04
開いた隙間を恐る恐る開いた中をのぞき込んだが、隙間が狭くまた中が暗く何も見えなかった。もしかしたら危険があるかも知れないとはそのとき思わなかった。こんな所に埋まっていたので危険な生き物などはいないと思っていたからと言うのもあるのだが、そういった考えが抜け落ちていたと言う事が大きい。
好奇心は猫を殺すと言われるがあいにくとネリネは死ななかったようだ。
さらにネリネはその隙間を広げようと力を加えると思った以上に簡単にその部分は開いた。金属と考えると大きさや厚み等からは想像できないほど軽い力で開いたことに少し驚く。そして、さらに中を覗くとネリネが今まで何度か日を越した木の洞より広めの空間が広がっておりそして中央部には――
(これは噂で聞いたソファーというものでは?)
ネリネ視点で柔らかそうな椅子があった。
周囲はモニターパネルやボタン類が整列しており一言で言うならコックピットであるのだがこの世界にそんなものは無いのでネリネは気付かない。
意図せずに最高の宿泊場所を見つけたのでは無かろうかとネリネは気分が上向く。
見る限りコックピット内は非常に清潔そうだ。ネリネは自分の体を見下ろす。そこはボロボロの衣服を着た貧相な体。しかも泥にまみれている。
(こんな格好で座ると汚れちゃう……)
ネリネはせめて汚れていない服装で明日また来ようと思い、その場を離れる……前に先ほど動かしてしまったハッチを押さえると、開いたときと同じように非常に軽い力で元に戻る。そしてガチン!という音と共に完全に閉まった。開けるときにはまた取っ手を回せば良いのだろう。
そうして村に戻っていった。
迷っていたため村に戻るのはかなり遅い時間帯になってしまったが誰にも何も言われなかった。
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次の日、外が騒がしくなっていることに気付いたネリネは朝早く起床した。その後すぐに、部屋に親が怒鳴り込んできた。
「おい! 起きろ! お前もさっさと手伝え!」
有無を言わせずそのまま連れて行かれるネリネ。そして家の外に出てみると周囲が慌ただしい。何が起こっているのかも分からず親の言うとおり荷物運びをさせられる。
その作業中に周囲の村人から聞こえてきた情報を元にすると、国の兵士様達が魔物退治の道中この村によることになったらしい。兵士――魔物退治のために王都から派遣された騎士がいるらしいのだが、このような農村の娘であるネリネにとって騎士など「すごい人」程度の認識しか無い。ただし、村長や一部の村人は認識が違うようで金目のものを隠せと言っている。
そうやって作業が一段落した頃合いに、村に近づいてくる集団が見えた。正確な数など数えられないが見る限り十数人といった規模ではなさそうだった。
そうしてその集団が村につくと先頭の馬に乗った人物が下りて来た。その人に向かって愛想笑いを浮かべた村長が近づいていく。
「これはこれは、騎士様。ようこそおいでくださいました。何も無い村ですがお持て成しさせていきます。」
たまに見かけた尊大な態度を取る村長とは同一人物とは思えないほどの下から発言にネリネは妙なものを見たと思う。
「持て成しはいい。村の前にて休ませくれればそれでいい。かまわないか?」
馬から下りてきた人物――見たことの無いようなキレイな金属鎧に身を包んだ騎士がそう言うと村長は勿論ですと何度も頷いていた。騎士と村長はその後2言3言交わした後、それぞれ別れた。
村長は集まっていた村人を解散させて、騎士は兵士達の方に行きテントなど休憩の準備を始めた。
村長達に解散を促され大人達は素直に従っていたが子供が数名、その場で興味深そうな瞳で兵士達を見ていた。
その視線の先には高さが人間の3倍以上はある巨人が立っていた。
「スゲー!」
「アレが“ギガス”かあ……」
「格好いいな!」
子供達は興奮しているようだが、ネリネにとっては何のことか分からなかった。
“ギガス”という巨人はこの世界にあるゴーレムという魔法で造り出す巨人の技術を応用して作られた兵器の一種である。それが2機ほど兵士達と一緒にやってきたのだ。“ギガス”の大きさはかなり幅があるが今回やって来たのは6mほどの大きさだ。
そして、このような辺鄙な農村の子供達に取ってみれば話には聞いていたが実際に見るのは初めてだ。ただ、ネリネにとってはそのような「話に聞く」程度の事柄すら親から教えられていなかった。兵士達と一緒にいると言うことは危険は無いのであろうと考えられる程度だ。
結局その後、何かあるわけでは無く、村の前で兵士達が休みはじめた他、村長との間で多少物資の融通などが話し合われただけで、ネリネを含め大多数の村人にとって兵士との接点は無かった。