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02

「お嬢さんのスキルは……『指揮官(無機物限定)』です。」


 そう神父が言うがそれの意味がよく分からなかったネリネと両親は聞き返した。


「それはどういったスキルなのでしょうか?」

「私も初めて見るスキルですね。名称からは軍人関係の系統では無いかとも思われます。指揮をする、つまり人の上に立つ人間ですね。……ただ、無機物限定というのはおそらく生き物には関係ない又は通用しないと言う意味でしょう。指揮をするのに人には通用しないというのは、良く分かりません。」

「……そう……ですか。」


 明らかに落胆する両親。

 ネリネは農村の出身で、親は農民だ。ネリネは自分もそうなるだろうと思っていた。しかしスキルは農業関係には全く関係ないスキル。勿論、軍人関係ということで軍に入れば何かしら活躍できるのかもしれない。人の上に立つということだから、現在よりも社会的な地位が高くなるかもしれない。

 軍人というのは基本的に男社会である。勿論女性でも所属している人はいるが少数であり、基本的には何かしらの能力があるからだ。

 対して、ネリネはスキルは軍人関係であるのかもしれないが、体を鍛えているわけでもなく、学もない。戦闘技術や知識など全くない状態だし、これから学ぶこともないだろう。そんなネリネが軍人になることはまず無理である。

 スキルの詳細が分かれば、農民であっても仕事の合間に効率的な成長方法があるのかもしれないが、神父が言うには初見のスキルだという。貧乏な農民であるネリネや両親には試行錯誤など無理な話だった。


 そうして括弧で注記がされている事。これはたまにある現象で、スキルの対象や用途を「制限」するモノである。基本的にはマイナスに働くもので、神父も今までにプラスに働いた者を見たことは無かった。


「…………それ以外には?」

「おお、『錬金術師』もありますね。2つのスキルを授かるとは珍しいですね。」


 多少の期待を込めて、両親はそう神父に尋ねたら、何と2つめのスキルを授かっているという。2つのスキルを授かるというのはやや(・・)珍しい現象である。大体の人間がスキルは1つであり、2つスキルを持つのは1割程度とされている。さらに3つ以上持つ物も存在するが0.1%以下とほぼいない。そのため3つ以上スキルを持っている平民は貴族の養子に迎えられることもあると聞く。

 ネリネの場合は2つのスキルと10人に1人というやや(・・)珍しい人間であった。

ただし――


「……」


 両親は難しい顔だ。『錬金術師』については特に珍しいスキルでは無い。ただ農村の子供が授かっても意味の無いスキルであると言う程度の知識は両親は持っていたようだ。


「『錬金術師』についてはご存じかも知れませんが、錬金術関連の能力はこの社会の発展に欠かせません。――」


 そうして神父は錬金術師について簡単に言及する。それを聞いている両親は明らかに落胆している。ハッキリ言ってしまえばこちらもただの農民には関係の無い能力だったからだ。

 錬金術師は物質を魔法の力により人為的に『変化』させる能力である。それこそ『土から金を作る』事も可能だが、その域にまで至った人物は今のところおらず、理論上の可能性である。それ以外にもこの世界の科学技術の発展に大きな役割を果たしてきた。ただ、問題はその能力が正しい知識が無いと使えないと考えられていることである。物理や化学の正しい知識を習得しようと思うと学校に通わせるなり、それなりの教師に師事するなりしなければならず、少なくない資金がかかる。初期投資さえ行えば元を取れるほど稼げるかも知れないがネリネの家のような農家にそのようなお金は無い。結果として世間では『金持ちなら役に立つ、貧乏人には役に立たないスキル』といった認識になっている。


 結果、スキルを2つ持つという珍しい子供ではあるがその2つともが(農民として)使えないスキルであった。

 この時点で両親にとってネリネは「もしかしたら何かに使えるかもしれない忌み子」から「使えない忌み子」にランクダウンした。


 その日からネリネ扱いはさらに悪い物となった。自分の部屋こそそのまま使わせて貰えたが、食事や衣服は量、質ともに悪くなり、ひどいときには与えられなくなった。

 衣服に関してはそうそう消耗するものでは無いので良いとして、食事が満足にとれないのは問題であった。そしておそらく冬や飢饉など食糧不足になれば真っ先に切り捨てられるだろう。


 そういうわけでネリネは決断した。レッツ山女(ヤマジョ)である。

 ネリネは山、そして麓の森に入り食べられる山菜や木の実を探した。ただ、この付近は全体的に乾燥しており、草木が鬱蒼と……といったものではなく、ややまばらでさらに食べられる植物というものは少ない。

 それに加えて、少女の体力と知識である。不慣れな山道で食料になる物を見つけることは困難を極めた。最初の頃は収穫ゼロの日も珍しくはなく、さらに山で体力を消耗、家に帰れば泥だらけの格好を咎められた。

 食料と言うことだけであれば小動物なども食べられるし、虫も食べられる。ただ、小動物は単純にすばしっこく捕まえることが出来ず、虫はきちんと調理すれば食べられるが、ネリネにその技術はない。生のままはちょっと無理。


 さらに両親からの扱いは日に日にひどくなり、父親は虫の居所が悪いというだけで暴力を振るわれるようになった。

 暴力を振るわれないように家にいない時間が長くなる。

 放置気味の母親はさらに放置するようになり食事が全く用意されなくなったし、数日いなくても気付かれなくなった。

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