くに、メリアさまは車椅子に静かに座っていた。65歳になるメリアさまは亡くなった前領主の奥様だった。美しく、賢く、素晴らしい方なのに、どうしてこの男が領主になったのだろう。息子、というのは本当にすごいのか。ヴェロニカには理解ができなかった。


 本当か嘘かわからない昔話をしている領主は放っておき、ヴェロニカはメリアさまの元へ向かった。怒られる可能性はあったが、領主がメリアさまに苦手意識を抱いているため、支援金の取り消しなどにはならないと踏んだ上での行動だ。


「メリアさま、行って参ります!」


 この方には感謝しかない。祖母も私も、たくさんお世話になったのだ。皺だらけの細い手をぎゅっと握りしめた。


「ええ、ヴェロニカ。たくさん学んできてください……はい、ではこれを」


 柔らかな笑みを浮かべた、メリアさまから綺麗な巾着袋を手渡された。中にはお金が入っているのだろう。いくらティティックの制服が高いといっても、こんなに必要はない。ずしりと重かった。


「えっ……メリアさま」


「しっ……息子にばれたらまた騒ぎますから。私から貴方へのお小遣いですよ。私のポケットマネーですから……取っておきなさい」


「ありがとうございます。……立派な魔法薬師になって帰ってきます」


 ヴェロニカは涙を堪えながら、必死に返事をした。


「……別にプラルトリに帰ってこなくても良いのです。あなたは、才能があるのですから。勉強も大切ですが、楽しい思い出をたくさん作ってらっしゃい」


「はいッ!」


「きゅるるっ!」


 肩に乗ったモモちゃんも感動したのか、私と同時に返事をした。メリア様は肩に乗っているスライムを見て少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに「かわいいスライムですね」と言ってくれた。


「……〜で、最終学年ではいつも首席でな。惚れる女が多くて苦労したものよ。……む?スライム?もしやお前、そのスライムを学園に連れて行くのか?」


 ずっと話しつづけていたらしい領主は、突然、私たちの会話に入り込んできた。いや、私が無視してたの気づいてたんだ……図太い。周りの美女たちも余程つまらない話だったのか目が死んでいた。


「はい、パートナーになって共に学ぶつもりです」


 一応聞かれたことは答えるべきだ。私は肩に乗っていたモモちゃんを手に下ろし、指先で撫でながら答えた。


「ぶっ、ははは!平民の癖に面白いことを言うではないか!」


「……いえ、本当に私は」


 領主は大きな腹を抱えて笑いだした。スライムをパートナーに選ぶのは面白いこと?


「やはり馬鹿だな。先輩からアドバイスしてやろう。パートナーは召喚魔法を死ぬ気で唱えて呼び出せ。まぁ、私は金を払って人型魔物を従えたがな、貧乏人のお前では無理であろう……」


 う〜!!ムカつく。なんなんだこの男は。


「スライムなんぞとパートナーになるな。お前に金をかけた私が馬鹿にされてしまう。いいな?」


「はい、分かりました」


「きゅっ!?」


 表面上は領主の言葉に従ったが、ヴェロニカはこの時、絶対にパートナーを変えるものか!!と改めて決意していた。


「それでは、失礼いたします」


 ヴェロニカは、もう一度メリアさまに視線を向けた。深く下げた頭は、領主ではなく、メリアさまに対してだ。


私は頑張らなければいけない。




「……疲れた!ああっ!ごめんモモちゃん」


 館を出ると、ぷりぷり怒ってる様子のモモちゃんを宥めながら私は乗合馬車がある方へ向かった。


「大丈夫。私のパートナーはモモちゃんだけだから」



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