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 魔獣がこちらを向いた。モニター越しであったがネリネはその魔獣を目が合ったような気がした。


「ヒッ!」


 ネリネはその視線に怯みおびえた声を出してしまう。


『ネリネ車長大丈夫です。対象まで2000も離れています。それよりも排除するならばボタンを押してください。』


 ネリネは怯えの色を残したまま主砲発射ボタンから一時手を放した。そうして大きく深呼吸をする。


「ハァ……大丈夫、行きます。――発射っ!」


 ――ドンッ!!


 発砲時の衝撃を殺しきれなかったM42の車体が揺れた。

 140㎜戦車砲から発射された装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は極超音速で目標に狂い無く命中し――消滅した。


「先生……魔獣が消えたのですが?」


 モニター上に表示されている弾道だが、さすがに生身の人間が弾を目視することは出来ない。

 非常に遠い位置に土煙が見える。砲弾が着弾した所だ。魔獣の体はきれいさっぱり消えている。直撃の衝撃とその後に襲ってくる衝撃波によりキレイサッパリ消え去った。


『命中です。弾は貫通しました。どうやら想像していた程度の弱さ(・・)だったようです。主砲弾だと明らかなオーバーキルですね。』

「オーバーキル?」


 ネリネは戦車兵として訓練を受けておりM42戦車のスペック類は理解していたが、実戦は初めてでありその威力を現実で(・・・)目の当たりにして、少々知識の引き出しが上手くいっていないようであった。


『魔獣の弱さ(・・)に対して弾の威力が強すぎると言うことです。あの魔物の体はその威力に耐えきれず消滅しました。』

「そうなんですか。さすが先生です!」


 主砲弾は魔獣を貫通した後、ほとんど速度を落とさずにそのまま直進していき最終的には地面に当たった。明らかなオーバーキルだ。

 M42は対象が未確認生物な上、魔法の存在する世界であると聞いていたので多少過剰ではあるものの慎重を期すため主砲での攻撃を行った。結果はお察しである。

 弾は胸部に命中。ただし魔獣が柔らかすぎて、そのまま粉微塵にするどころか、砲弾の威力、摩擦熱や衝撃波によりほとんど確認できないぐらいに粉々――と言うか蒸発した。



****



『――と言うわけで魔物の残骸を観察したいのですが出来ますか?』

「はい、先生。大丈夫です!」


 最初M42はネリネに任せるのは酷かと思っていた。魔獣という種に対し可能な限り近くで観察したいと思っていたのだが、ネリネを含めた村人に非常に恐れられている生物である。ただでさえ5mもある肉食獣だった(・・・)のだ。さらに両親の仇とあっては断られても仕方ないと思っていたが本人はやる気満々のようであった。


 そうして、M42戦車から降りて、村の中を移動し魔獣のいた位置に近づいていくネリネ。その様子を遠くから見つめているM42。M42だと村の中の道は狭すぎて侵入できない。それに周囲の警戒も必要ということもありネリネ一人で魔獣の確認に向かっている。とはいえ、個人端末は装着しているので何かあればすぐに介入できるようにされている。


 そしてネリネは魔獣のいた位置に到達した。


『周辺を見回してください。血液や肉片が飛び散っていないですか?』

「えーと……ないです」


 周囲を見回しても倒壊した建物など以外に何も無いことを確認するネリネ。心なしかションボリしている。

 ネリネが装着しているゴーグルにあるカメラによりネリネの見ている景色がM42にも共有される。


(うーん、ちょっと強いだけの動物っぽかったな……魔獣と名称からして区別されているからには普通の動物よりも強かったり魔法とか使ったりするかもと思って主砲で攻撃したのだが……)


 魔獣のサンプル回収も考えていたM42としてはやはり過剰であったと結論づけた。


(まあ、今回は魔獣は主砲で撃破可能だと分っただけ良しとしよう。さて、ネリネに戻ってきて貰って…………ん、誰か来るな。かなり大勢。くそっ、建物の死角で気付かなかった。)


 画像を拡大して近づいてくる集団を確認する。数は全部で10人だったが全員が馬に乗っていた。その時点でM42は警戒度を少し下げた。

 単純に馬十頭を揃えられるとなると野盗の類いでは無い可能性が高い。その後、全員がデザインの似通った服装をしているのを確認。服装は落ち着いた色合いに、要所を守る金属鎧を身につけている。身なりも小綺麗なので『治安維持組織及びそれに準ずる者』の可能性が高いと判断した。


 ただM42としては今だこの世界のことをあまり把握できていないため、砲塔上部にある12.7㎜機関銃の銃口を向けつつ様子を見ようとした。

 ネリネはともかくM42のような戦闘車両がどのような立ち位置にいるのか不明であったためだ。ネリネは村の中にいるがM42は村から少し離れた森の入り口にいる。


(馬に乗って鎧とか、ファンタジーだな、おい!)


 ネリネには連絡を入れつつ、M42は警戒したまま森の入り口で待機することとした。ネリネは見つかるだろうが好都合だ。近づいている集団は全て成人男性のようであり、おそらく村娘であるネリネよりも精度の高い情報を持っているだろう。

 そして何より、今現在ネリネは親を失い、育った村も失っている。ならば、きちんとした組織なり機関なりに保護して貰うのも良いだろう。孤児院などもあるかも知れない。


(とりあえずは情報収集か……)


『あー、ネリネ。聞こえますか?』

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