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イミルデ・ルシアの夜  作者: Sarah Bun
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11. 直属部隊

ストレミ接近中

ーーーアインビルツ王国 ミューグラード 閃狼傭兵団本部 6月10日--グレン・コーナミーーー


ここでの暦を覚えた。どうやら私がここにやってきたのは2月の初めの頃らしい。


訓練校を卒業するのと同時に、どの部署に配属されるかを決めるようだ。

この傭兵団に存在する部署は10個。

突撃分隊:対人部隊 狩人部隊

工兵分隊:対人部隊 狩人部隊 研究部門

魔法士部隊:対人部隊 狩人部隊 研究部門

総務課

諜報部


私の希望部署は突撃分隊の対人部隊だ。

……本音を言えば、工兵部隊の研究部門がよかったんだが。

しかし、傭兵団長ヴィスコンティは認めないだろう。

それに、昨今の情勢は非常に危うい状況にあるらしい。

そうであるならば、来る騒乱に備えるのも悪くはないだろう。


……もはや、報告でも何でもない日誌となってしまったが、この際日課として毎日続けようと思う。


以上。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・配属決定面接


「というわけで、普通なら私たちで兵士の取り合いが勃発するんだけど、ヴィスコンティ団長直々のお達しだからねぇ。正直、話すことなんかないんだよね。」


そういうと、総務課及び諜報部の最高責任者、リットゥ氏はクッキーをつまんだ。


「ドール氏も食べますか?」


「頂こう! ……しかし、グレン殿も随分と厄介なことに巻き込まれたものですな!」


「厄介……というと?」


私がそう返すと、突撃部隊の最高責任者、ドール氏は口の中のクッキーを水で流し込んだ。

のどに詰まったらしい。

私の質問に対して、ドールの代わりに答えたのは、工兵部隊の最高責任者、リーグラン・アルファ氏だ。



「あれはストレミ女史が直々に取った依頼なのだ。……その時点で色々お察しだが、本来、我々どもへの依頼は総務課を通されるのだ。だが、あの任務ではそれが省略されていた。つまり、内密な、それこそ受注履歴には残せないような非公式任務だったということだ。」



「……ゲフ。そして、そのような依頼をする、できるのは騎士団しかいないのである!」


「騎士団……。では、エリーゼ・ルシャトリエ嬢が囚われていたのにも関係が?」


「まさにそこなのだ、グレン殿。本来であれば、あの程度の盗賊団など、われら閃狼傭兵団に依頼するまでもないこと。それこそ、街道警備隊の指揮所から10名ずつ引っ張り出して、討伐隊を編成すれば充分であったのだ。だが、貴族連合はそれをせず、騎士団へ話を通した」


「そして、さらに奇妙なことにそれが私たちへと回された……ということでしょうか」


「いかにも」



このアインビルツ王国には貴族たちの扶助組合のような組織である貴族連合が存在する。

これの役目の一つに、別の貴族領における貴族のトラブルの解決がある。


ルシャトリエ侯爵家のご令嬢が盗賊共の手に落ち、行方も不明になったなど、この「トラブル」の最たるものだ。

もし、自分の領内で見つからないのであれば、当然ルシャトリエ家はエリーゼ嬢捜索の願を連合に出すだろう。


「貴族が自身らの内で問題を解決しようとするなら、当然貴族が実権を握っている守備衛兵隊や街道警備隊、私兵を使うだろう。よその貴族の為とは言え、盗賊が蔓延りつつあるのもまた事実。名分代わりに、街道や領地内で兵士を駆けさせるには丁度いい機会だ」



しかし、彼らはそうしなかった。

彼らは空走状態の兵力を動員する代わりに、王権に頼った。


王国直属の騎士団に。


「我ら閃狼傭兵団の大株主であるメサビ家を筆頭に、株式を所有する貴族は皆、貴族連合に加盟していない!国家規模での陰謀がはたらいていると考えて不思議はないだろう!しかし、現状我らへの悪影響は皆無だ!何らかの要因で思惑が外れたに違いない!例えば、出自不明の軍人の乱入!グレン!もう、引くことはできんぞ!」


「随分と発想を広げたものだ、ドール殿。しかし、いろいろきな臭くなっているのも事実。情報が錯綜し始める前に貴殿のような「力ある個人」は、どこかの組織に所属しているのが好ましいのだ、グレン殿。できれば、明確な作戦行動に参加してもらう方が、こちらとしても余計な警戒をしなくて済む」



余計な刺激を与えるのは私としても本意ではない。やはりここは閃狼傭兵団上層部の意向に従うのが得策だろう。

私がそのように思考している間も、ドール氏とリーグラン氏は議論を続けていた。



「リーグラン殿は少し悠長すぎる!この王国に散らばる火薬は貴殿の作るそれの何倍も強力で不安定なのですぞ!」


「それは、私も把握している。だが、いや、そうであるからこそ、扱いや身の振り方は慎重であるべきなのはドール殿もよく分かっておられるでしょうに」


「……少し物々しい話になってしまいましたね。本来はグレン氏の配属先決定面接なのですし、もう所定の時間を過ぎてしまいますから、議論は後に致しましょう。ドール氏、リーグラン氏?」



議論が過熱しだしたところでようやくリットゥ氏が止めに入った。

私としても、情報が不足している現状、あれこれ類推しても仕方がないことだと考えていた。

謎は、時とともに明かされていくだろう。

だが、まずは私の配属先だ。



「いうまでもないことでしょうが、グレン氏の配属は突撃分隊の対人部隊、に決定いたしました。皆さんもそれでよろしいでしょうか」


「よろしいでしょう」

「……構わない」

「うむ!」


突撃部隊、工兵部隊、(一言も発言しなかったが)魔法士部隊の長が全員承諾した。


「はい。それでは、グレン氏の配属は……」



と、その時。


突如、面接室の扉が開け放たれた。


「待ちなさい!!」



仰天するリットゥ氏。

顔を引きつらせるドール氏とリーグラン氏。

魔法士部隊の最高責任者、リブリマ・クレスト(名前は初出)は……無反応。いや、あれは寝てるな。


そして、状況を把握できない私。


一体全体、なんなんですか。



「彼、グレン・コーナミ中尉は私の直属部隊、ストレミ直属部隊に配属よ!以上! みんな解散!!」

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