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――システム起動
――|補助バッテリーからの通電確認
――自己診断プログラム開始・・・異常なし・・・センサー類も正常
――現在位置を確認・・・error
――中央軍事コンピューターとの接続遮断・・・再接続・・・接続できません。軍事衛星ネットワーク、民間ネットワーク・・・探知できません
――パイロットは搭乗していません。鹵獲の恐れがあります。
――緊急事態class-3・・・仮想人格プログラムを起動します
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一晩たって自室のベッドでネリネは目を覚ました。相変わらず固くてボロいベッドだが野宿に比べればいくらかマシだ。家なので雨風をしのげる点も大きい。木の洞でも最近は問題なくなってきたが、やはり家の方が良いのは変わらない。これで親がいなければと思ったが、そうなった場合おそらく村長辺りに追い出されるであろうから、結局考えるだけ無駄であった。
その日はあのソファーなる物があった場所にもう一回行ってみようと、自分の持っている服の中から最も状態の良い物を選び前日のうちに水洗いしておいたそれを着用する。
部屋を出るとリビングの方から両親の楽しそうな声が聞こえてきた。自分がそこに行くとまた暴言を吐かれるか無視されるだけだと思いコソコソと家を出る。
家を出てみると早朝にもかかわらずいつもより外に出ている人間が多かった。子供も多く出てきている。そして彼等の視線の先は村の前……軍の野営所に注がれていた。
「カッコイイ!」「俺も軍に入りたい!」など無邪気な子供の声が聞こえてくる。ネリネも少し気になってそちらを覗いてみるが、その際に視線の合った村人に露骨にイヤな顔をされたので早々にその場を後にした。
軍の野営所は村のすぐ前で武器を持った歩哨がいるし、日が昇ってからは真面目な兵士が訓練などをしているため娯楽の少ない村では一種の見世物のようになっている。特に子供や男性などは軍人やその武器などに憧れや格好良さを感じているようで多く集まっていた。
ネリネのスキルは軍人関係ということで自身にも関係あるかと思ったが、村の前の軍人たちを見ていても特に何も変わらなかった。もし彼らに自身のスキルを明かして「軍に入れてくれ」と言ったら入れてくれるかもしれない。が、ネリネは目の前の軍人たちはその装備の綺麗さに自分とは違うと早々にあきらめた。これは単純にネリネ(や村人)が貧乏で小綺麗な服(や装飾品)をあまり見たことがないことと、目の前の軍はそれなりに錬度の高い部隊でそれなりに装備にもお金をかけているため、比較した場合の差が大きい為であった。
ネリネはいつもよりやや騒がしい雰囲気の村を後にし、森の中に入っていく。
(今日はあのソファーに座ろう)
そう思うと子供らしくワクワクと心が興奮してくる。秘密基地を見つけた子供のような物だろう。今度こそと、(ネリネ基準で)いつもよりオシャレな服を着てきた。
昨日、見つけた場所はここから離れた場所だが、ネリネは記憶力が良く道を覚えていた。以前に降った雨ももう既に乾いており、泥の中を歩くと言うことも無かった。
結局朝早く家を出たのに自然の地形と体力の無さに阻まれて、以前の場に到着する頃には昼も近くなっていた。
目の前には相変わらず地滑りでむき出しになった土が広がっておりそこから人工物が顔を出している。先日と違うのは少し露出している部分が多くなっているところだ。おそらく周囲にあった土が流れていったのだろう。結果として砲塔部分が完全に外気にさらされており、車体部分も一部露出していた。
砲塔から伸びる主砲を見て、長い棒だなとネリネは思ったがすぐに別の所に意識が向いた。ソファー(だと思っている物)である。ネリネは自分を見る。服はボロであったがここ来るまでに気をつけていたため泥汚れなどは無い。
そうして一昨日と同じ場所に向かって見ると、それは一昨日の時と同じようにそこにあった。
持ってきたタオルで手の汚れを落として、以前と同じように取っ手に触って、そして同じように動かした。同じように手応えがあり少しハッチが開く。そして力を加えハッチを完全に開くとやはり同じようにそこには椅子があった。
(よーし、えいっ!)
心の中で声を上げハッチの中に体を滑り込ませる。そして椅子に座る。
「うぁ、いい……」
座ってすぐにそんな声が漏れる。それだけ車長室の椅子はネリネの体にフィットした。
車長室にある椅子は長期間の作戦に耐えられるように人間工学に基づき制作された物である為、長時間座っていてもストレスを感じないように作られている。結果、この世界ではトップレベルに座り心地の良い椅子となっていた。
だがその座り心地に浸っていられる時間は長くなかった。