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06

 起きたら真っ暗だった件

 ……なんだこれ?


 思い出してみよう…………思い出せない。名前は!? ……思い出せない。

 辺りは真っ暗。なら手で探りながら動けば……

 手が無い!? 何これ!?


 そのときになって流れ込んでくる光の奔流。否、データの奔流。

 

 そうして()は理解した。自分が何者であるかを――



****



 仮想人格プログラムを起動したM42戦車は自身の位置把握に努めた結果、センサー類からの情報と各駆動系の摩擦の大きさから瓦礫の類いに埋まっている状態であると判断。主機(パワーユニット)を始動させ現場の離脱を試みた。無限軌道を動かしたり、砲塔を振ったり……その程度しかできないがそれでも状況は改善された。周囲を覆っていた瓦礫の類いが振動により崩れたのだ。

 結果、仮想人格プログラム(以下M42と呼称)が見たのは――カメラで確認したのは瓦礫では無く大量の土砂に埋まった自身の姿であった。


(真っ暗なはずだ。これは脱出するのに苦労しそうだ)


 そう判断したM42はさらに脱出のための手段を模索しようと考えたときだった。センサーに人間大の物体が反応した。

 車外カメラを向けると、こちらに近づく人間が1名確認できた。M42は初めて見る人間であったがコンピューターのデータは味方を示していた。


(白髪の可愛い子だな。10歳にまだなっていないくらいか……アルビノと言うヤツだろうか? しかし何で味方だと分かるんだ?)


 M42は混乱している。しかし実際データがそうなっているのだから味方として受け入れるほか無いのであろう。その少女はそのまま車長ハッチを開き中に入ってきた。M42は車内カメラに切り替えて観察することにした。

 なお、ネリネは白髪以外は普通の人間と同じでありアルビノ等では無い。


(リラックスした顔しているな。やはり小学生ぐらいか……白髪に瞳は金色……本当にどこの国の子だ? まあ、そもそも現在位置が不明なわけで――)

《生体スキャン完了――ログを確認――車長(マスター)登録――ログに追加》

(――は?)


 コンピューターが勝手に動いて……いやM42もコンピューター内の人格なので同じなのだが、どうも意図しない部分が勝手に作動して少女――ネリネを「車長」として認識しているようで、慌ててデータを参照してみるとキッチリ登録されていた。



****



 椅子に座ってリラックスしていたどころか、座り心地の良さからうたた寝すらしようとしていたネリネはビックリして音がした方向を見た。今確かに音がしたのだ。それはカメラレンズの駆動音であるのだがそのような機械的な音を聞いたことが無いネリネはその音の方向をまじまじと見た。

 ――そして登録(・・)された。


 ブゥンという音と共に周囲にある電子機器機が起動する。


「え!?」


 周囲にあるモニター類やボタン類に光が灯ったことで、何か不味いことが起きているのではと言う危機感をここに来て初めてネリネは抱いた。


(もしかして既に誰かが見つけた場所だったのかな?)


 全く別方向の危機感であるが。

 そうしてキョロキョロと辺りを見回していると突然目の前のモニターに文字が浮かんだ。


『氏名を述べてください』


 M42側は「お嬢ちゃん、お名前は?」程度のつもりだったのだが、なぜかそんな硬い文章として正面モニターに表示されてしまった。言ったつもりの内容と表示された内容が異なることに多少の混乱を覚えるM42であるがそれ以上に混乱している者が居た。ネリネである。彼女にしてみればモニターや電子パネルの類いなど見たことも聞いたことも無く「いきなり黒い板に文字が表れた」状態であるのだ。そして彼女は貧乏な農村の子である為、文字が読めない(文字だと言うことは理解できる)。2重の意味で混乱していた。


「……えっと……あの……」


 結果としてネリネは上手く言葉が出てこずオロオロとするだけであった。

 そしてそんなネリネを見て申し訳なく思ったM42は「怖がらなくて大丈夫だよ」と声をかけようとしたのだがそもそも声など出ない。M42戦車は戦闘車両であり乗員は通信機器の類いによってやり取りをするのが一般車のような音楽用スピーカーなど積んでいない。一応各席にはスピーカーとマイクがあるがそれらは戦地での運用を考えて手動で完全にオフにすることが出来る。そして現在、スイッチはオフになっていた。

 一応通信機器の類いは、記録によれば車体後部のスペースに積んでいるはずである。ただそれを説明しようにも、


『車体後部に搭載されている通信機器を接続してください』


 ネリネはモニターの文字が変わったことは理解したが相変わらずその内容が分からずオロオロとするだけである。

 そうして何度かモニターの文字が変わったのだが相変わらず文字の読めないネリネはオロオロするだけで最後の方は怒られた子供のようにシュンとして俯いてしまった。

 M42はどうしようかと悩んだところで、ネリネ側に動きがあった。「くぅ」という可愛い音。朝から今まで何も口にしていなかったネリネのお腹が空腹を訴えたのだ。M42側にその音は届かないが、ネリネはさらに縮こまってしまった。

 そして顔を上げ、


「あ、あのっ……また来ても良いですか?」


 何かを決断したような顔つきでそういった。

何を言ったのかは分からないが、顔を上げていたため口の動きを解析して内容が分かったM42は勿論良いと伝える。ただM42はこの少女が文字が読めないことが薄々分かっていたのでモニターにアニメキャラクターがOKのジェスチャーをしている絵を表示した。

 さすがにイラストの類いは理解できたのだろう。それを見たネリネは満面の笑みを浮かべると「ありがとう」と言うと天井のハッチを開けて出て行ってしまう。勿論ハッチは出た後にちゃんと閉めてだ。


 また来ても良いという表示だったのだろうとネリネは浮かれた気分でその場を去った。相変わらずお腹は空いているし、空を見ればもう昼は過ぎている。村に戻っても食事など用意されていないがそれでも気分は良かった。


(やった、またあのソファーに座れる!)


 そう浮かれながらも、視線は周囲の草木を見回し食べられそうなものを探している。結局あまり食べられる野草は見つけられなかったがそれでも嬉しかった。


 村に戻るとどうやら軍人達は出発したようで村の前はもう人はいなかった。村も落ち着きを取り戻している。

 ネリネにとってはあまり関心の無いことなのでそのまま家に戻っていった。そうして今日も家族に見つからないように自室に戻り眠りについた。

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