熟成肉の極旨ステーキと岩塩
『……なんだと?』
仰向けになったまま、メメコレオウスは訝しげに声を出した。
もういきなり暴れないだろう、と判断して僕はそっと離れる。
「だから、メメコレオウスさんって、美味しいご飯食べたことないですよね?」
『魔力さえあれば生きていけるからな。たまに魔力の強い動物を殺して食うことはあるが』
「だからそれを披露するので、岩塩に手を出さないって契約してください」
『……ふん。我を軽々しく投げ飛ばせるくせに、そんな提案など……いいだろう、面白い。その提案にのってやる。ただし、不味かったら、我の好きなようにさせてもらおう』
「分かりました。任せてください」
僕は胸をどん、と叩いた。
よーし、そうとなれば早速準備をしなきゃ!
「フィブリアさん」
「分かってる。その代わり」
「はい。とびっきりのを作りますと。僕らの晩御飯でもありますしね」
「うん。それならいい。何をとるんだ?」
「とりあえず岩塩の採取と、山菜をとりにいきましょ。いいのがあったんです」
「分かった」
フィブリアさんは頷くと、早速岩塩の切り出しから行う。
腕だけ変化させて、あっというまに岩塩を切り裂いた。うーん、すごいな。
それから山菜をとりにいく。
道中でいいのがあったんだよね。
さっと移動して、必要なものをとっていく。目玉はこれ。バッケ。ふきのとうだ。
冬の終わり、春の始まりの頃に芽吹くんだけど、ここは今の時期みたい。そんなに寒いわけでもないんだけどな。
それと、タラの芽。これも美味しい! 後は大葉もね。これがあると一気に味が変わってくるんだよねー。
うん、これくらいでいいか。
必要以上にとると、来年とれなくなっちゃうからね。
僕とフィブリアさんは両手に抱えつつ馬車へ戻る。メメコレオウスは馬車の近くで休んでもらう。もし何かしようとしたら、抑えないといけないし。
それと、岩塩からも離れてもらわないとね。
「さて、本格的にやりますか」
僕はテーブルの上に食材を並べて、息を吐いた。
ここ最近のと比べて、結構な量があるし、時間もかかる感じ。望むところだ!
僕は予め冷蔵庫から出しておいた、塊肉をどんとテーブルに置いた。
「香ばしいな」
「熟成肉の特徴ですね。お肉も柔らかくなってる。元々がいいお肉ですから、余計に」
僕はそれを分厚くカットする。うん、サシが本当にいい具合だ。このまま焼いても間違いない美味しさなんだけど、とびっきりって言っちゃったからね。
肉を叩いて、大きい筋をさっと切って、柔らかくなるように下ごしらえ、と。
「ずいぶんと手を入れるんだな」
「ええ。必要ですからね。お肉って、しっかり下処理を施したら、びっくりするくらい美味しくなるんですよ」
「今まで焼くだけしかしてこなかったな」
「豪快ですね」
そういうのも美味しいんだけどね。
次に、すりおろしたタマネギとハチミツをお酒で混ぜて、肉に塗り込む。ハチミツは薄く塗らないと甘ったるくなっちゃうから、分量には要注意。
後はこれを漬けてあげるだけ。
その間に色々と仕込んじゃおう。
まずはスープ。
じっくりとキノコから出汁を取りながら、ちょっと少な目にトリガラをいれて、よーく味が出てきたら野菜をいれて煮込む。塩とコショウで味を調えたらオッケー。トリガラを少な目にしたのは、さっぱり味にしたいから。
次に、たらの芽。
これはアクを取らないとすごく苦いからね。丁寧に処理しなきゃ。
塩水を沸騰させて、軽く茹でてから冷水にさらしてアクを抜く。その間に市場で買ったオクラも食べやすいように処理をしてから輪切りにして、大葉と敢えておひたしにする。醤油と、お砂糖を少しだけ、と。醤油が強すぎると大葉の風味が損なわれるから、薄めがいい感じなんだよね。
フィブリアさんにちょっと味見してもらおう。
「なんか雑草を食う気分なんだが」
「いいからいいから」
小皿を差し出すと、フィブリアさんは嫌そうな表情ながらも一口。
もむもむと食べて、何度も頷いた。
「これは美味しいな。独特の香りと、大葉の酸味とタレの甘じょっぱさがよくあう。それにオクラの粘り気がいい」
「よかったです。これから作るのは割とこってりしてるので、こういう箸休め的なのも用意しておかないと、と思いまして」
「考えてるんだな」
そりゃもちろん。こってりしたものオンリーだと、後がつらいからね。
おひたしも成功したところで、パンも焼いていこう。
焼きたてのパンってそれだけでご馳走だよね。
「それじゃあ、ステーキにいきますか」
しっかり浸かったのを確認して、僕はステーキを焼いていく。
強火でさっと表面を焼く! っていうのが多いけど、それは違うんだよね。
別に表面を強火で焼いたとしても、肉汁を閉じ込めることはできない。場合によっては余計に出してしまうだけなんだよね。
ゆっくり、弱火で。
じっくり火を通していくのがコツなんだよね。
あまり熱くしちゃうと意味がないので、火加減は慎重に。数分してからひっくり返す。肉の表面は色が変わったくらい。これでいい。
「随分慎重なんだな」
「はい。ジューシーに焼くためなので」
狙いはミディアムレア。
ゆっくりと火を通していこう。
「その間に、と」
バッケ。ふきのとうだ。
芽が出たばかりのじゃないと苦みが強いんだよね。水でさっと洗って、よーく水気を切っておく。
森で見つけたのは山菜だけじゃない。
炭酸泉もあったんだ。これはラッキーなんだよね。
まずは冷やした炭酸水に卵黄をいれて混ぜて、そこに小麦粉と片栗粉を溶かして、さっくり混ぜる。衣は混ぜすぎたらダメですよ、と。
「さっと衣をつけて、熱した油に、と」
油は抗酸化作用が強いものを選んでる。
じゅわ、じゅわわぁ。
んー、気持ちいい音。
注意しないといけないのは温度。とくにバッケは中まで火を通す必要があるから、じっくりめにね。次にシイタケ。これは市場で買ったものだ。肉厚で大きいんだよね。
石突をとって、しっかりと切れ目をいれて、火が通りやすいようにしてあげないとね。
これも衣をさくっとつけて、揚げていく。
からからからっ。
と音が変わったらおっけー。
しっかりと油切りして、余分な油分はしっかり抜いて。後は揚げたての状態を保存できるように魔法をかけておく。ちょっとずるいけどね。
「それじゃあ、ステーキはどうかな」
うん、いい感じ。
天ぷらを揚げてる間も何度か見て裏返してるしね。
最後に強火で焼き目をつけてからお皿に移して包んで、数分間休ませる。最後にコショウをかけて完成! これで中身はミディアムレアだ!
「できました!」
「おお、とんでもなくいい匂いがするな!」
「はい。手間暇かけましたからね。間違いないですよ!」
今すぐかぶりつきたいけど、ちゃんと盛り付けして、まずはメメコレオウスに。
「お待たせしました。どうぞ」
焼きたてパンに、あえ物。そして天ぷらとステーキ。さらにスープ!
すっごく豪華だなぁ。
メメコレオウスはくんくんと鼻を鳴らしながら近寄ってきた。じゅるり、とよだれを流している。うんうん、いい反応だぞぉ。
『ほう……』
「ステーキはお塩で食べてくださいね。ちょんちょんとつけて食べるのがコツです」
『これか』
「俺も早速いただくぞ」
「僕も。一緒に食べましょう」
まずは、と言わんばかりに、フィブリアさんがステーキにナイフをいれる。僕も僕も。
すく、とナイフが抵抗感なく入っていく。切れ目からは、うっすらピンク色のお肉! 綺麗なサシも入ってる。溶けるか溶けないかってくらいの、いい感じ!
もうこれだけで柔らかいって分かるんだけど……食べてみよう。塩も岩塩だけじゃなくて、レモン塩にしてるんだ。
塩を少しだけつけて、と。
はくっ。むぐむぐ。じゅわ、とろーっ。
こ、れ、は!
フィブリアさんは「うぉっ」と驚いて、かぶりついたメメコレオウスも目を見開いて一瞬固まる。うん、そうだよね、そうだよね。
「ん~~~~~~っ!」
美味しさが爆発した~~~~っ!
「塩のせいなのか? 肉の旨味がめちゃくちゃ濃厚だぞ!」
『すごい肉汁が口で溢れる……っ!』
「めちゃくちゃ柔らいのに、弾力もあって、すっごくジューシー! とろとろ溶けていく感じですねぇ! すっごい美味しい!」
これは熟成肉の影響が大きいなぁ! 凝縮してる!
とんでもない旨味の爆弾だよ、これ! うーん、すごいものもらったなぁ!
パンと一緒に食べると、もうたまらない!
「なるほど、付け合わせとスープは本当に大事だな。美味い」
『舌が痺れるくらいの旨さの後に、さっぱりとさせるためか。色もきれいだな』
「スープは優しいのに旨味がすごいな。甘いくらいだ。でもすっきりする。ハーブか」
キノコの出汁がベースだからね、うん、舌がよく休まるよね。
「次は天ぷら、と」
「バッケ、っていってたな?」
「はい。美味しいですよぉ」
言いながら僕は一つつまむ。鮮やかな緑に、仄かに黄色い天ぷらの衣。見るだけでいいよね。これも塩を少しだけつけて、食べる。
さくっ、さくさくっ。
んっ、んんっ! あつつっ。
美味しい! 塩気から、ほんのりと甘さが! 食感もさくさくだっ!
奥からやってくるのは、お野菜の風味と僅かな苦み。これ、たまらない塩梅!
「ほふぅ、大人の味だな」
『だが、これはこれで味があるな。滋味というものか』
「シイタケの天ぷらも美味しいですよ」
さくっ、むちっじゅわぁーっ!
こっちは肉厚でしっかり歯ごたえもあって、旨味がしみだしてくるんだよね。
噛んでて幸せ! キノコの旨味って本当に美味しいよねぇ。
もうここまで味わうと、止まらない。
メメコレオウスもばくばく食べて、あっという間に完食!
フィブリアさんも僕もお腹が空いてたので、あっさりと食べちゃった。うーん、お腹がもったりしないステーキだなぁ。本当に美味しかった。
「うむ。ごちそうさまでした」
『……確かに、これはいいものだった』
「認めてくださいます?」
舌で口周りを舐めとりながら、メメコレオウスは低く唸った。
よし、やった。
そんな思いで問うと、頷く。
『ああ。人間とは、こういうものを食べているのか?』
「毎日ってわけじゃないですけど……それに、これだけじゃなくて、色んな料理があるんですよ。僕らの楽しみの一つですね」
『これが料理、なんだな……』
「美味しい料理のためには、この岩塩がどうしても必要不可欠なんです。だから、解放してくれませんか?」
『……そうか、そういう目的で、か。なるほどな』
あれ? 何か変な解釈されたような?
「おそらくも何も。メメコレオウス。こいつは単純に美味しいご飯を馳走して機嫌を良くしてもらって、悪いことをしないようにってお願いするつもりだったと思うぞ」
『……そうなのか?』
「ええ、そうですね」
というか、笑顔になってほしいだけ。
『ぷ、は、ははははっ! あっはははははははっ!』
こらえきれなくなったように、メメコレオウスは笑った。何もかも吹き出すような、そんな笑い声だ。
『負けだ負けだ。こんな人間と出会えるとはな! まったく、バカらしくなった。いいだろう。岩塩には手を出さない。いや、むしろ人間を守ってやろう。ただし、密猟者といったアホどもには容赦しないがな』
「それはまぁ、仕方ないので」
『はっはっは! そうだ、またこの森にきたら、飯を食わせてくれるか?』
「もちろんです!」
メメコレオウスのお願いを僕は何度も頷いた。
うんうん、良かった良かった。これで万事解決だね。
ステーキって、低温で焼くとジューシーになりまくります。
是非是非試してみてください。
ランキングのったようです。
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