5.野盗ども
グロいです。
ーーーKF7汚染地域α 探索83日目--グレン・コーナミーーー
落下地点付近で人間四人と遭遇した。
コンタクトをとることが出来なかった。
どうやら、最近近くに野盗が住み着いたようだ。
今のうちに、この地域での生活の仕方を模索しておくべきだろう。
いつまでも野宿はできない。
森で狼十数匹の群れから襲撃を受けた。
うち、リーダー格の狼は変異体で口から炎を吐く特殊能力を所持していた。
リーダー含む狼8匹を殺害。
群れは逃亡した。
左腕に軽度の火傷を負ったが問題は無い。
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森で一夜を明かした。
あれから、他の動物から襲撃を受けることは無かった。
灰と煙がちになってきた焚き火の横には、剥いだ狼たちの皮が干されていた。
一際大きなボスの毛皮にこびり付いた血の赤は何度擦っても取れなかった。
魔狼。
狩人達は、そう呼んでいた。
確かに、唯の狼は口から炎など吐かない。
赤い色に不釣り合いな熱量はまさに魔法である。
パターンKF7はどうやら私が知っている汚染物質を遥かに上回るポテンシャルを秘めているようだ。
野生動物でさえ使うことが出来るのだ。自身のように、人間でも使える者はいるだろう。
人はそれを魔法使いと呼ぶ。
「まいったな。 これじゃなんでも有りだ。」
焚き火の火を踏み消しながらボヤいた。
とにかく、この地域について知る必要がある。
ここはおそらく、地球じゃない。
夜に木々の間から見えた月は、地球で見たものよりも遥かに大きく、模様が全く違っていた。
先ずは、何としても人の居住地にたどり着かなければ。
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3時間程だろうか。
狩人が走って行った方向に向かってずっと歩いていたが、一向に着く気配がない。
それどころか、木の種類が変わり、森の密度が高くなったように感じる。
心無しか大きな岩や傾斜地が増えてきたようにも感じる。
少し前に木々に刻まれた印を見つけたので、通り道の目印に違いないと、印を辿って歩いていると森の奥まで戻ってきてしまったということである。
そろそろ、引き返して逆方向に進もうかと思った時。
急に木々の密度が低くなり、代わりに高さが3Mはある丸太で出来た壁が現れた。
最初は人が暮らす村の防壁かと思ったが様子が違った。
先ず、よく見ると所々の壁が不十分で、普通に通り抜けられる。
次に、門番の姿が汚い。
髭は伸び放題で、汚いボロ布を体に巻いてるだけのくせに、上から無駄に綺麗な防具を乱雑に体に縛り付けている。
オマケに、壁の中に家屋は無く汚らしい男達が地面に敷いた枝や藁の上に寝転んで酒を飲んでいる。
野盗だな。
そうと決まればやる事はひとつ。
潜入だ。
本来は、夜に入るのだが、あと丸一日を森の中で過ごすのは危険すぎる。
早めに中に入っておきたい。
先ずは、偵察だ。
何処からなら入れるのか。(何処からでも入れそうだが) この拠点はどのような地形にあるのか。
いざと言う時は、何処に逃げ込むべきか。
拠点の周りを二三周ぐるっと回って隈無くチェックする。
どうやらこの拠点は森のギャップーー落雷や山火事で木の密度が低くなる場所に立てられているようだ。
近くに川があるので水の心配はなく、ちょっとした道を作っているので「お仕事」に行くのも楽々という訳だ。
道は拠点の南側の門と繋がっているので、警備が薄そうな北側から入ることにした。
それにしても雑な壁だ。
丸太の間隔が開きすぎていて、体を横に向けなくてもスルッと通れる。
丸太を用意するのがめんどくさかったのだろうか?
丸太の壁を抜けると目の前に木の建物がある。
実は北から入った理由の一つでもあるのが、壁のすぐ内側に建物があるので入っても誰も気づかないのである。
ザルである。
それにしても、大きな拠点だと思ったが、どうやら大世帯である訳では無いようだ。
拠点の中心に岩山(大岩?)が見える。
そこに洞窟を掘って砦にしているようだ。
道理で防壁をサボる奴が出るわけだ。
この近くの建物は、雑用係の作業小屋であるらしい。
壁に耳を当てると、話し声が聞こえてくる。
「なあ、聞いたかよ。 昨日、親方が街道の商人をぶっ殺して、食べ物をいっぱい持って帰ってきたらしいぜぇ」
「まじかよぉ。 俺らの飯はいつもと一緒だったじゃねぇかよぉ」
「馬鹿野郎、俺ら雑用にうまい飯が回ってくわけないだろぉ。それに、戦わなくてもいいなんて楽々な仕事じゃねぇかよぉ」
「でも、俺も気持ちわりぃ商人どもをぶっ殺して、女の子を犯してみたいんだよぉ。 あぁー俺にも回ってこねぇかなぁー」
「やけど、親方あんな派手にヤって大丈夫なんかいな。 あんまやると傭兵団に目ぇ付けられるんやろ?」
「大丈夫だって。傭兵なんかどうせ見せかけの木偶の坊だから」
どうやら、傭兵という集団が存在するらしい。
まあ、傭兵が来ようが来まいが関係なく私が滅ぼしてやるつもりだが。
とはいえ、人間は獣ではない。
無闇に、正面から闘うと大抵は手痛い反撃を受ける。
というわけで、野盗の中枢部分から骨抜きにしよう。
慎重に作業小屋群を通り抜け、岩山の洞窟にたどり着いた。
どうやら、作業小屋の面々は小屋からめったに出ないらしい。
「いやぁ、昨日の女はかなりブサイクだったな。あれだったらまだ、村の子供を壊す方が楽しかったよ。」
「確かに。」
こんな阿呆なことを抜かす門番が洞窟の入口に立っている。
北側の入口はここにひとつしかない。
殺すか。
本来、1人で2人を同時に静かに排除することは出来ない。
ただし、飛び道具を使えばそれはかなり容易になる。
別に、銃を使う必要は無い。
ナイフがあれば十分だ。
片方にナイフを全力で投げつけ、混乱した隙にもう片方の首を折る。
もちろん容易ではないが、何百回もやると慣れてくる。
「……そうなんだよ。 それで、俺が『勝手にイッ______」
「……あ? 『勝手に』何だyッッッ___!!!」
手遅れだ。
野盗の臭い頭がコキっと気持ち悪い音を立てて斜め後に回った。
「____かひゅぐくるぅッッ!!」
喉にナイフが刺さったもうひとりが壁を背に倒れ込みながらこちらを見ていたので、喉のナイフに蹴りを入れて更に深く差し込んでやった。
呆気なく人が二人犬死にした。
「……哀れな。」
人に向かって 阿呆 なんて言ってはいけませんよ。