魔法ほしい
ある休日の朝だった。
スマホが鳴っている。
今まで平穏な毎日を過ごしてきた。
毎朝指定通りに鳴り響くアラームの音で起き、朝ごはんを食べ、歯磨きを行い、通勤。
可もなく不可もなく日々の仕事をこなし帰宅。
特にやることも無いので風呂、ご飯を済ませたらすぐ寝る。
スマホが鳴っている。
平穏無事な毎日を過ごしてきた。
ただ、この時だけは、このときだけは、
猛烈に嫌な予感がしていた。
「 … … … … 」
発信者の欄は無く、電話番号のみが表示されている。
その電話番号には見覚えがない。
普段電話をかけてくるような友人は居ないため、間違いなく厄介ごとの類か、営業か何かだとは思う。
いつもは無視しているが、今日はなぜがこの電話を取らなければいけないような気がしていた。
そもそも、何に怯える必要があるのだろう?
ただ電話越しの相手と話すだけだ。
意を決し、着信ボタンをタップした。
「 … … もしもし 」
「 おはようございます 」
電話に出ると、30代後半の男性と思われる声が聞こえた。
「 … おはようございます 」
電話に出たは良いが名前を名乗らないのは何でだ?
「 そうですね、では名乗りましょうか 」
「 !? 」
一瞬声に出ていたかと思ったが、そんな事は無いはず。
ではなぜ、心の声を読めたのだろう。
「 当然の疑問ですね。 」
… … もはや言葉を失う。
電話越しの相手は確実に心を読める相手、もしくは心理を読み解くのに長けた人物であるだろう。
「
あなたの疑問にお答えしましょう。まず私の名前から。
私に名前はありません。しかし、私の事を周りは神と呼びますね。
」
「 … … 神だと … 」
なんだこのふざけた相手は。
「
そして、心が読めた理由ですが、あなたが今いるのは私が所有している空間の中だからです。
当然日本ではありませんし、あなたが住んでいる家でもありません。
私が所有している空間の中で私に出来ない事はございません。
」
… … … そんなばかなはずはない。
現に僕は昨日の記憶を覚えている。
普段通りに仕事をこなし、帰宅。
お気に入りの番組を確認しそのまま寝た。
確かに記憶している。
そんなばかなはずは … …
「 お気付きのようですね 」
… … なぜ気付かなかったんだ。
辺りを見渡すと、そこには純白の世界が広がっていた。
塵一つ何もない、空白の世界がそこに広がっていた。
この光景は人が生み出せるものではない。
生み出せるとしたら、それは人知を超えた何か … …
「 あなたは選ばれたんですよ 」
… … 選ばれた … ?
「 はい。あなたは異世界に転生する権利を得たのです 」
「 … … … … 」
「
あなたは日ごろから思っていたはずだ
こんなに世界はつまらないのかと。
何も変化の起こらない日々、
毎日同じような仕事をこなす日々、
あなたは子供のころ、とても大きな夢に期待を膨らませ、過ごしていたはずだ。
やれ警察官だの宇宙飛行士だのサッカー選手だの
」
確かに感じていた。
つまない日々、だがしかし確変を望まない日々
僕は日々に飽いていた。
「
本日はそんなあなたに救済を行いたいと思うのです。
魔法が存在する世界に所謂異世界転生を行い、自由気ままに過ごしたくはないですか?
」
… … … 正直、過ごしたいと思う。
魔法というこの世の理から外れた技術を手にしたとき、僕は正気でいられるだろうか。
「 … … 異世界転生には何か条件があるのか 」
「何もございません」
こんなうまい話しがあるものか。
そもそもこれは現実なのか?
まだ夢の最中なんじゃないか?
まともに相手するのも馬鹿らしくなってきた。
「 そうですか。じゃあ貴族に転生で魔法の才能はチートにしてくれるなら転生していいですよ 」
「 わかりました 」
神と呼ばれる存在がそう言った瞬間、眩い光が目を覆った。
視界から得られる情報は無くなり、その内、何も聞こえなくなった。
世界が終わる瞬間とはこういうものなのだろうか。
柄にもなく僕は思った。