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『あーネリネ。聞こえますか?』

「は、はい、先生」


 魔獣のいた周辺をくまなく凝視していたネリネであるがM42からの突然の通信で少々上ずった声を上げてしまった。だがすぐに落ち着きを取り戻した。


『ネリネのいる村に向けて10人ほどの騎乗した集団が近づいています。』

「も、もしかして盗賊でしょうか?」


 騎乗した集団と聞いて真っ先に盗賊を思い浮かべるネリネはこの世界では普通の思考だったりする。

 魔獣や獣に襲われた村がその後火事場泥棒に遭うと言ったことは珍しくはない。と言うか多い。生き残った村人がやっていることもある。この世界では持ち主不明の金品を横領するのは罪ではない(大きな街などではトラブルになるのでやらない方が良いが)。村人が死んで後継者がいなければ遺産を村人で分け合うなんてことも普通だ。

 とどのつまり、ネリネは村人がいなくなった村にやって来た火事場泥棒の類い(盗賊が多い)だと真っ先に考えたわけだ。


『おそらく違います。全員が同じ装備をしていますので、国に所属する組織かなにかでしょう』

「そうですか。」


 ほっとするネリネ。同じ装備と言うことは軍人や騎士の人だろう。先ほど10人と言っていたが、今になってやって来たと言うことは村から逃げた人が町に報告し駐留している兵士が確認に来たと言ったところだろうか。もしかしたら魔獣を退治しに来たのかも知れない。まあ、魔獣はもういないが。

騎士10人で5mクラスの魔獣を倒すのは不可能である。ただネリネは魔獣の脅威は先ほど見ていたとしても、騎士の強さを知らないので退治のためかも知れないと考えた。


 やがて、馬の足音がネリネにも聞こえてきた。ネリネが視線を向けるとその方向に小さいが馬に乗った人が走ってきているのがかろうじて分った。そうしてしばらくするとその人影はドンドンと大きくなり顔が見えるぐらいになって来た。身につけた装備品から以前に村にやって来た軍の人と似たような感じであったため、軍人で間違いないだろうとネリネは思った。少なくとも無法者の集団ではなさそうだ。

 騎乗した人物、その先頭にいる人もネリネを見つけたのか視線をネリネの方に向けている。少し驚いた顔をしているがそのまま馬を進めて、やがて村の中に入ってきた。


 そして馬に乗ったまま村の中を横断し、ネリネのすぐに前にまでやって来た。


「この村の者か?」


 良く通る声で先頭の男――30代ぐらいの精悍な顔立ちの人物が馬上からそうネリネに疑問を投げかける。

 馬上から成人男性に声をかけられたと言う事で、ネリネはビクビクしていた。そもそも疎まれていたため、今まで人と会話した経験すらあまりないので若干コミュ障気味であった。ただ最も親しい先生ことM42が側で見ていてくれると言う事で何とか話をする勇気が湧いてくる。


「ど、どうしましょう先生?(ヒソヒソ)」

『答えて良いのではないでしょうか。とりあえず私が言うとおりに行ってみてください』

「分りました(ヒソヒソ)」


 通信機で小声(会話は骨伝導によって行われているので確実に聞こえていないのだが)での話し合いが終了する。


「そ……そうです。あ、あの、あなた方は?」

「我々はウサの町から来た。この村に魔獣が出たと聞いた。何か知っているか?」


 相変わらず男は良く通る大声で馬に乗ったままネリネに話しかけて来る。ただ、ネリネとしてはコソコソとM42と通信を取っているのを知られたくなかったのでその方が良かった。

 ネリネはM42の指示に従い話していく。若干ドモリ気味ではあるものの何とか声を出し男性とコミュニケーションを図ろうとする。


「え、あの……魔獣が村に向かっていると聞いて、それで……」

「魔獣がここに来たのか? 他の村人と会わせて欲しいのだが」


 めっちゃドモるネリネ。とはいえ質疑応答形式なので答えることぐらいは出来る。

 まあとにかく、そう答えるとネリネは俯いた。結果としては全滅でネリネしか生き残っていない。そのことを言うかどうかで悩んでいたのを、相手側は(ショックにより)言いよどんでいると考えた。

 そう言うと一番先頭にいた隊長と思われる男は馬から下りて、ネリネの前にまでやって来て屈んで頭をなで始めた。


「ここで起こったことを聞かせて欲しい。」


 隊長のオッサンが手を肩に置き視線を合わせてゆっくりと聞いてきた。隠す必要などほとんど無いため話し始めるネリネ。勿論M42側の修正が入った後だが。


「あ、えっと……この村の狩人の人が魔獣を見たと行っていたんです。こっちに向かっているとも。そして村で元気な人は逃げました。逃げる力の無い人は村の地下室に隠れました。」

「なるほど、君も隠れていたのか?」

「いえ、私は……その……地下室に入れて貰えませんでした。そのため森の方に逃げました。」

「何だと!」


 隊長さんが驚きの声を上げる。そしてその後怒りの上々を浮かべる。


「こんな子供を避難させないとは――」

「隊長―!!」

 

 隊長が怒ったまま何かを言いかけた際に他の兵士によりその声は遮られる。その声をした方を向くと1人の兵士がやって来てネリネに話しかけていた――隊長と呼ばれた人物に耳打ちした。そして苦い顔をする隊長。兵士は話し終えた後、どこかを指さした。指している方向は村長の家のある方向だ。隊長は立ち上がりそちらに向かっていった。その際にネリネの手をつかんだままなので引っ張られていく。


「その眼鏡はどうしたんだ? 親に買って貰ったのか?」


 歩きながら隊長はネリネに聞いてくる。


「え、あ、その……親は……私を疎んでいたので。このゴーグルは先生から頂きました」

「先生? それは……」

「先生は私にいろんな事を教えてくれました。」

「そうか。……所で魔物はどうなった?」


 隊長は先ほどから気になっていた少女の持つ眼鏡に付いての話題を振る。このような寒村で眼鏡を持つと言うことは疎まれていたと行っても両親は優しかったのではないかと考えたのだが、どうやらネリネに眼鏡を買った人物は別人のようだった。話の内容から眼鏡をくれた『先生』とやらは宣教師か何かだったのだろう思った。そして結局この村でこの子の扱いは良くなかったのだろうと言うことも。そして首輪チョーカーの方はさすがに話題にする勇気が無かったのか隊長さんはすぐに話題を変えた。


「その……森に隠れていたので分りません。静かになったので村に戻ってきたんですけれど」

「そうか、これだけ人間が集まっても姿を見せないと言うことはとっくに去っていると考えられるな。」


 去ったのではなくM42が排除したのだがそこは隠された。単純に証明のためにはM42側も姿を見せなければならないと思ったからだ。

 今も、兵士は村内の見回りをしているが、2人以上で武器を携帯して見回っている。もし魔物が戻ってきたらと言う時ヘの備えだ。


 そうして、先ほど兵士が指していたところに案内される。村長宅のちょうど横。

 そこには地下深くに空洞があった。緊急避難用の地下室だ。


「天井?から破られていますね。ここに避難していた者は絶望的でしょう」

「そうか、間に合わなかったか。……ここが避難所か?」


 コクリとネリネが頷く。それを隊長は声がでないほどショックを受けているのだと判断した。とは言え、今は一刻も早く生存者を見つける必要があると、無理を承知でネリネに話しかける隊長。

 隊長や兵士達はその避難所跡、そしてその周囲に散乱する人間のパーツに視線を向けて悔しそうな顔をしている。


「きみ……名前は? 俺はゲイツだ。」

「……ネリネです。」

「そうか、ネリネ。村人として他に生きている人はいそうか? 他の隠れ家とか?」

「いえ、村の避難場所はここだけです。村を逃げた人もいましたけど」

「ああ、そいつらからこの村の現状を聞いてやって来たのだが我々だ。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「……いや、君の親御さんはどうした?」

「その避難所の中です」


 そうして崩壊している避難所を指す。


「そうか……すまない」


 ゲイツと名乗った人はそうポツリと呟き他の兵士がやっている作業、遺体を一カ所に集める作業を手伝いに行った。


 ウサの町にいたゲイツ達は魔獣が出たという情報を逃げてきた村人から聞いた後すぐに部隊を組織して出立した。そして到着した村は既に魔獣によって蹂躙された後だった。多数の村人が殺され、事前に逃げ出せた人間を除き、生存者は1名のみとなっていた。


 なお、これだけ人間が動き回って何も無いと言うことで魔獣は既に別の場に移っていると考えられた。





****



 そうしてネリネは騎士団に保護され町に移動。簡単な事情聴取の後解放された。

 この町にはもうネリネを縛る物は何も無い。お金はないが義務やしがらみも無い。ここからネリネの第一歩が始まるのだ。頑張れネリネ、負けるなネリネ。

 ネリネ達の物語はここから始まるのだ。


なお、早々にネリネと接触しボッチを脱出したM42はある意味で非常に楽観的な考えの元行動していくことになる。



 ――終わる

こうしてネリネはざまぁすること無く村を出て行くことになった。

-END-

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