プロローグ_2
-イミルデルシア エインビルツ城-
イミルデにある惑星ルシアは直径約13,000kmで主に岩石で構成されている。
「サテリト」という衛星を一つ持ち、地上からは夜になると恒星の光を反射し、輝くのを見ることが出来る。
今日はちょうど満月だ。 まあ、「今日」とは言ってももうすぐ日が変わるのだが。
もうすぐ約束の時間になる。
机の上にはまだまだやらなくてはならない書類が山ほどあるが、部屋にぶら下がっている魔力照明を落とす。
すると、部屋は何も見えなくなり、私の背後から差すサテリトの光が机の書類達をぼんやりと照らした。
僅かな光を頼りに、机の書類を脇にどけてそこに燭台を置いた。
背後のカーテンを閉めると部屋は真っ暗になり、闇の中をろうそくが揺れるだけになった。
「彼」と会うときはこうするのが相手からの希望だ。
「国王陛下。お久しぶりでございます」
まるで、部屋がこうなるのを待っていたかのように声が聞こえる。
ドアが開く音はしなかった。ずっと中で待っていたのだろうか。
「......挨拶は要らぬ。 要件を話せ。」
「おやおや、お互いよくこうしてお話する仲ではないですか。 そして、貴方は私達のお客様でいらっしゃ」
「....話せ。」
此奴のペースにのせられてはいけない。
此奴は平気で戦争を起こさせ、数億人の犠牲を出させるような奴だ。
私は凛とした態度で其奴が潜んでいるであろう暗闇を見つめた。
「相変わらず、つれないお方でいらっしゃる。
フフッまあいいでしょう。
少し予想外のハプニングが起きまして、私たちの計画が遅くなりそうなのですよ。」
「言い訳は要らぬ。 要点だけを述べろ。」
「フフッ
要点を述べると、
界渡りの儀が察知されてしまいました。 」
「原因は何だ。」
「あちら側に何らかのトラブルが起き、予定していたものの10倍以上の規模になってしまったようです。」
それは不味い。奴らは此奴に比べると、かなり常識的だが、それ故に頭が固い。
この国をここまで追い詰めたのも奴らだ。
ここに来て、邪魔されるわけにはいかない。
「警備に関しては問題ない。計画を進めろ。」
「……こんなことをしなくても楽な方法はいくらでもありますよ?
なぜ、こんな面倒な手を打つのか私には理解できませんがね。」
「民を貴様らに売り渡すほど、我は腐っておらぬ。」
「いずれ誤魔化しが効かなくなるでしょう。
そして私と貴方はとても有意義な取引を結ぶことになります。」
「くだらんな。今夜言いたかったのがそれだけならば、さっさと出ていくがいい。我は忙しい。」
「フフッ そうでした『王はお忙しい』のでしたね。
それでは私は失礼致します。」
そう聞こえるや否や、扉の閉まる音がして、部屋が明るさを取り戻した。
まるで勢いを増したように強くなった蝋燭の光が向かい側の扉と壁を照らした。
もちろん彼奴の姿は無い。
「もう少しだ。もう少しでこの国に安寧が訪れる。」
そう口に出さないと、今までの努力が崩れてしまうような気になって仕方がなかった。
だが、信じるしかない。 他でもない自身の、王としての決断を。
このふたつが交わるのはまだしばらくかかりますよ。